第三話 ワイ将、晩餐舞踏会に参加する
ガチャ、ギー。誰かがドアを開けた。コツコツ。俺の部屋を歩いている。シャー。その音の後、急に部屋が明るくなった。カーテンを開けたな。そしてガチャと窓が開く音がしたと思うと、今度は風が吹きこんできた。俺は観念して起きる。
「おはよ、ミーナ。」
「おはようございます、フェルナンド様。お目覚めはいかがですか?」部屋への侵入者―ミーナ―が笑顔で聞いてくる。
「うん、いいと思う。」俺はあくびをしつつ答える。今日でこっちの世界に来て一週間になる。人間の心理状態というのは恐ろしいもので、未知の場所に来ても一週間もそこで生活していれば、特に違和感なく過ごせるようになってしまった。この一週間、俺はずっと家に引きこもって騎兵戦術の本と公式チートブックを読んでいた。家から一歩も出ずに暇さえあれば読書していた結果、なんとかその2つに関しては理解できた。
俺はミーナの後をついて洗面所まで向かう。相変わらず、この家のデカさには驚くばかりだ。驚くことといえば、この世界では魔法というものが実装されているようだった。ただそれを扱えるのは神官だけで、その神官も世襲制だから、実質的に扱えるのはごく僅かの人間だけだ。俺が洗面台の前に立つとミーナが銀色の筒から水を桶に注ぐ。俺はそこで顔を洗い、ミーナから歯ブラシをもらって歯を磨く。どうやらここの歯ブラシは動物の毛からできているようで、あっちの世界のよりかは多少柔らかいようだ。俺はそれらを済まし、朝食の席に着く。今日の朝食はダグラというパン―あっちで言うところのクロワッサン―とオムレツみたいな卵料理、白身魚の刺身サラダ、フルーツ、それにフルーツジュースだ。毎回食卓に着いて思うのが俺が今までどれくらい乱れた食生活を送っていたのかということだ。ここ一週間、毎日こういう朝食を食べているが、身体がいつになく楽なのだ。もちろん身体そのものが違うということもあるが、それだけでは説明できないぐらいに調子がいい。身体の乱れは食生活の乱れとはよく言ったものだ。俺は飯を食いつつリックに今日の予定を尋ねる。
「リック、今日の予定は?」
「まず朝食後にカトぺーニャ地方の状況報告書に目を通していただき、問題があれば修正していただきます。そして藍色騎士団の兵装などについても確認していただきます。昼食後3時間ほどは自由にお過ごしいただけるとは思いますが、今夜は国王が開かれる晩餐舞踏会ですので、しっかりと正装を着ていただくので用意に時間が多少かかると思われます。また、お分かりであるとは思いますが、わがフェルナンド家は第3位王族家でありますので、会場には少し早めに着いておかねばなりません。」リックと答えた。
このアスクリタン王国の貴族は、王族家、中央貴族家、地方貴族家の3種に大きく分類される。イメージとしては徳川幕府の親藩、譜代、外様を思い浮かべるといいだろう。というか中身の分け方はそれと一緒だ。俺はその中の王族家である。王族家の中にも区分けがあり、王家である第1位王族家、王家と特に血縁関係の濃い分家である第2位王族家(徳川幕府の御三家のようなもの)、王家の分家の第3位王族家というようになっている。第2位王族家は3家、第3位王族家は6家あり、それぞれ第2位の当主は大公に、第三位の当主は公爵に任じられている。また、国王から与えるという形で騎士団がそれぞれ王族家にのみある。騎士団は、国王直属の黄金騎士団、王太子が指揮する銀色騎士団、王家の女性を守るための桜色騎士団、王家の男性を守るための青色騎士団、大公家の3個騎士団:水色騎士団、白色騎士団、翡翠騎士団、公爵家の6個騎士団:藍色騎士団、銅色騎士団、黒色騎士団、紫色騎士団、赤色騎士団、深緑騎士団がある。もちろん騎士団長は当主が務める。桜色騎士団と青色騎士団に関しては、それぞれ長女と次男が務めている。
「晩餐会めんどくさいな~。」俺はだるそうに言った。
「そんなことおっしゃらないでください。公爵がそんなんじゃ示しが付きません。」リックがたしなめる。
