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OIS-000「告白は突然に」

異世界に行かない側が主人公です



「あのね。私……異世界で聖女やってるの」


「聖……女?」


 何もなければ、ゲームのことか?なんていうところだが、残念ながら証拠は俺自身が目撃している。

 映画でしか見たことがないような衣装を身にまとい、見慣れたはずの部屋で座り込む幼馴染。

 そして、その背後にはベッドがあるはずの場所に浮いている、妙な扉。


 その時の俺は、人生で一番ポカーンとしていたと思う。

 周囲からは時折、仲の良さをからかわれるぐらいには良い仲な幼馴染。

 出来るだけ、続いて欲しい仲の相手からの、突然の告白だった。


 思い返せば、これまでのあれもそれも、実はそうだったのか?と思う。

 一番最初に、変なことを言うなあと思ったのは、高校2年になった春の事だった。





「なんだ、寝不足か? ゲームでもやってたのか?」


「え? う、うん……」


 何度も、繰り返してきた朝。

 そうと決めているわけじゃないのだが、今日も幼馴染である佑美ゆうみと登校だ。

 いつもなら、学校や親の愚痴なんかを適当に話しながらの道すがら。


 今日は、随分と眠そうだった。

 学生にとって夜更かしの敵である両親が、家を空けがちなのはお互い様。

 自然と、2人で遊びに行くか、どちらかの家でゲームをしたりTVを見たり。


 俺自身、うっかり熱中して寝不足なんてのも良くある話。

 だから、軽い気持ちだったのだけど……。


「クリアできないーとか、そういう話か?」


「残念だけど、ぶっぶー。ねえ、たっくん。畑ってどうやったら良くなるのかな? 広げたのは良いけど、思ったように育たないの」


 畑? 畑……か。

 突然だけど、長く一緒にいるから主語やらなんやらが省かれた会話もよくあることだ。


 悩みがありますって顔をする佑美は、俺から見ても美人の類だと思う。

 秀才型の頭に、たぶんダイエットだろうために運動は欠かさず身体能力もそこそこ。

 髪も背中まで伸びている、半年だけ年下の幼馴染だ。


 俺のことを、たっくんと呼ぶのは昔から変わらない。

 そんな彼女は、俺と同じく趣味はどちらかと言えばインドア。

 主にゲームが好きで、同人ゲームにも手を出しているようだった。

 そこから考えると……。


「なんだ、シミュレーションゲーでも始めたのか。そうだなあ……肥料はまあ、省くとして水や日当たりは当たり前だけど、他にも土地の酸性度が影響するって聞いたことがあるな」


「酸性度? それって酸性とアルカリ性のあれ?」


 まったく、朝から頭を使わせないでほしいところである。

 以前読んだ話で、情報が古いかもしれないがと前置きをして思い出した限りを話す。

 確か、一部は酸性を好むけれど、多くはややアルカリ性に傾いていた方がよかったはず。


「実際は、やりすぎに注意なのは肥料と一緒らしいな。あくまで、改善用だ。って言っても、ゲームにそこまでリアルな項目があるのか?」


「え? ええっと、多分! さっそく今日の夜に試してみるわ!」


 元気そうに先に行く佑美を見送る俺だが、すぐに再会することになる。

 結局同じクラスなのに、何故先に行くというのか……謎だ。


 特別なことはなく、適当にクラスメイトとだべりつつ、日々を過ごすわけで。

 退屈な授業が半分終わり、お昼。


「相変わらず、お手製弁当か」


「買ってたら、金がいくらあっても足りないからな」


 自分でも、男子高校生が食べる弁当としては手がかかりすぎなような気がしないでもない。

 ただ、今言ったように自炊がなんだかんだお得なのだ。

 1人じゃなく、2人だからな。


「今日も嫁と一緒の中身か」


「別にそういうんじゃないさ。節約だよ節約」


 浮ついた声にならないように気を付けながら、級友に返事をする。

 食べる時間が無くなっちまうなんて誤魔化しながら、食事だ。


 ちらりと見た佑美は、あちらも友達と一緒にお弁当のようだ。


 代り映えしない日常は、今日も無事に終わりを告げる。

 日直の俺は、ゴミ捨てやらを行う必要があるが、佑美はそうじゃない。

 けれども、1人で帰ることはない。今日は一緒に帰る日だからだ。


「さてっと……佑美は……いた」


「もう、たっくんおっそーい!」


「悪ぃ悪ぃ」


 校門で待ちわびる佑美の姿は、なるほど……見ようによってはそう言う関係に見える、か?

