第二話 ワイ将、チートブックと自分を確保
「あの、何か思い出されましたか?」ミーナが尋ねてきた。
「いや。なにも。」俺は答える。
「そうですか、、、。ではしょうがないですね。この国の情報とフェルナンド様周辺の情報をまとめた本をすぐに作らせましょう。」ミーナはそう言うと
「お夕食の用意がございますので失礼いたします。」と言って部屋から出ていった。
再び一人になった。俺は状況を考える。ミーナは本を作ってくれるといったけど、俺には理解できないだろう。だって日本人だし。アスクリタン語の文字(どんなのかは知らないが)を見たところでわからない。ていうかミーナは飯と言っていたが、まともな食べ物はあるのだろうか?異世界と言えばなんかフォルムの汚い動物の丸焼とか色のおかしい野菜とかがつきものだ。ここで、めちゃくちゃうまいパターンと食えないレベルのパターンの二通りがある。確率は半々―じゃない!俺は馬車の中から見た露天商の果物を思い出した。あそこに売ってあった果物はおいしそうだった。ああいうものばっかりだったら確実に飯はうまい!はずだ。
俺は自分の寝室を少し探索してみた。なかなか広い。少なくとも俺があっちで住んでた部屋の3倍はあるだろう。いやもっとだな。寝台の横の机の上には一冊本が置かれている。中を見てみると歩兵の陣形の組み方などが書いてある。「まず、歩兵陣の基本は盾と槍で騎兵の突破を許さない形にすることである。」と最初の行にロシア語とタイ語の中間のような文字で書いてある。
ん?
読めた?
日本語じゃないのに?
「えええええええー!」俺は大声を出してしまった。すぐに親衛隊がやってきて
「何事ですか!」と聞いてくる。
「文字が、文字が読めたんだよ!」
「それはどういう意味でございましょうか?」
そこにミーナが入ってきた。
「いかがなさいましたか?」
「いや、だから、文字が読めたんだって。」
ミーナは俺のことをちょっと見つめてから
「親衛隊、あとは私が引き継ぎます。」と言って親衛隊員を部屋の外に出した。
「さて、フェルナンド様。なぜ文字が読めることに驚かれたのですか?」
「だって、記憶が吹っ飛んでんだよ?そう言うのも覚えてるはずないと思うじゃん。」
「じゃあしゃべれないはずですよね?」
「え?」
「今、フェルナンド様がお使いになっているのは正真正銘アスクリタン語です。なぜ言葉がしゃべれるのに文字が読めないと思われたのですか?」
「あ、いやさ、言葉を聞く話すっていう動作は誰から教えられなくても勝手に覚えるものじゃん?だけど、その、読み書きは習わないとできないでしょ?ほら、勝手にしゃべる子はいても誰にも習わずに字を書く子はいないでしょ?」よっしゃ、なんとか乗り切った。そう俺が思っていると
「目の前におらっしゃいます。」ミーナが言う。
「え?」
「フェルナンド様は、おしゃべりになるよりも先に文字をお書きになったそうですよ。我はミファエルであると書いたとリックが申しておりました。あ、リックは先ほどフェルナンド様の上着を脱がせたじいやです。」
おいおい、こっちの俺何してくれてんだよ。天才にもほどがあるだろ。
「ですが、なんとなくおっしゃりたいことはわかりました。少しずつ記憶が戻ってきていらっしゃるのですね。」
「うん。そうかもしれない。」俺は答える。
「よかったです。あ、あと先ほどは問いただすような真似をしてしまい失礼いたしました。」そう言うとミーナは深々と頭を下げる。
「いや、いいって。」俺がそう言うとミーナは頭をあげ