「そりゃそうだけど、めんどくさいものはめんどくさいよ。」俺はそう言いながらフルーツを食べる。
「フェルナンド様がどう思われようと行かなければならないのです。あきらめてください。」
「はいはい。」俺は残ってたジュースを一気に飲み干し、席を立つ。
「リック、やってほしい書類仕事は全部書斎まで持ってきて。あとコーヒーお願い。」
「承知いたしました。」とリックは言った。
「あー!書類読むのめんどくせー!」俺は読んでた書類を机に叩き置き伸びをする。すると右手が動いて文字を書き始める。
「それを毎日のようにやってたやつもいるんだよ。」
「そんなこと知ってるよ。でも俺は向こうの世界ではヒキニーだったんだぞ。」
「ヒキニー?なんだそれ?」
「家に閉じこもってる無職ってこと。」
「なに?つまりは遊び人なのに外に出ていかないってことか?」右手がそう書く。俺がいちいち書いてくる言葉がむかつく。
「悪かったな外に出ない遊び人で。世の中にはお前みたいのだけじゃなくて、俺みたいな愚民もいるんだよ。」
「底辺民が貴族の俺の身体を使って遊んでんのか。さぞ楽しいだろう?」
「はいはいすごい楽しいです。感謝してますお。」
「ビッカスくっさ。」右手がそう書いたのを見て俺は驚く。
「なんでビッカスとかくっさとか分かるんだよ?!」
「言っただろ。お前の能情報を共有しているんだって。お前の知識は分かる。」つまりは俺の知識はネット用語ぐらいしかないらしい。
「はやく仕事に戻らないと時間がないぞ。」右手が書く。
「うるせー。分かっとるわ。」俺は再び書類に目を通す。今月の麦の収穫量は平年よりも少し多いらしい。備蓄に回して置く予定と書いてある。別にそれで構わないだろう。次にベルボイノの収穫量が少ないらしい。ベルボイノは、アスクリタンで最も人気の果実酒であるベルスィーの原料であり、俺が治めるカトぺーニャ地方はそれの一大産地である。今後は魔法使いを呼んで気温管理を行うと書いてある。まあしょうがない。いいだろう。そのようなペースで仕事を続けなんとか1時間後には
「終わった~!」書類に名前とハンコを押した。
「お疲れさま。」右手が書く。
「ああ。ほんとにお疲れだよ。ちょっと寝る。」俺がそう言って寝ようとした瞬間、
「大松「まだ藍色騎士団のが残っているぞ」」と右手が書いてきた。
「ほんとに勘弁してくれよー!」
―2時間後―
ドス!俺は椅子から落ち大の字に寝転がった。
「俺は生きているのか?死んでいるのか?」
「お前はすでに死んでいる。」右手のペンが、一緒に落ちてきた紙に書く。
「死ね(石直球)」俺がそう言うと
「グエー死んだンゴ」と書く。ネット用語で会話が成り立ってしまいどうも気持ちが悪い。まるで俺と俺がスレで書き込んでいるかのような感じがしてくる。
「そんなことはどうだっていいわ。あっ、そうだ、宮廷儀礼を教えてくれ。」
「お前が言うチートブックとやらに書いてあっただろう。」
「本だけじゃ理解できねえよ。」
「俺ができるのも文字を書くこと。本となんら性質は変わってないぞ。」右手がそう書く。言われてみれば確かにそうだ。
「やっぱりお前はバカみたいだな。」
「右手に言われる筋合いわねえ!」そう俺は言ったものの、他に何か手はないだろうか。というのもそもそもがヒキニーだから目上の人との話し方なんて全く分からないし、そのうえ舞踏会とか公開処刑も甚だしい。
「しょうがない。舞踏会に関しては俺に任せろ。俺が手足を動かせるなら問題ないはずだ。」
「そっか、お前が動けばいいのか。よし任せた。」
「ただ、しゃべることはできないからな。そこはお前がなんとかしろ。」
「わかったよ。適当に敬語使っとけばいいんだろ。」
「まあ自然体でいろ。変に気を張ってる方が不自然だぞ。」右手がそう書く。
「自然体ねえ~。まずこの状況が自然の摂理から離れているからそんな概念が思い浮かばないけど。」
「せっかく貴族の集まりに底辺の愚民のお前が出れるんだ。せいぜい楽しめ。」
「はいはい。」俺はそう言うと立ち上がり、覚めたコーヒーの残りを一気に飲み干した。
