戦争の話
「戦争の話」
とあるところに、何百年も戦争を続けている国がありました。
一つは海の国、もう一つは山の国です。
昔は憎しみ合う理由がありましたが、何百年も経った今は、心も和らぎ、許し合える余裕もあります。
しかし、両方の王様たちは、代々の王様の時から戦争が続いており、相手を倒すことを何百年も目指していたために、相手を倒すことしか考えられなくなっていました。
そんなお互い戦争をしている中、海の国の王子さまと山の国の王女様は恋に落ちてしまいます。
お互いが争っているので、王子様も王女様も、王様にそのことは打ち明けられずにいました。
二人は、国から離れた森で、密かに会っていました。
ある日のこと、いつものように、王子様と王女様が森で会っていると、旅のもぐらとひまわりが通りかかりました。
もぐらに何をしているのか尋ねられた王子様と王女様は、二人の身の上を、その旅のもぐらとひまわりに話しました。
すると、旅のひまわりが種を出してこう言いました。
「僕の種は食べた人の願いを一つだけ叶えるチカラがあるんだ。」
「二人で幸せになりたければ、そう願って食べたらいいし、戦争をやめたければ、そう願って食べたらいい。」
その種を王子様と王女様は受け取ろうとすると、草陰から、海の国と山の国の兵隊が出てきて言いました。
海の国の兵隊は言います。
「王子様、その種があれば海の国は山の国に勝つことが出来ます。」
山の国の兵隊も言います。
「王女様、その種を王様に渡して食べてもらって、海の国を倒しましょう。」
王子様と王女様は、お互いの国を倒すことなんて考えていません。
二人で幸せになりたかっただけなのです。
ですが、王様にも逆らえません。
二人が困っていると、海の国の兵隊と山の国の兵隊は、その不思議な種を一つづつ奪って走って国へ戻ってしまいました。
海の国の王様と山の国の王様がその種の話を聞いて種を食べたら、きっと両方の国は滅んでしまいます。
ですが、王子と王女は王様が怖くて意見なんか言えません。
ウジウジしている王子と王女を見て、旅のもぐらとひまわりも立ち去ってしまいました。
二人は、とりあえずお互いの国に帰ることにしました。
王子が海の国に入ろうとしていると、3人の天使がやっていきて言います。
「王子様、そっちはあなたの国ではないですよ。」
「反対のこちらがあなたの国です。」
そういうと、王子様を引っ張って反対の国に連れていきました。
王女様も、別の3人の天使に連れられて、反対の国に入って行きます。
国の中に入ったところで、二人の前にいた3人組の天使たちは消えてしまいました。
替わりに、海の王子の前には山の国の兵隊が、山の国の王女の前には海の国の兵隊が現れて二人を捕らえてしまいます。
王子と王女が捕らえられたと同じころに、王様に兵隊たちは、ひまわりの不思議な種の話をして、王様に渡していました。
お互いの王様は言います。
「この種さえ食べたら、相手の国を倒せるんだな。」
「ならば、さっそく食べて願おう。」
王さまが食べようとした時に、兵隊が王様のところに駆け込んできます。
兵隊は言いました。
「大変です。王子と王女が互いの敵国に捕まりました。」
二人の王様はびっくりして、種を食べるのをためらいます。
兵隊は言います。
「王様。早くその種を食べて相手の国を亡ぼすよう願ってください。」
二人の王様は言います。
「しかし、今この種を食べて願ったら王子と王女はどうなるのだ。」
兵隊は言います。
「一緒に死んでしまうかもしれません。」
王さまは種を食べるのを止めて言います。
「そんなこと親の私ができるわけないじゃないか。」
しかし、兵隊たちは言いました。
「何を今更いっているのです。」
「今までたくさんの兵隊や国民がそうなってきたではありませんか。」
「王子や王女もその一人にすぎませんよ。」
兵隊たちは、どんどんと二人の王様に迫って種を食べて願うように詰め寄ります。