「ありがとうございます。では夕食の準備に戻らせていただきます。」と言って、ニコッと笑って部屋から出ていく。かわいいな。俺は思った。こんなかわいい子が俺のメイドをやっているとは信じられない。まあ俺の顔がすごいイケメンになっているのも信じられないのだが。もし俺がミーナに結婚を申し込んだらどうなるのだろうか。きっぱり断ることはないとは思う。ただ、身分の違いみたいなのが邪魔をするんだろう。俺はそんなことを考えるのをやめ、さっきの本を少し読んでみることにした。タイトルには「歩兵陣と騎兵陣の構築方法」とある。最初のほうに騎兵陣の組み方が書かれている。「騎兵は防御用の兵ではなく、攻撃用の兵である。」「騎兵陣では突撃し、相手の陣地を分断することを考えなければならない。その観点からいえば、くさび型の陣形は妥当だと言える。」「しかし、くさび型だと先頭に立つ将校の損耗率が高くなるのが問題である。そのことを鑑みると、凹凸陣と言うのは全体的に良くまとまったものであろう。」などなど。この本の著者は誰なのだろうか俺はそれが気になり、表紙を再び見た。セクレクト・ボルク・フェルナンドと書いてある。同じ名字だ。もしかして俺の親戚なのだろうか。一番最後のページあたりに編集後記でも書いてあるだろうと思って見てみる。するとそこには「故セクレクト・ボルク・フェルナンド国家最高騎士卿はカリシュナ川での合戦において、わずか500駒の藍色騎士団のみでアルバトロンの兵2万騎を撃退した天才的な戦術家である」と書き始められている。そして最後に「卿の意思はご子息のミファエル・ハルト・フェルナンド卿に引き継がれていく。」と書いてある。
つまりセクレクト・ボルク・フェルナンドは
「俺の親父?」
なんなんだこの家系は。あっちの世界の俺の家族とは比べものにならないほどかけ離れている。俺のあっちの親父はいつも疲れた顔をした中小企業に勤める営業マンだった。そこである一つの疑問が生まれる。
それは
「こっちの俺はどこに行った?」
ということだ。俺はもともとあっちの世界の人間である。しかしこんなにかけ離れた俺がこっちの世界には存在していた。そして俺がこっちに来てしまった。ていうことは、こっちの俺はどこか別の場所に行ったはずである。そう考えていると、
身体が勝手に動き出し、部屋の中の筆記台に向かった。そして勝手にペンをとると、紙に
「俺はここにいるぞ」
と書いた。
「え?え?」俺はあせる。止めようとしても止まらない。その間にもどんどん書きすすめていく。
「お前は突然俺に入ってきた。お前の考えていることは全てわかっている。」
「な、なんなんだよ。」俺は声に出す。
「怖がることはない。怖いのは俺も一緒だ。俺は俺に危害を加えるつもりはないし、お前もお前に危害を加えることはないだろう。つまり俺はお前に危害は加えない。」手は書き続ける。
「今、俺が俺の身体をコントロールできるのはお前が俺について考えただからだろう。それまでは俺は身体を動かせなかった。つまり、お前が望めば俺が身体を操作できる。ここまでわかるか?」
「あ、ああ。」
「だからこれから当分俺らは協力すべきだと思う。お前はこれからずっとペンと紙を持ち歩け。その代わり、俺はお前が望むときにあらわれて助けよう。」
「ああ、そうだな。でも、俺がずっとお前にまかせっきりにすれば済むことなんじゃないのか?」
「そうはならないだろう。」
「どうして?」
「じゃあそれを願ってみろ。」
俺はやってみた。だが身体は動かない。
「ほらな。」手はそう紙に書く。
「恐らく、俺が動かせるのは手足だけ。俺らは五感と脳を共有している。だからお前はこの国の言葉がわかった。俺は言葉をしゃべれないが、お前はできる。そして何より俺を呼びだせるのはお前だけだ。」
「なるほど。」
「よし、じゃあ俺は消えるぞ。」
「それはお前ができるのか?」
「ああ。なんかあったら呼んでくれ。」
「おう。」俺は答える。
「そう言えば、お前ミーナに惚れてるだろ。」手が文字を書く。
「な、な、な!」
「言ったろ、情報を共有してるって。だが、下手にミーナに手を出すなよ。」