「ちょっとベルトきつく締めすぎじゃないのかな?」俺はミーナに言う。
「そんなことありません。ゆるいと剣を吊ったときにズボンが下がってしまいますよ。」そう言いながらミーナはさらにきつくする。
「イテテ、ここまで締める必要ある?」
「はい。」ミーナが笑いながら言う。こいつ、もしかしたらSかもしれない。
「あとは剣を腰につけてジャケットを着れば完璧です。」ミーナはそう言いながら剣を渡してくる。サーベルタイプの礼式用直剣。
「ミーナ、この剣は持ってかない。」俺は言う。
「え?」
「こっち持ってく。」俺が選んだのは剣の幅の広い戦闘用の直剣だ。
「なんでですか?」
「俺こっちの剣のほうがお気に入りなんだよねー。柄に水晶はめ込まれてるからカッコいいじゃん。」
「かしこまりました。じゃあー」ミーナはそこまで言うとニヤける。
「な、なに?」俺は恐る恐る続きを尋ねる。
「サーベルよりも重い戦闘用直剣を腰に吊るすわけですから、さらにきつく締めあげないといけませんね。」
「やっぱりこいつSだー!」
俺は馬車に乗って王宮に向かっている。この城は、とても裾の広い山全体を使って作られている。城の一番外側にあり民間人の町の多い第一層、その内側に一般兵士や一般憲兵などの公務員の家の多い第二層、その内側に上級公務員の多く住む第三層、その内側に地方貴族の屋敷やバールンという神社が多くある第四層、その内側に中央貴族の屋敷の多い第五層、その内側に王族家貴族の屋敷のある第六層があり、さらにその内側の山の中心に王宮がある。簡単に言ってしまえばバームクーヘン状になっている。人口334万人が住む大都市であり、城外の大堀をたどっていくと海まで出ることができ、平時にはその堀の上を多くの船が行き来している。
「で、これでよかったのか?」俺は馬車の中で言う。
「ああ。これなら問題ないだろう。」そう右手のペンが紙に書く。俺がなぜ剣を変えたのかというとここに理由がある。「あいつ」と話しあえるコンテンツは紙だけだ。しかし、王宮に行くときに貴族はカバンなんて持っていかないし、ポケットに忍ばせようにもポケットがないのでどこかに隠し入れておかないといけなかったのだ。それで俺が目をつけたのが幅広の剣。鞘の内側に剣と一緒に入れておける。サーベルだと細すぎて入らないのだ。
「問題ないじゃないよ。ミーナに腹締められてめちゃくちゃ痛い。」
「お前はあいつに惚れてるんだからいいじゃないか。」
「でも痛いもんは痛いよ。」
「で、お前は王と話すときの口調は分かったのか?」
「ああ。一応理解はした。でもできるとは言ってないぞ。」
「問題起こすなよ?もし元に戻ったら困るのは俺なんだ。」右手が書く。
「善処しまーす。」俺がそう言ったときに馬車が止まった。王宮に着いたようだ。馬車のドアを開けるのはミーナ。基本的に晩餐会には、メイドと秘書、それぞれの護衛が付いてくる。今回は、ミーナとリック、それに藍色騎士団から5人ほど連れてている。
「さーて、行こうか。」俺はそう言いながら馬車を降り一つ伸びをする。
王宮の建物の入り口の前には全身金色の鎧を着た兵士が立っている。黄金騎士団の騎士だ。
「第三位王族家フェルナンド家の家長、ミファエル・ハルト・フェルナンド公爵が到着いたしました。」とリックが黄金騎士に言う。すると扉が開けられ、剣を顔の前に掲げる礼をされた。
王宮の建物内にも廊下にところどころ黄金騎士が立っていた。背筋をピンと伸ばし、ただ一点を見つめ立っている。よく飽きないものだ。俺だったら15分も持たないだろう。実際そんな性格のせいでバイトを転々とすることになり、ついにはニートになったわけなのだが。長い廊下を道なりに進んでいくと再び大きな扉が見えてきた。その前には正装を着た男が立っている。俺らのことを見つけると深いお辞儀をして扉を開けた。そして内側に向かって、
「フェルナンド公爵様ご到着。」と言った。中には結構な人数の男女がいた。立食パーティのようで、晩餐会と言うよりかは舞踏会としての要素が強いようだった。俺が中に入ると
