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アイス

君と僕のアイス

初投稿です!

初めてなので柄にもなく緊張してますが、

ご一読頂けると嬉しいです(*^^*)


 その日は、熱中症で倒れた人が最も多い夏の日だったそうだ。



「今年も私のだーいすきなチョコミントアイスの季節が来たよっ!!!」


鬱陶しい日差しの中でも負けないくらいの笑顔で、僕の想い人は言う。


僕は、はいはいとあまりの暑さで目の前が眩みそうになりながらも同調する。


「ちゃんと聞いてるー?そう言えば蓮って、チョコミントアイス食べれたっけ?」


「んー、別に食べれなくはないけど好きって訳でもないからな~」


そう、蓮と呼ばれた僕は密かに片想いしている想い人であり、幼なじみの深雪からの質問に答えた。


「このくらいあっつい日は冷たいアイスでも食べなきゃ死んじゃいそうだなぁ~」


チラチラと横目で僕を見る、これは深雪が僕にアイスをおごってくれとお願いしてるいつものサインだ。


僕は彼女の可愛らしいお願いにどうしても断る事ができずにいたのと、うだるような暑さでそろそろ本格的に熱中症になりそうだなと思い至ったこともあり、しぶしぶ彼女の提案を受け入れる。









 幸い近くにコンビニがあったということもあり、向かっている途中で熱中症で倒れることなく無事目的のコンビニに着く。


コンビニに入った瞬間、クーラーの効いた涼しい空気を満遍なく堪能したいと思い立ち、しばらく店先で動かないでいたら深雪はさっさとアイスコーナーに行ってしまった。



「ねーねー、どのアイスが食べたいー?」


「いや、買うのは深雪じゃないから深雪に選択権はありませーん」


「ちぇっ、ケチー」


「ケチで悪かったなー」


「私やっぱりミントアイスが食べたいな~」


「他にも色々アイスあるぞ?」


「うんー。でも、やっぱりミントアイスがいいかな」


「じゃあ、俺もそれにしようかな」


「あ、話してたら食べたくなったっていうアレでしょ~」


「別にそんなんじゃねーし」


「素直じゃないんだから~」


「それ以上言ったらアイスおごってやんねーぞ」


「わー、ダメダメ!おごってください、お願いします!」


「はいはい」


 結局、一緒にレジに並んで二人分のアイス代を僕が払うことになったのは言うまでもない。







 僕らは、涼しいコンビニから更に暑くなった外に出るまでずっとくだらない言い合いをしていたが、来た道を戻るときは一緒に買ったばかりのアイスをお互い無言で食べていた。


アイスを選んでいる時にはああ言ったが、正直のところ話していて食べたくなったのが本音である。


そんな事は知るよしもない彼女はおごってもらって嬉しいのか、大好きなチョコミントアイスが食べれて嬉しいのか、そのどちらでもありそうだなと暑い中でも元気に鼻歌を歌っている。


その様子を微笑ましく見ていた僕だったが、これが後に最後に見る彼女の姿であることを知るのは目の前で全てを失ってからであった。









「蓮ってさー、彼女作らないの?」


そうアイスを食べ終わって暇だったのか、深雪は唐突にそんな事を聞いてきた。


「んー、別に今はいいかな。どうしてそんな事を?」


「そっかー、蓮って意外とモテるのに何で作らないか不思議だなって思って」


「いや俺、モテないぞ?そう言う深雪だって彼氏作らないのかよ?」


「蓮のことカッコいいって陰で評判になってるのにね~。それに、私は好きな人がいるからいいんですー」


「それを陰じゃなくて本人に直接言ってもらいたいくらいだな。へぇ、深雪にも好きな人っているんだな」


「いや、別に好きっては言ってないから。失礼な!私だって好きな人の一人や二人くらい平気でいますー」


「上げてから落とすなよ!しかも好きな人一人以上いるのかよ」


「そこは特別気にしなくていいの!じゃあじゃあ、好きな人はいないの?」


「ふーん。さぁ、どーでしょーね?」


「あー、とぼけないでちゃんと言ってよー」

「別に知ってどーすんだよ」


「いーじゃん、教えてよー」


「じゃあ、深雪の好きな人教えてくれたら教えてやるよ」


 そう言い合いながらも心の中では、深雪が好きになった奴に嫉妬しながら、自分じゃないと半ば諦めて精一杯応援してやろうって、どんな奴でも受け入れる覚悟を決めようとしていた。









「わかった!言ったらちゃんと教えてね?」


 そう彼女は、信号が青になったばかりの横断歩道を僕と一緒に渡ろうと隣に並び、笑顔でこちらを見ながら何かを言おうとしたその瞬間。


「危ないっ!!」


 どこからか聞こえた悲鳴にも似た声の方を確認する前に僕は彼女から突き飛ばされたため、あまりにも一瞬の事で意識が追いつく前に彼女の手を引き寄せる事が出来なかった。


 そして、目の前で起こった事を飲み込めた頃には、彼女は信号を無視してスピードに乗っていたトラックに轢かれて横断歩道から数メートル離れたところで体中から流した血から血溜まりを作って倒れていた。


 何で自分だけが生きていて、彼女は血を流して倒れている?この目の前の惨状は一体何なんだ?どうして助けられなかった?