「どうして?」
「お前はこの国でもトップクラスの顔である俺を動かしてる。それを理解しないでやると、ミーナが傷つくことになるぞ。」
「わかったよ。」
「ならいい。じゃあな。」そう書くと、手は動かなくなった。
これは本当のことなのだろうか。でも信じるしかない。
そこにミーナがやってきて
「ご夕食の準備が整いました。」と言ってきた。
「お、おう。行こう。」と言って俺はミーナについて行った。
「あー。お腹いっぱい。」俺は伸びをする。
「品がないですよ。フェルナンド様。」リック―じいや―が言う。
結論から言おう。飯はめちゃくちゃうまかった。甘いレタスみたいなのや、牛のステーキみたいなの、エビのポワレチックなやつ、パン、イチゴムース見たいなの。どれを食ってもはずれはなかった。俺の異世界ライフでの心配事は一つなくなった。
ミーナが近づいてきて
「フェルナンド様。次はどうなされますか?」と聞いてきた。
「書斎にでも行こうかな。」俺は答えながら立ち上がる。
「かしこまりました。」ミーナはそういうと椅子を引いてくれた。そしてランタンを持って俺を先導する。
「俺のための本はどこまでできた?」俺は歩きながら尋ねる。
「目下10人体制でやっておりまして、あと少しで完成すると。」
「ふーん。そっか。ありがと。」
「いえいえ。」
そんなことを話しているうちに書斎までついた。ミーナは扉をあけると、
「お風呂の準備ができ次第お呼びいたします。」と言った。
「うん。」俺がそう言って中に入るとミーナは扉を閉め、戻って行った。
「さて」俺はそう言うと、あいつを呼んだ。また手が勝手に動く。
「飯はうまかったろう。」と紙に書く。
「ああ。」
「で、何の用だ?」
「これからどうするか。」
「どうするも何もないだろう。当分はこのままだと思うぞ。」
「そうだよなあ。」
「決定権はお前にある。言うなれば俺は今、お前の道具の一つだ。好きなように使ってくれて構わない。」
「じゃあ、この世界初見の俺が読んでおくべき本は?」
「兵法書を読んでおいた方がいいな。」
「兵法書?」
「ああ。基本的に必要な情報はミーナがまとめさせてるんだろ?なら兵法書を読め。なんせお前は将校だ。」
「おすすめは?」俺がそう言うと、身体が勝手に動いて、一冊の本を掴んだ。タイトルは「騎兵戦術の基本」。
「これはわかりやすくて、一冊読み切ればそこそこの知識を持てる。ところどころ俺が解説していけば、騎士団長を張る資格があるくらいにはなれる。」俺の手はそう書く。
「よし。じゃあ読んでみよう。」そう言って俺は読み始めた。
2時間ほどで本の半分以上を読んだ。俺の手が
「凄いな。のみ込みが早い。」と書いた。
「もとの世界でゲームをたくさんやってたんでね。」俺は言う。パソコンの戦略ゲームに一時期どっぷり漬かっていたことがこんなとこで役立つとは思わなかった。
「さて、どうする。もうちょっとやるか?」手がそう書いたとき、ミーナが
「失礼します。お風呂の準備ができました。」と言って入ってきた。
「ああ。」俺は本を置いて立ち上がる。あいつもいなくなったようだ。
ミーナについて一階まで行き、奥のほうまで進むと風呂場があった。ミーナがドアを開けて俺を中に入れてくれた。俺は服を脱ぎ始める。そして服を全て脱ぐと全部綺麗にたたんでからかごに入れた。これは洗濯屋でバイトしてた時についた癖だ。10秒あればどんなものでも床に置かずにたためる。ドアを開けて浴場に入る。と、先にもう一つドアがある。そこのドアを開けると露天風呂があった。俺はその風呂に入った。いい温度だ。しっかりと風呂に浸かるなんていうことはかなり久しぶりだった。あっちではいつもシャワーで済ましていた。風呂の中で身体を伸ばしたりする。ふと空を見上げてみたら、夜空を埋め尽くさんばかりの星があった。こんな綺麗な星空は東京じゃ見えない。よく夜景は美しいなんていうけど、そんなんは正しくないと思う。あれはただ、眩い電気を得て、闇夜の恐怖に対する安心感を得ているだけだろう。こういう星空のほうがもっと美しい。
