ペリシテの来襲
イスラエルの陣営にペリシテ軍が迫っているという。
ペリシテ人は残酷で男は死ぬまで奴隷、女は性奴隷になると噂されている。
何時にもなくイスラエルの王宮はピリピリとしている。
「それが、大変なんだって。」
「ペリシテ人って、そんなに危ない人たちなの?」
「危ないなんてものじゃないわよ。まず、残酷で体が大きい。2メートルから3メートルもあるらしいわ。そして、負けたら男は全員奴隷にされる。死ぬまでボロキレみたいに働かされる。」
「それじゃあ女は…
私は思わず唾を飲む。
「生きている限り性欲のはけ口にされるそうよ。」
「そっそんな。」
「本当だって、今王宮で噂になって、みんなピリピリしてるんだから。」
「負けた国の女は、みんなそうなったんだって。そして、今度はイスラエル軍と戦争をするといっているの。」
「負けたらどうしよう。」
「モーゼ様の時みたいに、ヤーヴェが助けてくれたらいいのだけど。」
私たちは、朝の水くみ場まで、もう少しのところまできた。
「マナさん。隠れて。」
「ええっ。」
水くみ場までもう角一つのところで、ミカルは私の手をぐいっと引っ張り
壁に身を隠す。
「ちょっとミカルどうしたの?」
私は声を押し殺して、ミカルの耳元で尋ねる。
「今、水くみ場にマアサ様がいるのよ。何かお祈りしているみたいだけど。」
「お祈り?」
私とミカルは壁から顔を出し、こっそりとマアサ様を見つめる。
本当はこんなこと好きではないのだけれど、ついつい見入ってしまう……。
マアサ様は手を胸のあたりで組んで、神に祈っているようだ。
「神よ、私に憐れみをおかけください。子を宿せないみに、あなたの祝福をおかけください。」
マアサ様はこんなにもお悩みだったのか。
「これでは、結婚もできません。どうか、あなたの力をお貸しください。」
マアサ様は祈りを終え、涙を拭うと仕事場のほうへ行ってしまった。
鉢合わせしなくて良かった。
「ふう。あぶなかったね。マナ。前にもあそこで祈っていらしたわ。マアサ様は誰かが結婚された後とか、子供ができたという話を聞くとかなり機嫌悪くなるんだよ。」
「そうなんだ。」
「まあ、気持ちはわからなくはないけどさ。私たちに当たるのはやめて欲しいわ。」
私たちは王宮に行き、ヨナタン様の身の回りの世話をする。
「失礼いたします。」
部屋に入ると正規軍の隊長たちとヨナタン様が甲冑に身を包み話し合いをしていた。
部屋の空気がピリピリと張りつめている。
「マナ、そしてミカル。急いで無酵母パンと皮袋の水を10日分用意してくれ。」
「かしこまりました。ヨナタン様。」
私とミカルは急いで水と無酵母パンを厨房に取りに行く。
無酵母パンは、パン種の入っていないパン。簡単に言うと普通は膨らんでいる。それに対して無酵母パンは膨らまない、干からびたパン。
当然おいしくはないのだけれど、日持ちする。だから戦争のときは利用されることが多い。
私は水を10日分ヨナタン様の部屋に運ぶ。皮袋でできた水袋に今日汲んだ水を入れていく。
ミカルさんは無酵母パンを10日分と羊の干し肉を持ってきた。
「パンだけじゃ皆飽きるし、塩辛いものもあったほうがいいと思ってね。」
「ミカル、マナ。支度は済んだか。」
「はい、ヤギの干し肉も用意しておきました。」
「上出来だ。ウリア今すぐ出るぞ。ペリシテが高原まで来ているようだ。」
「はい、仰せのままに。」
屈強なウリア隊長。部下に指示を出し。荷物を運ばせる。
神への祈りを捧げるマナ。
そこに現れたのは・・・。