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第3章「潮流」(13)

 ゼ・アマーリア号が沈んでから既に五日が経つ。同じく王都で王太子ファルシオンの祝賀式典が開かれてから五日。

 フィオリ・アル・レガージュの領事ホースエント子爵は、祝賀式典参列の為に赴いていた王都を二日前の昼に発ち、途中街道沿いの街に二泊して、ようやく今日の朝にレガージュの街に帰り着いた。

 帰郷してすぐホースエントを呼び出していた交易組合長カリカオテは、指定した時間の十一刻になってもホースエントが訪れない事に痺れを切らし、自ら交易組合を出て領事館に向かった。

 通常領事館は街の中心にあるが、レガージュでは街の中での立場を表わすように、少し中心から外れた場所に建てられている。

 ホースエントはまだ領事館にいて、組合を訪れる予定などまるで知らなかったような事務官の対応に、カリカオテは少なからず沸き起こった憤りを喉の奥で抑えた。

「領事。いつまでもおいでになる気配がないので、お伺いした」

 執務室の椅子にのんびりと腰掛けていたホースエントは驚いた顔を見せ、立ち上がって鷹揚な仕草で挨拶すると、また椅子に座った。

「これはカリカオテ殿。何をそんなに急いでおいでですか」

「何を? マリの船が沈んだ件で話合いをしたいと、お伝えしたはずだ。十一刻に組合に来ていただく予定だったと思いましたが」

「ああ――しかし私にも、まだ旅の疲れというものがありまして、そうすぐには」

 そんな事かというように肩を竦めたホースエントの様子に苛立ち、カリカオテはじろりと睨み付けた。

(全く、状況を知った上で物見遊山気分とは)

 飛竜を急がせれば一日で戻れるところをほとんど三日もかけるなどと、相変わらず政治的な感覚も状況判断も鈍く、領事として使えない男だと内心息を吐く。

「疲れなど気にしている場合ではないと、貴方も判っておいでだろう、領事」

 ホースエントは鷹揚に苦笑を返した。

「まあまあカリカオテ殿、とにかくお座りください。落ち着いて話をしましょう」

 ようやくカリカオテに椅子を進め、二人は低い卓を挟んで座り、向かい合った。

 カリカオテはこれまでは自分に対して弱気とさえ言えたホースエントが、やけに自信に溢れた態度を見せている事を疑問を思ったものの、王都へ上がったせいだろうとあまり気に止めなかった。

 祝賀式典の空気に当てられ今は気分が高揚しているかもしれないが、すぐに現実に戻る。戻る必要がある。

 今のレガージュは幾つも問題を抱えている。

 カリカオテは単刀直入に聞いた。

「それで、地政院には」

「地政院――」

 一瞬、ホースエントは狼狽(うろた)えた。カリカオテは先日の書状で、この件についてホースエントから地政院に報告するようにと依頼していたが、地政院には何の報告も入れていない。

