No.0.1「異世界の妹」
救急車のサイレンの音がする⋯⋯
救急隊の声がする⋯⋯
「今、俺はどんな状態なんだっけ⋯⋯」
「 ⋯⋯」
そのまま俺は意識を失った⋯⋯
暗闇に落ちていく⋯⋯
それから何時間経ったのだろうか⋯⋯
いや、何日が過ぎたのだろうか⋯⋯
俺には、分からない。ただ記憶にあるのは、意識を失う最後は吐き気がする程に苦しく、辛く絶望しか無かったと言う漠然とした記憶。
そして、もう楽になれるんだなと言う安堵感だけだった。
「 ⋯⋯ちゃん⋯⋯きて⋯⋯」
「⋯⋯おに⋯⋯ちゃん⋯⋯」
俺は、意識が朦朧としながらも、微かに聞こえる女の子の声で徐々に意識が戻っていった⋯⋯
目を閉じているから分からないが、確かに女の子の声がする⋯⋯
「ーーお兄ちゃんーーきてよぉ」
俺は心の中で思った⋯⋯お兄ちゃん?
ど言うことだ、俺は30歳のオッサンだぞーー
「双葉お兄ちゃん起きてよ! もう学校の時間だよ!」
「ーーはぁ⁈」
⋯⋯学校?何を言ってるんだ、この女の子は。
俺は、社会人で30歳で普通の生活を送ってるんだぞ。
いや、待てよ俺は救急車で搬送されて⋯⋯
ーーって事は此処は病院なのか?
「やっと起きたぁ〜、お兄ちゃん! 一緒に学校行 こう?」
俺は突然の出来事に今の状況が理解出来なかったが、目を開けて目の前をよく見てみると、そこには高校生くらいだろうか、長い黒髪の綺麗な少女がいる。
そして、俺の上に何故か乗っている⋯⋯
俺は驚きのあまり咄嗟にその言葉を口にしてしまった。
「ーーえっ⁈ 君は⋯⋯誰れ?」
その言葉を聞いた少女は、一瞬この世が終わったかであろう表情を見せて口を開いた。
「⋯⋯えっ⋯⋯お兄ちゃん酷いよ⋯⋯」
「大切なっ⋯⋯妹のこと⋯⋯ウゥっ⋯⋯忘れるなんて⋯⋯酷いっ⋯⋯」
目の前にいるフリフリの学生服を着た少女は泣き始めてしまった。俺は泣く少女を見て耐えきれなくなり、話を合わせることにしたのだが⋯⋯
「ごめんな? お兄ちゃんが悪かったよ」
「本当にごめんな?」
いや、ちょっと待てよ⋯⋯俺は確か病院に運ばれたんじ無かったのか⋯⋯?
そして⋯⋯俺は30歳のオッサンで、名前は和人⋯⋯そう、急式 和人だ。
そして、ここは病院じゃない。どう言う事だ?
ーーいや、待てよ! この少女は俺のことをフタバと呼んでいた。そして、お兄ちゃんと呼んでいる。
この少女と俺は兄妹って事なのか? 俺は双葉?
えっ⁈ って事は、今のこの身体は俺の身体じゃない事になる。
俺の身体どこ⁈ 俺は死んだのか⋯⋯?
俺が今の状況を理解できずに混乱していると、その間に少女は泣き止んでいた。
「お兄ちゃん、炬兎葉の方こそ、お兄ちゃんの上に乗ったりして、ごめんなさい」
冷静になれ俺。冷静になれ俺。
んっ? コトハ?
この子は炬兎葉って名前なのか。
俺はとりあえず、この炬兎葉って言う自称俺の妹に色々と話を聴く事にしようと考えた。
しかし、綺麗な子だなぁ。そして、左の瞳が空色で、右の瞳が赤い。『オッドアイ』って聞いたことがあるそれなのか? そして⋯⋯スタイルが良い、と言うか巨乳だ⋯⋯
そして⋯⋯この状況はマズイだろ。
「あのぉ⋯⋯炬兎葉ちゃん? そろそろ降りてくれないかな?」
炬兎葉は顔を赤らめ慌てて降りた。
「あっ⋯⋯ごっ⋯⋯ごめんなしゃい」
そして⋯⋯何でこの子は泣きそうになりながら、身体をもじもじさせているんだ⋯⋯?
「⋯⋯炬兎葉ちゃん? 急にどうしたの?」
「お兄ちゃんが、炬兎葉ちゃんって言うから⋯⋯炬兎葉は恥ずかしいのぉーー」
「何時もは、炬兎葉って呼び捨てなのにぃーー。急にちゃんって呼ばれるの恥ずかしぃ」
可愛い子だなぁ⋯⋯そして純粋だ。
じゃなくて、どうこの子に怪しまれずに情報を聞き出すのかだろ。
考えろ俺。考えろ。考えろ。考えろ。
あっ、そうだ、もうこの方法しか無い。
「ーーあっ。ごめんな? 炬兎葉お兄ちゃん寝すぎたみたいで、頭おかしくなったみたいだわ。ははは⋯⋯」
ダメかなぁ⋯⋯
バレたかなぁ⋯⋯
炬兎葉は、じーーっと俺を暫く見つめている。
やっぱり誤魔化すの無理だったのか、と諦めかけた瞬間だった。
「えへへ。お兄ちゃんまた寝ぼけてるのぉ? お兄ちゃんは相変わらず、お寝ボーさんだね。」
えっ? 誤魔化せたのか?
