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たぬきは分類学的にイヌか、それともネコか

作者: 金切 白花

 お昼過ぎのオープンカフェで、いつものように私はタブレットを弄っていた。私の性格的に、こうやって外で仕事をする方が結構仕事がはかどるし、それにここで起こる出来事や噂話から仕事のヒントを得ることが多い。


 さて、ネタはないものかと周囲に気を配っていたら、初々しいカップルがやってきた。高校生くらいか、あるいは幼さが残るその顔立ちから中学生だろうか。緊張しているのか、女の子をエスコートする男の子の動きはぎこちない。女の子のほうも、男の子の制服の袖を握って不安げだ。

 普段デートでは使うことのない、ちょっと大人なカフェに背伸びをしてきましたという感じが微笑ましい。


 テラスのどこに座ればいいのか迷っていたその子たちは、私の隣のテーブルに決めたみたいだ。席についてほっと安心している二人。しかし今度はウエイトレスさんがやってきて、油断していた二人に水とメニューを差し出した。


 慌てて背筋を伸ばす二人に、私はにやにやしないように努めなければならなかった。

 水とメニューを受けとり、再び緊張を解く二人。互いの緊張が馬鹿らしくなったのか、その子たちはクスクスと笑顔がこぼれた。いい、実にいい。これは仕事を忘れて若い幸せのおこぼれにあずからなければと私は二人を盗み見ることに決めた。二人は、自然と水の入ったコップを同時に持ったことにまた微笑んだ。


 「そういえばさ」と男の子が話を切りだした瞬間、穏やかだった二人の空気が一変した。二人の顔が急に真剣になり、両者見合って見合って……同時に一気にコップの水を飲み干した。急激なその変化に、流石の私も? となる。

 空けたコップをガンッ、と置いて、男の子と女の子は同時に口を開いた。


「たぬきはぜぇったい!! イヌの仲間だよッ!!」

「たぬきはぜぇったい!! ネコの仲間よッ!!」


 おぅ……仁義なき戦いが始まってしまった。二人は眼光鋭く、さっき行った動物園でとか、檻の前にあった看板にとか話していることから、昨日から決着がついていないみたいだ。以下二人の主張をお楽しみください。


「いやあの顔はどう見てもイヌでしょのぺーんとした鼻面とかイヌでしょうよそうでしょ」

「まってまってたぬきは木登りが得意なんだよあの機動力はネコ以外ありえないよまったくもう」

「いやいやあいつの鳴き声はうーワンワンだから。ネコはそんな鳴き声じゃないでしょ」

「いやいやいやあの子の好物はマグロとかだからイヌなんかじゃないわよ」


 という具合で、議論は平行線のまま進むのであった。やがて白黒つけようじゃないかと荒い息でスマホを取り出す二人のもとに、物腰の穏やかな初老の店長さんがやってきた。


 二人は慌ててメニューを開こうとしたが、店長さんはそれを制して持ってきたこのカフェの名物、“アルティメット特盛フルーツパフェ、ポロリもあるよ”をゴトリとテーブルに置いた。

「あれ? まだ何も頼んでないですよ」と目を丸くする二人に、店長さんはニコリと微笑んでこう言った。


「これは私からのサービスになっております。どうかこれで仲直りしてくださいませ」


 すっかり喧嘩の熱が醒めてしまった二人は、店長さんに何度もお礼を言っていた。すると「ひとつよろしいでしょうか?」と店長さん。人差し指を立ててこう二人に提案した。


「お二方、ネットで正解を確かめる前に、もう一度動物園へ行かれてみてはいかがでしょうか。そしてよくよく観察した後、二人で正しいと思う解答を私めに教えていただけませんか」

「え、どうしてですか」

「そうすれば2回デートを楽しめますし、正解であれば当店にてまた特別にサービス致します」


 面白そうだと乗り気になった二人は、喧嘩をしていたことなどすっかり忘れて甘いパフェを楽しむのであった。


 ……後で店長さんに、なぜ大判振る舞いのサービスで二人の喧嘩を止めたのかと訊ねてみた。すると店長さんは、「たかがたぬき一匹のことで二人に喧嘩されても申し訳ないな……と思いまして」と困った顔をされていた。うーん、よくよく分からない理由だ。

 一礼して店の奥に戻っていく店長さん。そのお尻に、何かモフモフしたものが一瞬見えたのはきっと私の疲れ目のせいだろう。さて、原稿の続きを書くとしようか。

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[一言] 犬ですか?猫ですか?
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