 意図があって知らせなかったのではなく、その事は余り深く考えていなかったのだ。

「も、もちろん伝えた」

 ついそう頷いてしまった。

 そもそも領事である自分が伝言役などやる事自体が馬鹿らしいのだしとも思ったが、伝えなかった事が何か不味い事態になるだろうかと、慌てて考えを巡らせる。

 しかしカリカオテ達からいちいち地政院に確かめはしないだろうし、地政院がたかが他国の船が沈んだ事を聞いていないと言って怒るとも思えない。

 実際カリカオテもホースエントの言葉を疑わず頷いた。

「それなら一安心だ……それで地政院は何と?」

 今度はホースエントは先ほどより平然と答えた。

 彼にはレガージュを改革する目的がある。その目的のもとに物事を進めているのだから間違った対応ではない。

「検討して指示すると」

「検討――」

 長い髭をしわのある手で撫でる。独り言に近く、カリカオテは苛立ち混じりに呟いた。

「地政院としての見解を早く知りたいのだが」

 カリカオテが苛立っているのには理由がある。

 もう三日も前にマリ王国へ送った伝令使――、これが帰って来ない。

 返事を持ち帰らないのではなく、戻らないのだ。

 呼び戻そうと試みたが、法術士の術にも反応が無かった。ぷつりと糸が途切れたような状態だ。

『もし――』

 今朝幹部達を集めて話をした時、ファルカンは明るい金色の眉を寄せてカリカオテを見た。

『万が一、船団がアマーリアを沈めたって話がマリに伝わってたら、マリは伝令使を斬るかもしれない』

『それは、しかし』

 今の段階では随分強硬な対応だ、と幹部のエルンストがそう返す。

 伝令使とは言え使者を斬るという事は、レガージュに対する徹底的な追及の意思を示すものだ。

 これまで築いて来た関係が崩れる事になるばかりか、下手をしたら二つの国の間での争いに発展する。

『王都に伝えるか? もちろんもう、始めのような体面重視の話じゃない』

 恥を(さら)しても、地政院なりに国として正式に介入してもらい、事態を平穏に収めてもらうのがいいか。

 ただ、まだマリ王国の反応が実際に返っていない中では、それも大げさに騒ぎすぎた対応のように思えるのは確かだった。

 カリカオテは考えた末、やはり首を振った。

『さすがにそれはまだ早いだろう。もう少し様子を見よう。アマーリアの船員が気が付いてくれれば状況も開けてくる』

 それが今朝の組合幹部とファルカンが出した結論だった。

 カリカオテ達にとってまず考えるべきはこの街、レガージュの事だ。

 レガージュの交易の発展は、今の自治に近い街の統治体制が支え作り上げてきたものでもある。

 カリカオテはホースエントを見て立ち上がった。

「では、地政院から指示が来たらすぐにでも私に連絡を頂くようお願いしたい」

 そう言って部屋を出ようとしたカリカオテを、ホースエントはふと呼び止めた。

「カリカオテ殿。マリから返事は。どんな反応でしたか」

 カリカオテが一瞬突かれたように足を止める。

「……いや、」

 視線を逸らせたカリカオテは、ホースエントの面に浮かんだ表情に気付かなかった。

「まだ返答は無いが、今日明日にでも使者が来るだろう」

 カリカオテが扉を開けて出て行くのを見送り、ホースエントは口元を隠すようにしてそっと笑った。





 寝台の男が身動ぎした気がして、ザインは視線を向けた。

 だが男は寝台に横たわったまま、微かに胸を上下させているだけだ。辛うじて――ほんの些細な振動を受けてさえ止まってしまいそうなほど細く、辛うじて呼吸が繋がっている。

 二日前の夕刻、ザイン達が海で見つけて船に引き上げた内の一人で、おそらく二十代半ばか。マリ王国人特有の褐色の肌は今は血の気が無くくすんで見えた。

 フィオリ・アル・レガージュに取って返し治療を施したが、外傷は癒えても衰弱が激しくこのまま目を覚まさないのではないかと思えた。

 交易組合の会館の病室には、ようやく救出したゼ・アマーリア号の船員二人が寝かされている。ザインが連れ帰った男と、捜索初日に見つけてファルカンが先に連れ帰った男だ。

 正解にはもう一人、ザイン達が見付けた男がいたのだが、漂っている間に力尽きたのか、見つけた時には既に息は無かった。

(たった二人か――)