そんなことを考えていると、後ろでドアが開く音がした。何だと思って振り返ると
ミーナが水着見たいな服で入ってきた。
「えええええええ!なにしてんの!」俺は絶叫する。
「いつものことですよ。」ミーナは答える。こっちの俺は何て野郎なんだ。うらやましすぎるぞ。
チラッとミーナのことを見る。綺麗な形の胸、くびれのある腹部、細長い脚。モデル並みのプロポーションだ。ミーナは外で立って待っている。クシュンとくしゃみをした。当然だ。今ここは春の夜並みの気温だろう。そこに水着みたいな姿でいたらくしゃみぐらいする。
「ミーナ、風呂入るか?」俺は恐る恐る尋ねる。
「い、いえ。大丈夫です。」
「いや、だってくしゃみしてたし。」
「私はメイドです。一緒にお風呂に入るなんていう無礼なことはできません。」そう言うともう一度クシュンとくしゃみをした。
「強情を張るのと、無礼を働かないのは違うぞ。風邪引くと困るから入れ。これは命令だ。」俺がそう言うと
「はい。ありがとうございます。」と言って、風呂に入った。
「でもなんで、お前がここに入ってくんだ?」俺は尋ねる。
「毎日私がお背中を洗っているのです。」ミーナは言う。つくづくこっちの俺が憎たらしい。
俺は5分ほど浸かってから、
「中に戻って身体を洗おう。」と言い、立ち上がった。ミーナも続いてくる。
そこで俺は髪や顔を洗い、背中をミーナに洗ってもらった。ここにも石鹸というのはあるようで、花のいい香りがした。
俺が脱衣所に戻ると下着とバスローブのようなものが置いてある。このバスローブがパジャマなんだな。俺は身体を拭いて服を着た。外に出るとミーナがもう待っていて、手に水の入ったグラスを持っていた。
「お水です。」と言って水を渡してくれた。
「ありがとう。」俺は一気に飲み干し、ミーナに渡す。
「寝室に行かれますか?」ミーナが聞いてきた。
「うん。あの本はどうなった?」
「完成いたしました。あとで寝室にお持ちいたします。」
寝室まで来ると、またミーナがドアを開けてくれる。俺はベッドに寝転がると「歩兵陣と騎兵陣の構築方法を再び読み始めた。騎兵陣の構築の部分を読む。さっき書斎で勉強してきた分、かなり理解できる。「騎兵陣が最も活かされるのは言うまでもなく平地での戦いである。しかし、山岳地帯でも巧妙に配置すれば騎兵はその速さで相手を混乱に陥れることができる。」「高地にいる相手に対しては一撃離脱方式で少しずつ陣を崩していくのが効果的である。この際、間違っても一気に突き破ろうとしてはならない。」俺が陣の図を見ているところに、
「失礼いたします。本をお持ちしました。」ミーナがやってきた。
本を受け取る。中身をぺらぺらとめくってみる。この屋敷の見取り図も書いてある。
俺はこの世界の公式攻略本を手に入れたのだ!これで無敵の異世界ライフを行える。俺のひきこもりライフで手に入れた知恵、あいつの知恵、この本の情報を使えばもう怖いものなんてない。
(*^◯^*)俺の異世界ライフはようやくスタートラインに立ったんだ!
すいません。
先に謝っておきます。今回は相当内容が頭の中でまとまりませんでした。多分グダグダです。やっぱり異世界系は作る人の実力がバレますね。
まあ未定ですけど、次話を投稿すんの当分見合わせようかな、、、。真夜中の蝉はいっぱい案が出てくんのにこっちはまるっきりストーリー案が出てきません(結末は見えてるんですけど)。
まあ苦しみながら頑張っていきます。
はあ。才能のある人はいいなあ(泣)