王様たちは、兵隊の勢いに押されて種を食べて相手の国を亡ぼすようにと願いました。
しかし、何も起こりません。
兵隊たちは怒って王様に言います。
「王様。心から願いましたか?」
王様は言います。
「心から願えるわけがないじゃないか。」
「願えばその瞬間自分の子を殺すことになるんだぞ。」
覚悟が足りないと兵隊たちは怒って、今にも王様に襲い掛かりそうです。
その時、旅のもぐらとひまわりは、戦争の真っただ中の国の境目にいました。
すべて焼野原になっている光景の中、ボロボロになって逃げている少女がいました。
その少女は戦争で親も家もすべて失いました。
もぐらくんはその少女に話しかけました。
「君の国の王様も、相手の国の王様もみんな愚か者さ。」
「心から願っていないことを続けている。」
そしてひまわりが種をその少女に渡して言います。
「僕の種は、食べた人の願いを叶えるチカラがあるんだ。」
「君が本当に願えば何でも叶うよ。」
その少女は、疲れた顔でその種を食べて願いました。
すると、ふたつの国の武器は、砂になったり、泡になったりして消えてしまいました。
これでは、お互いに戦えません。
武器がすべて消えた話は、すぐに王様のところに届きました。
二人の王様は思いました。
「武器がないことを理由に休戦して、まずは王子と王女を助けよう。」
そして二人の王様は言いました。
「武器が無くては戦えない。」
「とりあえず、武器が準備できるまで休戦だ。」
王子と王女は二人とも自分たちの国へ無事帰ることが出来ました。
そうして、何百年間も戦争していた国は、戦わない日々を迎えることになります。
兵隊さんたちは今まで戦うことが仕事だったので、何をしてよいかわかりません。
それでも、仕事をして食べて行かなくてはいけないので、みんなで焼野原に道や畑や港などを作りました。
それがやがて、発展しきれいな街を作りました。
今まで戦争ばかりだった国民たちは、その穏やかな日々が大変気に入り、みんなでがんばってどんどん街を大きくしました。
今まで焼野原だった町が、きれいな町になったのを見た王様たちは、その町を壊してまで戦争を再開する気がなくなりました。
そして、今まで戦争していた両国は、今度は貿易という繋がりで協力することになったのです。
海の国の王子と山の国の王女は、戦争しないで協力するようになったので、王様に本当のことを話しました。
王様たちは大変喜んでお互いの結婚を認めました。
そして二つの国はお互いに共存しながら、平和に過ごしていくことになりました。
その後、戦争を止めた少女はと、ある他の国からきていた夫婦に助けられました。
ボロボロだった服を脱いで、その夫婦に新しい白いワンピースを着せてもらいます。
すさんだ、心もその夫婦からの愛情で少しずつ明るくなって行きます。
夫婦は、自分たちの家に連れて帰って新しい家族として迎えることにしました。
国から離れて、山を一つ二つ三つ越えた峠に、夫婦が暮らす家があります。
旅の途中、少女は日よけに赤いリボンのついた麦わら帽子をプレゼントされました。
少女はその麦わら帽子を大変気に入りました。
間もなくして、夫婦の家が見えてきました。
その家には、きれいな花を育ててる畑があって、夫婦の息子である青年が世話をしています。
夫婦が青年へ連れて帰った少女を紹介しました。
青年は、驚いた顔をした後、幸せそうな笑顔を向けて言いました。
「やあ、夢の中ぶりだね。」
少女も言います。
「そうですね。やっぱり私たちは自然と会える運命でしたね。」
その会話を聞いて、夫婦は不思議そうな顔をします。
青年と少女は、ニッコリ笑いながら言いました。
自分たちが夢の中で、もうすでに会っていることを。
青年と少女が、毎日夢で繋がっていた話を聞いた夫婦は、たいそう感動して、二人を温かな愛情で育てるのでした。
つづく。