 最初に引き上げてファルカンが連れ帰った男は、レガージュ船団の船がゼ・アマーリア号を沈めたと言った。

 だからもう一人、この男に話を聞きたかったが、長く海を漂っていた分容体は厳しく、今のところその見込みは無い。

 そこに焦りがある。

 扉を軽く叩く音がし、ファルカンが病室を覗いた。

「ザイン」

 ザインは男――メネゼスに落としていた視線を戸口に立ったファルカンに向けた。

 どうした、と尋ねる前にファルカンの後ろからユージュが半分身体を覗かせる。

「ユージュを放っておくな」

 ファルカンに咎められ、ザインは苦笑を浮かべた。ユージュはおずおずと、躊躇いがちな視線をザインの顔に向けている。

 昨日の朝、港に着いたザインを迎えた時に、ユージュはどこか怯えた様子だった。

 ザインの顔を見てほっと安堵しながら、半分では何かを恐がっている――

 昨日はそのままユージュを街の人に預け、お互いにゆっくり話をしないままだった。

 ザインは意識して優しく笑ってみせた。

「――ユージュ、おいで」

 手を伸ばして呼ぶとユージュはぱっと走り寄った。伸ばしたザインの手をしっかり握る。

 そうしてそうっと息を落としたのが判る。

 ユージュの様子を束の間見つめ、ザインは二人の隣に立ったファルカンを見上げた。

「容体は?」

 ファルカンが尋ねる。

「変わらない。目を覚ませば、少しは食べる事もできて体力も戻るだろうが、このままだと二、三日が峠だろう」

「やっぱり術士に来てもらわないと駄目だな。今ブレンダンに連絡して、王都で治癒の得意な術士を探してくれと言ってるところだ。間に合えばいいんだが」

「ブレンダンなら間に合わせてくれるさ」

 彼に託したユージュの手紙の事がちらりと頭を掠めたが、今は脇に押しやった。傍らのユージュの髪を撫ぜる。

 レガージュにいる法術士の治癒で外傷は癒されたものの、衰弱した身体を回復させるのはもっと高度な法術でなくては難しいと言われた。国内外の品々を扱うレガージュには様々な薬草が集まっているが、それを用いても状態を悪化させないのが精一杯だった。

 だが王都なら、高度な治癒を扱える法術士がいる。ブレンダンが上手い事繋ぎを付ける事ができれば、法術士がレガージュを訪れるのに大した時間はかからない。

「ザイン」

 ファルカンが呼んでザインが立ち上がり、部屋の隅に寄った。ユージュは二人を眼で追っていたが、ザインに指で男を示され、父の座っていた椅子に腰かけて寝台の男を眺めた。

「――マリからは相変わらず伝令使が戻らない。やはり斬られたか……」

「……いや、まだそう判断するには早いだろう。もちろん想定しておいて悪くはないが……マリじゃない場合も有り得る」

 最後の響きがやけにきっぱりとして感じられて、ファルカンは訝しむように眉を上げた。

「マリじゃない? 伝令使を斬ったのがか? どういう事だ、ザイン」

「伝令使を斬ったとは言ってないさ。ただ、少し重なりすぎている。考えても見ろ、レガージュ船団が沈めたと言われ、マリへの伝令使は戻らず、救えた人数は僅か二人。たったの二人だ。あれだけ現場に積み荷が浮いていたのに、熟練の船乗りが誰も泳ぎも浮き上がりもできなかったのか?」

 それはファルカンにも判る。何故、とあの海を見て思った。

 投げ出された海に積み荷が浮いていれば、真っ先に掴まるはずだ。もっと助ける事ができても良かった。

 例えば、レガージュ船団の船が、という考えは否定した上で他の船に襲われたのだとしても、助けた二人には刀傷は無かった。そうすると海に投げ出される前に致命傷を受けていたとも考えにくい。

