OIS-013「どの世界にも危険はある」
「休み明けだからってだらけないように! 解散!」
GW明けの朝礼は、いつものように長ったらしい物だった。
まったく、学校の朝礼や校長の話はどうしてこうも長いのか?
休みの間に、どこかにでかけていて日焼けしただろうクラスメイトも複数いるようだ。
俺は……結局佑美の異世界行きの手伝いをしてるうちに終わってしまった気がする……。
(まあ、楽しみはあるからいいか)
正直、こうして現実?世界であれこれしてるのも、その意味では楽しさがあるのだ。
それは前に感じたように、ゲームのようだという気持ちもあるんじゃないかなと思う。
けど、そんな気持ちも佑美からの報告や、彼女の表情を見るとどこかに吹き飛ぶのだ。
「まずは、学校生活を無事に過ごしてからだな」
気が付けば、いつも佑美と異世界の事ばかりを考えてしまう。
それにかまけて、成績が落ちるようでは本末転倒だ。
佑美には、異世界で勉強するという裏技があるけれど、俺には無い。
放課後は勉強にあまり使えないことを考えると、授業がとても大切なのだ。
最近、集中してるなって言われるからな、成果は出てると思いたい。
ちなみに、俺も佑美も部活には入っていない。
実質一人暮らしだから、と言えば引き下がってくれるのだ。
まあ、中には好きなだけ部活できるじゃん!?なんていう人もいるけど、じゃあ家事はどうするの?で終わりだ。
「佑美、先いってるぞ」
「え? あ、待ってよ!」
いつものように放課後になり、思い思いに部活や帰宅となる時間。
友達と話してるらしい佑美に声をかけ、一人買い物をしながらと思ったがすぐに佑美もついてきた。
「なんだ、よかったのか?」
「また学校で会えるもの。こっちのほうが大事でしょ?」
まっすぐ見つめられ、そんなことを言われてはドキドキしてしまう。
佑美は最近、綺麗になったと思う。
正確には、輝いてるというべきか。
恐らく、異世界で人に頼られたり、誰かのために何かを頑張るというのがいい経験になっているんだろう。
自分で言うのもなんだが、俺たちぐらいの子供だと、地球じゃ出来ることは少ないもんな。
そんな彼女が、俺との行動の方を優先する、となれば……。
「お一人様1本だものね、しょうゆ」
「だと思ったよ、チクショウ」
我ながら、都合のいい考えだったなと反省しつつ、少し前を歩く。
意識したわけでは無いけど、佑美は歩道側、俺が車道側。
学校の後の、スーパーまでの道のりは夜の話が多くなるタイミングだ。
「調味料は持ち込むと出所が問題になるし……風邪薬ぐらいかな?」
「直接的な物より、数がある予防みたいなのがいいかもしれないなあ。後は、お腹のやつ? 子供やじいちゃんとかはお腹壊しやすいだろうし」
本当は、異世界に物品は持ち込まない方がいいのかもしれない。
でも、それを言ったら佑美は服も着ずに行き来すべきとなってしまう。
一番の問題は、佑美に見捨てることを選ばせるのは、無理だということだ。
最初に心配していた、風土病や風邪の持ち込みは今のところ、問題はなさそう。
もしかしたら、あの扉をくぐる時に不都合がある物は通れないのかもしれない。
(癒しの魔法は、あまり使わせない方がいい……と思うんだよなあ)
カンでしかないのだけど、出来るだけこれに関しては使いすぎないように注意すべきだと思う。
少なくとも、村だけでなく町やそういった場所で、魔法使いの事をもっと佑美が知ってからだ。
不老長寿とは違うけど、昔から権力者は自分の命を気にする。
そう、佑美という癒しの使い手を、誘拐してでも確保しようとする輩がいないとも限らない。
他にも、もしかしたら癒しの魔法を使い続けることで、相手がガンになってもいけないと思うのだ。
「私も護身術とか習った方がいいのかな? 向こうでさ、5歳ぐらいの子も、森だと木に登って逃げるし、それが出来ないときは何でも使って逃げようとするの。鬼ごっこも全然勝てないんだよ!」
「そりゃあ、なあ?」
向こうは、命の危険がある世界だ。
こっちで、車にひかれないように気を付けるのと、同じ。
怪物や獣に襲われ、命を落とさないようにという生きる術なんじゃないだろうか?
「半端に覚えると失敗しやすいっていうし、そういう人が向こうでいたら、でいいんじゃないのか?」
「うん、そうする。幸い、最近体の調子がいいんだよね。こう、目覚めも良くって」
「その割に、寝坊してるときもあるみたいだけどな?」
言い訳を口にしながら、慌てる佑美の姿は……なるほど、確かに健康的に見える。
元々、別に不健康だったわけじゃないけど、少し体も引き締まっている。
異世界で、野山を歩いてるだろうし、畑仕事も手伝ってるに違いない。
勉強も、体作りも佑美の方が時間と機会があるというのは、ちょっと……いや、だいぶ焦る。
「家で筋トレすっかな……」
「ん、何?」
「何でもない。ほら、買って帰ろうぜ」
主婦でにぎわうスーパーにたどり着き、俺たちも日常の戦いに身を投じる。
夕方ともなれば、目当ての物は数少なくなってるだろうからだ。
普段から買い物はしているから、たくさん買うということは無い。
セール品と、今日のご飯用の追加分を買って、荷物は俺が持つ。
「私だって別に持てるよ?」
「いいさ、このぐらい」
多少は、ここで佑美に持たせてると俺の方が変な噂が立ちそうだというのもある。
どちらかというと、少しでも佑美の負担を軽くしておきたいなと思ったからだ。
夕暮れの帰り道、自然と言葉は少なくなっていた。
「村の近くにね。怪物が巣を作ったらしいの。村の男の人と、冒険者さんが退治にいくんだって」
「そう……か。やり直しは効かない。わかるだろ?」
「うん……うん」
言いながら、多分佑美は何もしないではいられないだろうなという直感がある。
第一、俺が佑美と同じ立場だったら、きっと何かをしてしまうだろう。
一人でどうにかすることは無理でも、戦うという人たちについていってしまう。
佑美も、きっと異世界に行ったきりの状況で戻ってこれないなら、覚悟を決めてると思う。
けど、現実はそうじゃない。
戻ってこようと思えば戻ってこれるし、向こうで失敗したらその結果は背負うことになる。
世の中、都合よく行くとは限らない。
しかし、しかしだ。
「例えばれてもいい。いつでも戻ってこられるように、扉の魔法は上手く使うんだ」
「あっ……うんっ!」
結局、俺は佑美をその意味では止められなかった。
そうして、帰宅した後は無言の、夕食。
防犯ブザーや懐中電灯、そのほかを持たせることぐらいしか……出来ない。
「待ってる」
「行ってきます」
巻き込まれた形じゃなく、初めて……佑美がトラブルに首を突っ込む。
そのことが、いかに自分の心をかき乱すのか、送り出してから痛感するのだった。