いや、ニコニコ笑ってるし、俺が本当のお兄ちゃんじゃ無いって事は気づかれていないみたいだ。
俺は、双葉と言う人物がどう言う人間なのか、今は何年の何月何日なのか、色々と知らなければいけない。
「炬兎葉、お兄ちゃんな? 寝ぼけちゃって頭おかしくなっちゃったから、色々と教えてくれる?」
明らかに俺は変な事を言ってるだろう。誰が聞いても変な言動してるよな。俺が落ち込んでると。
「うん! 良いよ? 炬兎葉が何でも教えるよ。お兄ちゃんの何時ものゲームだもんね〜」
何時ものゲーム? 俺が『憑依』してると思われる双葉と言うこの兄は、妹に日常的に変な事を言うヤツなのかぁ? って、その事はいい。今は少しでも情報が欲しい。
「ははは。そうそう何時ものゲームだよ。だから、炬兎葉質問に答えてね?」
「うん! わかった! 今日は、お兄ちゃんの質問に答えるゲームなんだね!」
「炬兎葉は負けないよぉ〜」
何か、やる気満々だこの子。可愛い。
俺は、こんな純粋な子を騙していると思うと心が痛い。しかし、今は少しでも情報が必要だ。心を鬼にしなければ。
「質問1。俺の名前と生年月日は何でしょう?」
「お兄ちゃん質問簡単すぎだよぉ〜。炬兎葉大切なお兄ちゃんの名前も生年月日も忘れるわけないよ。」
「いい? お兄ちゃんよく聞いてね?お兄ちゃんの名前は竜眼 双葉。生年月日は平成28年5月3日生まれだよ。」
ーーはっ⁈ 今この子は何て言った? 俺の生年月日が28年5月3日って言ったよな⋯⋯確かに聞こえた。
平成28年だって⋯⋯いや、でも俺は確かにあの時の事を覚えてる。救急車で搬送された⋯⋯あの日は平成30年8月9日だった。
自分が死のうとした日を忘れる訳がない。
俺が平成28年生まれって事は、2歳の赤ん坊って事になる。
⋯⋯いや、おかしい。今はそもそも何年の何月なんだ? 訳が分からなくなった俺は、炬兎葉に確認してみた。
「なぁ⋯⋯今って何年の何月なの?」
「えっ? 今はね、『開星』6年だよ。『開星』6年5月31日だよ〜」
『開星』? 聞き慣れない元号だ⋯⋯平成から元号が変わると言ったニュースは聞いたことがあるが、まだ発表はされていなかった筈だ。確実に今が何年なのか知るためには、西暦で答えてもらうしかない。
「炬兎葉、質問その2。今は西暦何年でしょうか?」
「ん? 西暦? そんなの簡単だよぉ〜。今は2035年だよ」
ーーは!? 俺は自分の耳を疑った。
ーー2035年? 唖然としている俺に、炬兎葉は自慢げに話し始めた。
「因みにねぇ〜、お兄ちゃんは今年で19歳になったので〜す! お兄ちゃんの誕生日も覚えてるよ。ねーねーお兄ちゃん、褒めて褒めて〜」
俺は19歳なのか⋯⋯。いや、正確には炬兎葉の兄である双葉が19歳なのか。若いなぁ⋯⋯って違う!
俺はさっきから気になっていた⋯⋯そもそも俺が今いる世界は未来なのか、それとも異世界なのか。
んっ? 待てよ、さっきから炬兎葉の頭の上に『100』って数字が付いている。まるでモニターで戦闘値を測定しているかの様に。俺は炬兎葉に聴いてみた。
「ねぇ、炬兎葉? さっきから君の頭の上に見える
『100』って数字は何なの?」
「えっ? お兄ちゃん数字って何?」
「数字って、だから頭の上にっ⋯⋯ん?」
俺は気がついた。さっきまで『100』って数字が炬兎葉の頭上にあったが、今度は『0』と表示されている。
何故だ? 分からない⋯⋯いや、その前に此処は何処なんだろうか? 日本なのは分かる⋯⋯しかし、日本の何処なのか?
「ねぇ〜、数字って何?」
「ごめん、冗談だよ気にしないで? それより今、俺らが住んでる場所って何処?」
「なぁ〜んだ冗談かぁ。ん? 炬兎葉たちの住んでるところ? 『KS都市』だよ」
『KS都市』? また聞き慣れない単語が出てきたな。
「ごめん、炬兎葉『KS都市』って何?」
「ん〜もうっ。今日のお兄ちゃんなんか変だよ?
『KS都市』って言うのは、『界卿数裏学試験都市』。通称『KS都市』だよ。
お兄ちゃんと炬兎葉は、『KS都市』の『アレキテレス附属学院』に通ってるの」
⋯⋯もう訳が分からん⋯⋯謎の単語ばかり。
異世界なのかも、未来なのかもよく分からん。もうこうなったら、この質問しかない。
「ねぇ、炬兎葉? この世界に魔法使いはいる?」
我ながら厨二病全開な質問だわ。
でも、これで全てがハッキリする。今いるこの世界は異世界なのか、未来なのかが分かる。
「いるよ。『12人の魔法使い』が」
この炬兎葉の一言で確定したのだった⋯⋯
ーー今いるこの世界が『異世界』である事がーー
次回も続々と更新します。
異世界に搬送されてしまった主人公は、この後どうなってしまうのでしょうか。
色々と考えて執筆していきたいと思います。
是非、読者様の皆様お楽しみに。
次回の執筆まで今しばらくお待ちください。