 何故。

 ゼ・アマーリア号の船体は、まるで手で骨組みからばらばらにしたように、形を(とど)めていなかった。

「一体ゼ・アマーリアを沈めたのはどんな技だ」

 ザインのその問いに、室内の温度がぐっと下がった気がした。ザインは瞳の深いところに、鋭く刺すような光を宿している。

 その光につられて、ファルカンは問いかけた。

「ザイン……あんたは何か心辺りがあるのか」

 ザインはじっと、ファルカンさえ怯むような瞳を彼に向けた。

「――ユージュが見た夢が気になる。いや、俺は海で」

 微かな呻き声が耳に触れた。

「父さん!」

 ユージュが呼ぶ。

 ザインとファルカンは顔を見合せ、振り返って寝台に歩み寄った。昨日助けた男の方だ。

 男の顔を覗き込む直前に、男は一度だけ呟いた。

「 じゃ、ねぇ――あれは……」

 辛うじて聞き取れる程度で、熱にうなされたうわごとのようだった。

「何て言った?」

 ファルカンの言葉を手を上げて遮り、ザインは唇を引き結び寝台を見下ろした。

「――」

「ザイン? 聞き取れたのか?」

 ザインがはっとするほど厳しい表情を浮かべたのに気付き、ファルカンはザインの肩に手を置いた。すぐにその手を引っ込める。

「……ザイン」

 ファルカンはザインの肩に触れた手を、無意識に、痺れから解放しようとやる時のように、二、三度握り拳を作り、開いた。

「船……」

「船?」

 ファルカンが繰り返す。

「船じゃないって言ったのか。レガージュの船じゃないって事か?」

 少し都合が良すぎる解釈かと、ファルカンは口を閉ざした。ユージュがファルカンを見上げる。

「違うよ。船じゃないんだ」

「? いや、」

「えっと、だから――、ボクが見た夢でも、あれは船なんかじゃなかった」

「あの夢か?」

「そう、海からできてて、船の形になって、それがマリの船にぶつかったんだ」

 もどかしく言葉を選ぶユージュの声に、ザインの声が重なる。

「俺は海で気配を感じた」

 寝台の男を見下ろしたまま、ザインは一言一言はっきりと告げた。

 船上から感じた、微かな気配――

 ザインには覚えがあった。

 忘れる訳が無い。

 忘れる事などできる訳が無い。

 三百年経とうと、例え千年が経とうと。

「――フィオリの船を沈めた奴だ」

 低く平坦な――、だがどこかに、熱が宿った声だった。

 ユージュがはっとして、父を見上げる。その瞳が震えるように見開かれている。

「父さん――」

 呟いて、ユージュはすぐ傍の手を握った。

 ファルカンの手を。

「――」

 ファルカンは視線を下ろし、ユージュを見つめた。

 驚いたのは――ユージュが、怯えている事だった。

 だがその理由は判った。

 ザインだ。

 ザインが身に纏わせた空気が、長く彼を見知っているファルカンでさえ恐ろしいと感じるほどに、研ぎ澄まされている。

 今、ザインが一歩、足を踏み出せば、周囲のものを全て断ち切りそうな――

 彼の持つ怒り、と

「それは、駄目だ、ザイン」

 口にしてから、何を指して駄目といったのか、ファルカンは自分でも戸惑った。

 だが、ザインを止めなくてはいけない。

 ユージュが怖がっている。

「ザイン――」

 返答の無いザインの顔に、ファルカンとユージュ、二人の視線が、息を潜めるように向けられている。

 懇願するように。

 ファルカンはもう一度言葉を捜した。

 自分が何を想定したのか、ようやく浮かんだ。そしてその事に横っ面を張られるような衝撃を覚えながら、ぐっと腹の底に力を込め、口にする。

 そんなものは、否定しなくては。

「ザイン、西海じゃない。いや、そうだと決まった訳じゃあない」

 ザインは答えない。

「今考えるべきは、マリへの対応だろう」

 口から出たのは説き伏せるような響きで、少し大げさじゃないかとファルカン自身にも思える。

 しかし、西海が関係していると考えるよりは、ずっとましだった。

「父さん――」

 ユージュの呼びかけにようやく、ザインは瞳を向けた。不安に見開かれた大きな瞳を見つめる。

「……心配するな」

 笑った顔は、いつもの父のそれだ。

 ユージュはおそるおそる手を伸ばし、それから引き止めるようにザインの腰に腕を回してしがみついた。






 レオアリスの所に再びフィオリ・アル・レガージュの商人ブレンダンが訪れたのは、遠く離れたレガージュの交易組合の館で、ザインとファルカンが話をしている頃だった。ちょうどレオアリスが午後の演習の為に士官棟を出ようとしていた時だ。