 頭の中をグルグルと疑問が行き交い混乱しながら、血溜まりに沈んでいる彼女の元へ駆け寄った。




「深雪っ、深雪っ!何で、どうして!?なあ、目を開けてくれよっ!深雪っ!!」


 彼女は、僕の声が聞こえたのかうっすら目を開け、僕だけしか聞こえないくらい微かな声で、

「良かった……生きていてくれて…無事で……本当に…」


「やめろ、もう何も言うな。誰かっ!救急車を呼んでくれ!!早く深雪を助けてくれ!」


「蓮………聞いて…言わなきゃいけない事があるの…」


「やめてくれよ、そんな死ぬ前の最後のセリフみたいな事を言わないでくれ!死ぬなよ!今から救急車が来るはずだからそれまで…」


「自…分の…死ぬと…きくら…い……わかって…るよ」


「やめろ、やめてくれよ…まだお前に何も言えてないのに…」


「私…蓮の事が…好き…だったの……。ずっと……ずっと…好きだっ…た…。で…も、もう…一緒に…アイ…スを食べた…り、ふ…ざけあ…った…り出来…ない。私…の事…は…早く…忘れ…」


「何、言ってんだよ…何で今なんだよ!ちゃんと生きて元気になってから言ってくれよ!!俺も深雪のことがずっと好きだった!!何で、何でなんだよ!!どうして深雪が死ななきゃいけないんだ!!!」


「蓮………私の…事…は早く…忘れ…て……。私よ…り長生…きして…ね、ずっ……と幸せ…を願……って…いる…か…ら、愛…してる……よ、……蓮。」


「深雪っ!?待ってくれ深雪!!!」



彼女はゆっくりと瞼を閉じたが、2度と開かれる事はなかった。


彼女は思い残す事は何もないと言わんばかりの笑顔で永遠の眠りについた。


僕の大好きな、太陽のような笑顔で。


亡くなるところを見届けると、張りつめていた糸が切れたかのように僕は意識を失ったが、再び目を覚ましても彼女は生き返る事なく全てが夢という淡い期待は儚く散った。


意識を失った後、救急車が事故現場に着いたが、その頃には既に亡くなってしまっていたそうだ。


また、トラックは信号が黄色から赤に変わる時点でそのままスピードを出して渡ろうとした時に、歩道の信号が青になってしまい、二人組が歩いてきたのを確認して慌ててブレーキを踏んだが、間に合わなかったという。




 僕は、深雪が死んだ日から激しい後悔と己の非力さに何度も押し潰され、死んでしまった現実を受け入れられずに、家にあったクッションやソファを中にある綿を全て出すまで壊して暴れたり、自殺を図ろうと何度も包丁に手を伸ばしたこともあった。


また、眠ろうとしても頭の中で深雪の最後の姿が鮮明に浮かんできて、毎日僕の腕の中で徐々に冷たくなっていく感覚が何度も思い出され、日に日に死人のようになっていく僕を両親がいたたまれなくなったのか、ある日アイスを買ってきた。


ほとんど食事も喉を通らず、このまま死んで深雪の元へ行けるならそれでもいいと思っていた僕は、両親が買ってきたアイスを見て驚きを隠せなかったと共に深雪の葬式以来の涙を流したのである。


そのアイスは深雪と最後に一緒に食べたチョコミントアイスだった。









深雪のご両親には葬式の時にその日あった出来事全てを話し、ご両親は僕に最後まで傍にいてくれてありがとうと言ってくれた。


僕のせいなのに、こんな事になるならあの日アイスなんて買ってあの道を通らなければ。


ただ、ご両親には僕のせいで大事な娘さんを、、、本当に申し訳ありませんでした、としか言えなかった。


ご両親には深雪の事を聞いた。家でずっと僕の話をしていたらしい。


そして、今度家に連れて来たいことや、僕の事が好きで、出来れば付き合いたいといった事まで話していたそうだ。


深雪を失ってから生前の想いの全てを知った僕はその時にやっと涙を流せたのである。



僕は久しぶりにそのアイスを食べたが、あのときと変わらない味のはずなのだが僕は前よりしょっぱく感じた。


食べながら深雪が最後に僕に言った言葉を思い出し、今後の事を考えた。


深雪の為にも生きなければならない、それが彼女の最後のお願いだから。


それが僕に出来る唯一の事だったから。


僕は覚悟を決めると、開けていた窓から風が吹いてきて


『本当はずっと傍にいたかった、もっと生きていたかった。でも、ずっと見守ってるよ。頑張れ。』


そう、聞こえた気がした。








僕は、チョコミントアイスを食べたその日から少しずつ食欲も回復し、深雪が亡くなる前の生活とほぼ変わらないまでに戻った。


深雪がいない毎日はやはり、何か1つ欠けている気がしてならない。


彼女は僕の一部だった、無くてはならないものだった。


それは、死んでしまった今でも変わらない。


風景の中の至るところに彼女との思い出が溢れている。


笑った彼女、怒った彼女、泣いている彼女。


色々な表情の彼女が目の前に現れては消えていくのだ。


この胸の空いてしまった心の隙間が埋まることは一生ないだろう。








 *********







今日は彼女の何年目かの命日である。


あの日と同じかそれ以上にうだるような暑さになるそうだ。


僕は彼女のお墓の前に立ち、生前と変わらず他愛のない話を報告した後に花を活け、手を合わせ彼女の冥福を祈る。


そして、最後にいつものチョコミントアイスを僕が彼女が亡くなる時に伝えられなかった言葉や想いと共に、墓前に供え帰路に着いた。


供えたアイスに、僕はずっと変わらず深雪を愛し続ける、という想いを込めて。




 彼が去った後、天国の彼女へ届いたのかいつの間にかそのアイスは消えており、爽やかな風が辺りを吹いていた。








 ーFINー

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― 新着の感想 ―
[良い点] 当たり前の日々に起こりえる感じ 王道ですが感動しました。 [一言] 表現の仕方が好きです 頑張ってください
[良い点] 作品を拝読しました。僭越ながら申し上げます。 まさに青春ものですね。チョコミントアイスがこの物語のキーワードになっていますね。そして、大どんでん返し。息を飲む展開に胸が締め付けられる思い…
2018/03/09 18:59 退会済み
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