「遅かったなミファエル。」と髪に白いのが混じった大柄な男が言ってきた。
「申し訳ありません、陛下。仕事がなかなか終わりませんでした。」俺はそう言う。そうこの人こそ大国アスクリタンを治める国王アスクリタン87世だ。なぜ国王がわかったかというと、右手―つまり本物―のおかげだ。あいつが書いた国王の絵と現物は驚くほど似ていたのだ。運動神頭脳明晰イケメン貴族で絵までうまいとかまじで本物はチーターか?てことは俺はチーターのアカを乗っ取ったってことなのかなんて事をそのとき思った。
「ははは。相変わらず真面目なやつだな。」国王は大きく笑った。近くを歩く給仕が持ってたシャンパンを取り、歩きながら飲んでいると後ろから
「あ~、ハルトだ~。」とやたら語尾が長いしゃべり方をするやつが声をかけてきた。後ろを振り返ると深緑の服を着た男と茶色の服を着た女、赤い服を着た女がいた。
「よっ、ミファエル。」赤い女が言い、
「ずいぶん久しぶりだなハルト。」と深緑の男が言う。確かこいつらは俺と同格の第3位王族家の公爵、アルバフ・ステイン・バリビア、イルメイ・チャスティー・アームスタリスキー、バリエスタ・メイ・ジャーキストだ。チートブックの俺の周辺関係についてで載っていた。
「ああ久しぶり。」俺は答える。
「なんだよ久しぶりに幼馴染と会った反応がそれかよ?」深緑の男―アルバフ―は不満そうに言う。
「別に久しぶりっつっても2年ぶりぐらいだろう?」赤い女―イルメイ―が言う。
「2年もだよ。」アルバフは言う。
「うわっ、きも。ホモかよ。」イルメイが言うと
「ちげーよ!男の友情だ!分かったか、この低身長まな板女!」アルバフが言うと
「なんだとこの脳内筋トレ運動バカ!」とイルメイが言い返す。
「やめなよ~。一応私たち公爵なんだよ~。自覚を持って行動しないと~。」茶色の女―バリエスタ―が二人を止めようとする。
「「お前は引っ込んでろ!この脳内お花畑まったり巨乳!」」二人の声が合わさって言う。
「え~。ひどいな~。」バリエスタは笑う。確かにお花畑みたいだ。そこに
「おいおい騒がしくすんな。自覚を持て自覚を。もうガキじゃないんだぞ。」といい体つきをした中年くらいの白い服を着た男がアルバフとイルメイの首根っこを掴んだ。
「レスカギールおじさん、、、。」アルバフがそう言うと
「誰がおじさんじゃ。」と言って二人を掴む力が強まる。
「いてて。ごめんごめんなさい。放してくださいレスカギール兄さん。」アルバフが訂正すると彼は手を離した。イルメイが首の後ろをさすっている。
「なに、またあんたアルバフ達をいじめてたの?」そう言いながら近づいてきたのは水色の服を着た女だ。
「いじめちゃいねえよ。ただ教育してただけだ。」彼はそう言う。この二人は大公レスカギール・カウィエ・バフツリーとビナクス・マリキラー・ジャスランドだ。
「そう言えば大丈夫だった?帽子屋の屋上から落ちたんでしょ?」水色の女―ビナクス―が聞いてきた。
「ええ、まあ。死なない程度には。」俺は適当に答える。まさか屋上から落ちた結果別世界に来て、他人の身体を乗っ取りましたなんてことは言えない。
「まったく心配したんだからな。」そう言うのはアルバフ。
「そうだよ~。ハルトの顔に傷が付いたらどうすんのさ~。国中の女の子が泣いちゃうよ~。」バリエスタが言う。名前に傷が付くことよりも顔に傷が付くことを心配される男がいるらしい。
「お前はどうなんだよ?泣くのか?」俺はバリエスタに尋ねる。
「え~。どうだろうな~。泣くのかな~。」バリエスタは笑っている。この子可愛いな。ちょっと抜けてる感じがいい。
「でも~、チャスティーは泣いちゃうと思うよ~。」バリエスタが言うと
「な、なにばらしてんのよっ!じゃなかった。なに言ってんのよ!ミファエル、違うからねっ!これはその、そう、友達として怪我してほしくないってだけだから!」イルメイがそのちっぱい、、、じゃなかったちっちゃい身体を揺らして、顔を赤くしながらまくし立てた。うん、彼女も可愛い。ロリコンの気持ちがわかるような気がする。
