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OIS-011「負けたくない気持ち」


 ゴールデンウィークは、俺にとっては大事な時間となりそうだった。

 気合を入れた結果か、休みだからと遅くまで寝ることはない、非常に健康的な生活だ。


「朝は、ここまで走って……図書館が開き次第、調べ物……よし」


 佑美は、朝早くというか夜中に帰ってきたのを確認している。

 まったく、あれだけ長くいすぎるなよと注意しているのに……。

 とはいえ、問題が無ければ向こうで過ごす時間が増えるというのもわからないでもない。


 一番の問題は、あっという間に伸びる髪の毛とかだろう。

 このあたりは、日々自分で整えてもらうしかないかな。

 疲れた感じなのは、どうしようもないのだけども……。


「向こうで寝てるみたいだから、気疲れ……いや、お風呂がないからかな……」

 

 実際、向こうから帰ってきた時の服装は基本的に汚れている。

 向こうで、畑仕事を手伝ったりもするみたいだし……うん。

 元々、別に洗っているけど、単純に土汚れが移りそうで一緒には洗いにくい。


「ご飯も準備したし……なんだか、主夫にでもなった気分だな」


 つぶやきながら、外へと出れば、初夏が近い日差しが、降り注いでいる。

 今日もいい天気で、運動するにもいい気分だ。


 俺が運動を始めたのには、訳がある。

 ものすごく単純な話で、佑美に負けたくないからだ。


「魔法を使ったりすることで強くなるとか、すごいよなあ」


 ゲーム的に言えばレベルアップ、スキル上昇、といったところだろうか?

 彼女の持つという癒しの力が、働いてるのだろうかと予想している。

 その力が、最近向上してるようなのだ。


「体育の授業でも、抑えるように言わないといけないのか?」


 独り言が、朝の町並みに溶けていく。

 だんだんときつくなっていくのを感じながら、独り言は少なくなっていった。


 そのうちに、予定通りに神社へとたどり着いた。

 名前も良く知らない、地元に昔からある神社だ。

 階段を、気合を入れて駆けあがり……お参り。


「神頼みが通じるとは、思えないけど……うん」


 ここでそう思うのは、失礼なのかもしれない。

 けど、考えてしまうのだ。

 なぜ、佑美だったのかと。


「佑美が、決断するとき、俺は……」


 私と仕事、どっちが大事なの!とは、よく修羅場なお話で見るシーンだ。

 俺も、佑美に自分と異世界、どっちを取るのかと問い詰める日が、来るのだろうか?

 出来ることなら、来ないのが望ましい。


(そう、俺たちはまだ子供だ)


 もう大人で、自立しているのならありなのかもしれない。

 でも、まだ俺たちは大人じゃ、ない。


 今は戻ってこれるけど、この先もそうである保証はどこにもないんだ。

 もしかしたら戻ってこられないかもしれない、両親やみんなと会えなくなるかもしれない。

 そのことを、佑美はわかっているのだろうか?


「佑美だけに考えさせるのは、卑怯か……」


 まだ、お守りも売っていない時間帯。

 木陰で立ち止まり、空を見上げればここだけは別世界のように感じる。

 火照った体を、吹き抜く風が冷やし……俺の心も落ち着く気がした。


「本当にそうするなら、内緒は駄目だな」


 佑美がどういう決断をするにしても、両親に内緒のままというのは駄目だと感じた。

 異世界、と言えば仰々しいけど、他の国に行って暮らすのだって、異世界に行くようなもんだ。

 言葉だって通じないし、文化も違う。帰ってこられる保証だってない。


 問題は……。


「俺が、行けそうにないってことだな」


 認めよう、俺は悔しくて、嫉妬をしていると思う。

 俺だって経験してみたい、ついていきたいという気持ちが間違いなくあるのだ。

 それとは別に、別の感情もある。


 佑美を、危ない目にあわせるかもしれないという恐怖。

 本人はどこまで自覚してるかは、わからない。

 それこそ、女性としては死ぬのと同義ぐらいの目にだってあうかもしれないのだ。


「被害にあってからじゃ、遅いんだよな……」


 だから、俺は今日も神社でお願いをするのだ。

 名前も知らない、本当にいるかもわからない神様よ。

 別の世界ではあるけど、佑美を守ってやってくれと。


 とても迷惑な話だろうけど、願わずにはいられない。

 不思議には、不思議で対抗するしかないのだ。


「さて、帰って起こすか」


 いい加減、起きてるとは思うのだが……どうだろうな。

 簡単にストレッチをして、来た道を戻っていく。


 動き出した町を横目に、自宅……ではなく、佑美の寝てるだろう家へ。

 ふと、郵便受けに手紙が入ってるのを見つける。

 ダイレクトメールじゃなく、ちゃんとした手紙だ。


「もしかして……やっぱり!」


 汗臭いかもしれないという気持ちを横に置き、勢いよく中へ入り、二階へと上がる。

 ドアを開けようとして、もし着替えてるところだったらと思い直し、ノック。


「はーい」


「入るぞって、おい!」


 せっかく気を使ったのに、佑美はこちらに背中を向けて、パジャマを脱いでいるところだった。

 慌ててドアを閉めて、外で待つ。


「佑美の奴……」


「着替えたよー」


 顔に手をやって呟いていると、そんな声が帰ってきた。

 どっと疲れた体を動かしながら部屋へと向かえば、今度はジャージ姿になった佑美がいた。


「別にいいでしょ、ジャージでも」


「まあ、いいけどさ。ほら、手紙だ」


 はじくようにして手渡した手紙、差出人は佑美の両親だ。

 休みの後半に、顔を見に戻ってくる、という内容。


「言い訳、どうしよっか」


「まあ、なんとかするしかないだろ、うん」


 波乱の知らせは、俺たちの関係が変化することを知らせているかのようだった。





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