「大将!」

 厩舎へ歩いていたレオアリスは、通りから声を掛けられて足を止めた。

「――ブレンダンさん」

 レオアリスがブレンダンの名前を呼んだ為、ブレンダンは近衛隊士に止められる事無く、通りから瑞々しさを増してきた芝を横切ってレオアリスの前まで来た。

 グランスレイがロットバルトを見て、ロットバルトが「先日手紙を届けに来たレガージュの商人です」と答える。

「申し訳ない、いきなり」

 ブレンダンは少し息を弾ませてそう言った。ここまで急ぎ足でやって来たようだ。

「どうかしましたか」

 そう尋ねると、ブレンダンはつるりと禿げ上がった頭に載せていた小さな帽子を取った。

「少し急ぎでして、商業仲間のつてを辿るより確実だと思いまして――大将殿、突然で不躾ですが治癒の得意な術士をご紹介いただけませんか」

「治癒? まさか先日の、息子さんが怪我でも?」

 傍らにいない彼の息子の姿を思い浮かべ、レオアリスは眉を潜めた。

「いや、私どもではなく」

 ブレンダンは束の間言うべきかどうか躊躇ったが、もう地政院には領事から伝えていると、ファルカンから聞いている。

「先日、レガージュの近海で他国の船が沈みまして――数人船員を救助したんです。衰弱がひどくてどうにか回復させたいと思っても、レガージュの法術士では衰弱までは手に負えません」

 船が沈んだと聞いて、レオアリスは驚いた。海を知らないが、それでも大事(おおごと)だと想像はつく。ブレンダンが自分を尋ねてきた訳も判った。

「なら治癒専門の高位の術士が必要ですね――法術院のアルジマール院長に紹介状を書きましょう。相応しい術士を紹介してくれるはずです」

「院長に。それは有難い、感謝します」

 ブレンダンが力強く言い、頭を下げる。レオアリスはグランスレイを振り返った。

「少し時間をいいか?」

「問題ありません」

 レオアリスは頷いて踵を返し士官棟へ向かった。グランスレイは一礼して先に演習場へ向かい、ロットバルトがレオアリスに従ってやはり士官棟へ戻る。

 ロットバルトに促され、ブレンダンも後をついて歩き、すぐレオアリスに並んだ。レオアリスは士官棟の玄関の階段を上がりながらブレンダンを振り返った。

「沈んだというのは、どこの?」

「マリです。マリ王国の」

「マリ――」

 地図上で国名を見た事しかない。

「私がレガージュを出る前に入港してたんですが、ゼ・アマーリアという古参のいい船で――」

 沈んだ理由を告げるか、ブレンダンは迷ってから無難な方を選択した。

「嵐で沈んだそうです。あの船がちょっとやそっとの時化(しけ)で沈むなんて考えられないんですが」

「時化――、嵐ですか」

 レオアリスは深い意味はなく繰り返しただけだが、ブレンダンは少し後ろめたくて首を縮めた。

「そう聞いています」

 レガージュ船団の船が沈めたという証言がある、と言ったら、この若い近衛師団大将はどんな顔をするのかと、ブレンダンは想像を巡らせた。

 まさかいきなりブレンダンを責めはしまい。ブレンダンの説明を最後まで聞くだろう。

「どうかされましたか」

 ロットバルトに視線を向けられ、慌てて首を振る。伏せている事を読み取られそうな瞳の色だと思った。

「いや」

 ただ、隠すというよりも、この件はそもそも、近衛師団に訴える(たぐ)いの話ではないのだ。

 レオアリスは執務室に戻るとすぐに書状をしたため、ブレンダンに差し出した。

「アルジマール院長には、剣士としてたってのお話があると、そう言っていたと伝えると早いと思いますよ」

 レオアリスは少しばかりブレンダンには判らない苦笑を浮かべ、そう言った。

「有難うございます」

 ブレンダンは書状を受け取り、改めて頭を下げ、それから頭に帽子を載せて急ぎ足に士官棟を出た。




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