ゾンビモノパニック
「クソッ、秋月氏もゾンビに!?あの人先週まで錬金チートで大剣無双していただろ!」
サイト越しに見た現実に僕は打ちひしがれた。右を見てもゾンビ、左をみてもゾンビ。世界はゾンビに満ち溢れていた。
それはある『組織』の改革がきっかけだった。
複雑化した内情に合わせた部門の再編。19種に分かれた部門の内、ゾンビと親和性を持つ比較的小規模な部門2つがすぐさまゾンビ一色に染まったことで、一つの事実が浮き彫りとなった。
「ゾンビモノは多ジャンルいける」
さん〇れあのような恋愛ものもあれば、映画化もしたゾンビシューティングゲームはアクションやローファンタジー、SFと見ても問題がない。あるネット掲示板の住人が、「全種類のランキングにゾンビ感染させようぜwww」とスレを建てたのも当然の流れだ。
ともあれ、1度感染が広まってからは早かった。アクションランキングに「アクティブ系ゾンビのショッピングモール無双」が出たのを皮切りに、「ゾンビアシッド・オンライン」,「ゾンビVSギガシャーク」,「ゾンビは電気椅子の夢を見るか」など次々と日刊ランキングにゾンビの三文字が踊り狂う日々が始まったのだ。若い読者層が悪ノリしたこともあり、もはやゾンビが出るかどうかでランキング入りできるかが決まると言っても過言ではないだろう。
それから恐怖の日々は続いている。ゾンビが出ないというだけで理不尽に低評価をつける読者のせいで、昔から読んでいたチーレム物で終盤にも関わらず唐突にゾンビ娘が新ヒロインとして出てきたり、恋愛ものなんて最低ひとりは崖から落ちるハメになる。
そんな理不尽な批判を受けた犠牲者や、ゾンビ以外を読みたい読者たちは、ひたすら運営にメールを送り続けた。『もうゾンビは見たくない』,『ああ、ゾンビが!ゾンビが!』,『こんなところにいられるか!俺は別のサイトに移る!』,『かゆ……うまい……』。
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苦情のメールが累計5千通を超えた頃、ついに動いた運営により、自体は一気に収束を迎えた。
20種類目のジャンル「ゾンビ」。
今まで席巻していたゾンビモノは全てここに押し込められることになった。
結局、残されたのはゾンビに荒らされて荒廃とした19のジャンルと熱を失ったゾンビ達の群れだった。ゾンビが残した傷跡は、深く深く残っている。未だにゾンビを書きだす作者もいるし、つい物足りなくなった読者が『悪い点 ゾンビが出ない』と感想欄に残すのともある。僕が愛したサイトに戻る日は、まだまだ先になるだろう。しかし、いつの日かまた多種多様な小説が玉石混交で読めるサイトに戻ると信じている。
そんなある日、掲示板でこんなスレを見かけた。
【ゾンビ】全種類のランキングにマシュマロお化けを載せるスレ【再誕】
僕はオンライン小説を読むのをやめた。
こんな下らない文章を最後まで読んでくださった心の広い方々に感謝を。