「おうおう、若いねえ。」レスカギールが笑っている。そこに
「皇太子殿下並びに王妃殿下、ギーストニック王子、ラニータシア王女ご到着。」と声が聞こえた。一瞬にして会場内は静かになり、全員剣を抜いて礼をする。俺もチートブックでやり方を確認しておいたから、戸惑うことなくやれた。ただ一人だけ剣が長太かったのだが。
「みなさん、今日は集まってくれてありがとう。是非楽しんでいってください。」女王はそう言うと王の横に並んだ。そして楽隊が国家を演奏し始める。全員が歌い始める。
「神よ祖国を守りたまえ 山高く海深き神代の国を守りたまえ 力強く実りある国の四方を守りたまえ
神よ王を守りたまえ 偉大なる祖国の守人を讃えたまえ はためき輝くわが国旗に栄光を授けたまえ」
歌い終わると剣をしまい片膝をつきうつむく。
「みな大義である。今宵は飲め歌え踊れ。存分に楽しむがよい。」王が言うと全員立ち上がり再びさっきまでの喧騒に戻る。
「おいハルト、今日ワグネス見たか?」アルバフが聞いてくる。ワグネスとは同じく公爵で黒色騎士団団長のワグネス・バリス・グライガーのことだ。グライガー家は代々神官のトップを務める家柄で、もちろん魔法を扱える。
「さあ。透明魔法でも使ってるんじゃないのか?」俺は答える。
「あいつにこの前、全部銀で作ったナイフをくれって言われたから持って来てやったのに、あいつがいないと話にならねーじゃん。」アルバフが愚痴る。
「そのうち来るよ~。だってここにはハルトもステインもチャスティーもカウィエさんもマリキラーさんもいるも~ん。」バリエスタが言う。
「しょうがねえ。しばらくここで酒飲んで待ってるか。」アルバフはそう言うと近くを通った給仕からワインをもらってきた。グラスは三つ。
「ほれ、飲めよ。」アルバフはそう言いながらバリエスタと俺にグラスを渡してきた。チンッとグラスを合わせてから飲む。うまい酒だ。ブドウが濃い。
「そう言えばお前、サーベルじゃなくて普通の直剣持ってきたのな。なんかあったのか?」アルバフが尋ねてくる。
「あ、ああ。ちょっと中が錆びてて。みっともないからな。」俺はちょっと焦りながらも答えた。
「珍しいな。お前がそんなミスするなんて。仕事のしすぎなんじゃないか?」
「違うよ~。仕事をしすぎてるときのほうがしっかりしてるんだよ~。だからハルトは最近サボりすぎなんだよ~。」バリエスタが言う。
「お前に仕事サボってるって言えるほどの仕事力はあるのかよ?」アルバフがバリエスタに言う。
「も~。それ私が何にもしてないみたいじゃな~い。」
「実際そうだろ?」
「う~ん、そうなのかな~?」バリエスタは笑う。そこにレスカギールが
「おい、この子犬ちゃんがバリエスタに嫉妬してるから混ぜてあげて。」とイルメイを持ち上げて連れてきた。
「ちょ、ちょっと、レスカギールおじ、、、兄さんやめてくださいよ!」イルメイがじたばた暴れるがレスカギールは気にしていない。
「ごめんね。ちょっと踊ってくるから一人になっちゃうとつまんないだろってことだから。」ビナクスがイルメイをなだめる。
「そういうわけだ。じゃ、またあとで。」レスカギールはイルメイを下に下ろすとビナクスとダンスが行われている方に向かって行った。
「で?なんの話してたのよ?」イルメイが聞いてくる。
「チャスティーがハルトにゾッコンだって話ですよ。」バリエスタが言う。
「な、な、な、なんで言ってんのよ!、、、あ。」イルメイが顔を真っ赤にして固まる。
「バカなお前には相応しい最後と言える。」アルバフが腕組みしてうなずく。
「う、うるさいわね!」イルメイがアルバフの鳩尾に拳を叩きこむ。アルバフはうっと言ってうずくまる。
「なんで私だけバラされないといけないのよ!別に不思議じゃないでしょ。この国で一番のイケメンで文武に精通してるんだから。メイだってミファエルのことが好きすぎて毎晩妄想しながら〇〇〇〇してるじゃない!」おっと危ない。放送禁止ワードが入っていた。言われたバリエスタは目を一瞬丸くしたが、すぐにさっきまでの笑ってるバリエスタに戻り、