 俺としては、妹という訳でも、全くの他人という訳でもない微妙なところ。


 わざわざ待ち合わせをしてどこへ行くかと言えば、スーパーである。

 いわゆるおひとり様何個までってのを買う必要があるのだ。

 二人で作ると決めた日は、こうして一緒に帰る。


「父さんたち、元気みたい」


「そりゃよかった」


 俺と、佑美の両親は職場の同僚だ。

 正確には、父親同士が同期で、母親たちはいくつか後輩らしい。

 深く聞いたことはないが、海外支社もある商社らしく、海外出張が多い。


 俺や佑美が大きくなるまでは、近場ですんでいたらしいけど、最近はそうでもなくなってしまった。

 今も、どこだったか他の国に4人で長期出張中なのだ。

 結果、話し合いの末に俺と佑美は家に残り、少し早い独り立ちの特訓と相成ったわけだ。

 週の内、半分は食事を一緒に取ること、なんて決まりも出来たりした。


「年頃としては、ありがたくもあり、寂しくもありってね」


「自由なのは間違いないわよね。ほら、本棚の奥の」


 ぎょっとして振り返れば、佑美がニヤニヤとこちらを見ていた。

 からかわれた、と気が付いたときにはため息1つ。

 

「そんなこと言うなら、ピーマン増やすぞ」


「ええ!? それは無しでしょ!? ごめんなさい、タク兄!」


 まったく、こんな時だけ兄扱いだ。

 半年だけ先に産まれただけなんだけどな……まあ、いいか。


「心配するな。今日は魚が安いらしいってチラシにあった」


「ホント?」


 そんな何でもないような会話をしながら、2人して店内を見て回る。

 すぐ隣に佑美がいて、買い物をしてる姿は、確かに誤解を招きそうではある。

 今さらというぐらい、一緒にいるのだが。


「あら、佑美ちゃん。今日は作るの?」


「え? はい、そうですっ」


 売り場のおばちゃんの声に、妙に焦る佑美。

 こいつ、また小腹が空いたとき用にインスタントを買い込んだな?

 ちなみに佑美は家事が得意だ……料理以外。

 放っておくと、自分だけの時にはすぐインスタントで済ませようとするんだよな。


「こんにちは。サンマください」


 ちなみに、お金の面は余り気にしていない。

 無駄遣いは出来ないが、生活費としては十分な量のお金が両親から振り込まれている。

 やや高いように感じるのは、一人にさせているという親の負い目だろうか?


 少し、気になることを抱えつつ、2人で帰宅。

 今日は俺の家のほうで食事だ。


 慣れた手つきで、料理をして2人で食べる。

 まるで同棲してるようだけど、この後は佑美は家に帰るからそんなことはない。


 宿題や、入浴を終え夜。

 家族用の家に、自分一人。こんな時、妙に音が大きく聞こえる。

 ちらりと、窓を見ればまだ灯りのある向かいの家が見える。


「また夜更かしか……ま、あれなら注意だな」


 余り気にせず、寝ることにした。

 良い夢……見れるかな?



 翌朝は、鼻に届く良い匂いで目覚めた。

 体を起こし、しばらく部屋を見渡して……犯人が1人しかいないことを思い出す。

 お互いの家の、合いカギを持っている人間の仕業だ。


「佑美、来てるのか。今日は当番だったか?」


 何かの話で、一人暮らしだと独り言が増えるって言ってたけど本当だなと思う。

 手早く着替え、下に降りれば匂いの元が近づいてくる。


「おはよう、佑美」


「おはよう! すぐできるわ」


 佑美は、料理が得意ではない。出来ないというわけでは無いのだが。

 だから、こうして香るのもインスタントの味噌汁だったりすることが多いのだが……。


「なんだ、おひたし作ったのか?」


「うん! 畑が良くなってからの初収穫! って、なんでもないわ」


 んん? なんか変なことを言ってたな。

 ああ、昨日のゲームの話か? 上手く行ったから記念ってことか。


 手作りとなるおひたしは、なんだか初めての味がした。

 やはり、佑美に料理をさせるのは……でもまあ、特訓、か。

 俺は言葉を飲み込み、妙に野性味あふれる……土臭いとは違う、それを食べ進める。


 うん、最初は風味が気になったけど、食べるほどになんだか癖になる。

 ただのおひたしなのに、ご飯がそれだけで食べられそうだ。


「これ、美味いな」


「ほんと!? やった!」


 なんとなく、彼女の腕というより素材の問題だと思うけど、そこは言わないのが華。

 その後も食事を終え、いつも通りに学校へ。

 今日もまた、日常が始まる。


(ウチにおひたしにするような青菜、あったっけか?)


 ちょっとした不思議が絡みつきながら。





 

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