プロローグ
「俺、神託を受けた。だから世界を救う旅に出る。」
カナタの突飛で唐突な、もはや妄言としか言えない言葉を受け、テーブルを挟んで座る彼の両親はただただ絶句するしかなかった。当然である。
「お、おいカナタ。確かに俺は農家を継ぐ必要はない。お前はお前がしたいことをしろと教えてきたが、さすがにそれは……。」
「そ、そうよカナタ……。そんなこと言うなんて、頭おかし……。いえ、熱でもあるんじゃないの?」
狼狽し、震えた声で発せられるその言葉を真剣な面持ちで聞き、しかしそれでもカナタは首を横に振る。
「ごめん、俺行く。どうしてもこうしたいんだ。」
言うことはもうないと態度で示すように椅子から立ち上がり、両親に背中を向ける。引き留める言葉を叫びながら彼に駆け寄ってくる両親の気配を横目に、彼は淡々と一言呟く。
「いままでありがとう。行ってきます。」
呟いたのは二言であったがそんな差異は当然どうでもよく、彼の言葉に内包された真摯な気持ちに、両親は二の句が継げなくなった。
静かになった家のドアを開き、カナタは外に出る。
「行こう、アイリ。」
「はい、マスター。」
長い金髪と纏った袖を切った茶色のローブを風に靡かせた、作り物としか思えないような美貌を持つ少女がこれまた作り物めいた無表情で村の門へと向かう彼の後ろをついて行く。
従順な従者を引き連れたような普段と違うカナタの様子にただならぬ物を感じ、村人は何も言えずにその姿をただただ見送る。
村の変わらぬ日常に現われた非日常の風景。それに村人はただただあっけにとられる。
これは、始まりの情景である。後に世界を救うこととなる、カナタ・デントライトとアイリーン・プレイヤーの物語の。
それでは、語り始めるとしよう。彼らの英雄譚を。
「アイリ、荷物を忘れた。」
「では、戻りましょうマスター。」
固唾を飲んで見守っていた村人達が一斉にずっこける。そんな非日常が生んだ非日常の光景の中を、気に留める様子もなく先ほど飛び出した家の方へとカナタは歩く。
――それでは、語り始めるとしよう。彼らの英雄譚を。
……別に、出鼻をくじかれたとは思っていない。
それはともかく、この後平然と家に戻ってきた息子を見て、やはり両親もずっこけると共に、育て方を間違えたと思うのであった。
ほぼほぼ先行き未定の、行き当たりばったりな作品です。
不思議な雰囲気のカナタとアイリに引っ張ってもらって、楽しいものが書けたらいいなと思っているのでよろしくお願いします。