「ま~ね~。でも実際ハルトとちっちゃいときにお医者さんごっことかしてたしね~。」と言った。ちょっと待てなかなかヘビーな内容を言ってるし、あいつは何をしているんだ。
それを聞いたイルメイは顔を真っ赤にして
「何認めちゃってるのよ!」と言った。そして俺の方を向いて
「全部ミファエルが悪いんだからね!私が大好きになっちゃうような人として生まれたミファエルが悪いんだから!」と言った。
突然の告白イベント。これは流石に俺も予想していなかった。俺ら以外の何人かもこっちを見ている。
「い、いや、その、友達だろ?だから、そのお、、、。」まさかミーナが好きだなんてことも言えないしどうするんだ俺。てかあいつ責任とれよ!そう思った瞬間、身体が勝手に動いてイルメイのほうに向かうと
気づいたときにはイルメイの頭をなでていた。
「え、え、え?」イルメイが戸惑いの声をあげる。俺も気づいて
「あ、いや。」と言って手をどかそうとしたができない。あいつが動かしてる。となったら俺ができるのは
何か声をかけてやることだけ。
俺は覚悟を決めて話す。
「俺が好きってことは素直に嬉しい。でも、俺らはそれ以前に友達だろ?間違ったことをして友達じゃいなくなる方が俺はもっと嫌だ。だから、、、。」一呼吸おいて俺は言う。
「だからこのままでいよう。」
「、、、うん。」イルメイがうなずく。これで満足か? 俺。
そこに誰かが近づいてきた。人の海が割れ、お辞儀をしている。
「ミファエル、イルメイのことを振ったのね?これだから女たらしは。」そう言ってくる。
声の方を見るとそこには桜色のドレスを着た同い年ぐらいの気の強そうなで、でも凛々しい美しい顔の女がいた。そう彼女が
「ラニータシア王女。」イルメイがお辞儀をする。
「お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。」
「いえ、イルメイあなたは悪くありませんわ。元凶はこのミファエルです。」ラニータシアが俺を指す。
「さーて、ミファエル。数々の女子をたぶらかしてきたあなたに罰を与えるときが来たようですね。」ラニータシアは言う。待て待て、俺が何の罪を犯したっていうんだ?しかもやってるのは確実に俺じゃない。本物のほうだ。
「チャスキーとで私と勝負なさい。私が勝ったらあなたはイルメイと結婚すること。いいわね?」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なに?」
「ラニータシアが負けたらどうするの?」俺は尋ねる。敬語なんてお構いなしだ。
「そうね、、、。負けるわけがないから考えていなかったわ。それじゃあ、なんでも一つあなたの言う事に従いましょう。」ラニータシアが言う。
「この勝負受けるわね?」
これだけの周りの人、王女という階級、被害者?のための条件。これだけの要点がそろっていて
「断れるわけないじゃないか。」俺は言った。
「よかった。じゃあ早速用意させます。」ラニータシアが言う。
「ミファエル、結婚おめでとう。」ラニータシアはにっこりとほほ笑んで言った。
続く
こんにちはthe August Sound ―葉月の音―です。恒心遅くてすいませんでした。ただ通常の生活になればこういうのがざらですのでお許しを。
さてこの第3話、だいぶ新キャラ出てきました。誰かお気に入りの子はいましたかね?まあ秘話としては、昨日艦これやってて途中で龍驤の可愛さに気づいて、ロリっ子を出したことですかね。はい、イルメイのことです。最初は活発は活発でもドンキュッドンみたいな感じで行こうかと思ってました。
さてようやく話がすすんで行くのかな?これからも「チデブスニート(略称)」をよろしくお願いします!感想、評価お待ちしております。
またツイッター始めましたのでよければフォローを。フォロワーさんが増えればやりたい企画等ありますので。@hazukinone0803 です。よろしくお願いします。