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始まり

転載、ダメ絶対(・ω・)ノ

ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

 「ん、あ、……朝か……」

 カーテンの隙間からは僅かな光が差していた。

 手元にある時計で時刻を確認する。五時三十分。いつもどおりの起床だ。しかし夜黒健吾にとって、いつもの日常だと言い難い何かが……下腹部にまたがっていた。

 ネコの柄のパジャマを纏っている『何か』は、

 「あ、おはようっ お兄ちゃんっ!」

 実に和やかな朝の挨拶をした。

 「なっ……お前誰だ!!」

 俺の動揺には一切関係は無いとでもいうように、小学校高学年、もしくは中学生であろう黒髪ツインテール少女は馬乗りの体勢のままで考えるように、手を顎にあてる。

 「あーうー、亜衣はおにぃちゃんの妹だよ……?」

 「……いや、俺は生まれてこのかた兄弟は姉しか持ったことしかないな」

 妹妹妹妹、何度、脳内で検索しても兄弟に妹がいたななんて記憶は無い。ならば不法侵入者か? でも妹とか言ってるし……。110当番通報するか悩みどころだ……。

 「お兄ちゃんのけち! いいもんっ、お兄ちゃんがそう言うなら、記憶を改竄させるまでだからっ」

 ケチ呼ばわりしたあげく、物騒な発言をして少女は何処からか巨大な鉄製ハンマーを取り出す。ちょっと待て、何処からハンマー取り出した!? というか、その細身であろう腕で金属のハンマーを振りかざすなんて事、出来るわけ……出来るのかっ!! 俺の中物理的法則が瓦解していくのがわかる。

 「うわっ、やめろ! やめてくれ!!」

 俺の頭上では光沢を放つ金属製のハンマーが、振りかざされんとしている。ああ、俺の生涯は享年21で幕を下ろすのかと思った刹那――

 「もう、仕方が無いなぁ、お兄ちゃんは」

 ハンマーはピタッとその動きを止めた。そして、少女の手の内に握られているハンマーは、粒子状になり霧散して消えた。え、消えた!?

 俺は、よほど間抜けな表情をしていたのだろう。

 「あははっ、お兄ちゃんの顔!! うきゃはは!」

 少女に笑われた。指までさして抱腹絶倒している。

 「そんなに、変な顔してたのか……」

 妙に落ち込む中――

 「ところでお兄ちゃん、ホントに覚えてない……? 亜衣のこと」

 先ほどの抱腹絶倒から百八十度雰囲気が変わり、声のトーンが下がる。

 「……覚えてない、が」

 確かに俺の血縁には妹に属している人なんていないはずだが……。思考が本格的に堂々巡りしようとした頃、少女はおもむろに馬乗りの体勢を解いた。立ち上がったかと思えばベットから飛躍して、そのまま本棚へ直行。何やら、本棚をあさぐり回している。

 俺は本棚を探られているにもかかわらず、別段気には留めない。いや、気に留めるべきか。

 相手は不法侵入者かもしれない。少女だからつい、油断してしまうな。

 大抵男だけの一人暮らしといえば、エロ本やエロマンガやエロDVDが本棚には収められているものだが(友人の家へ行った時に知った)俺はそういうものに、体制がないためそういう物は所持していないからだ。

 決してきょ、興味が無いわけではないが。

 少女にハンマーで撲殺(?)されそうになっていたときは気にする余裕もなかったが今思えばあの体勢は、かなり……。思い出だすにつれて羞恥がこみ上げてきた。

 だ、だめだ。相手は少女だぞ。いくら馬乗りになられていたといって、意識するものではない。それに俺は……、中学校教師だ。正式に、教諭だけどな。今年二十二歳で就任したとはいえ教師としてあるまじき行為……。とういかロリコンとか一番ダメだろ。

 一人、悶々とする俺をよそに少女は――

 「あ、あったよ。お兄ちゃん。これで思いだしてくれるはずっ!」

 本棚からベットへ戻り、嬉々とした表情で右手と一緒にあるものを手渡してくる。

 ゲームのようだが……。俺はパッケージに目を落とす。

 「これは……」

 ゲームには『ろりっとますたぁー』(エロゲー)の文字。

 「これはっ、おおお、俺のものじゃないぞ!? いや、俺のものだが!!」

 先々週従兄弟が遊びに来たときに、女の子体制が皆無の俺に購入を促してきたものだ。その日は、どんな物だろうかとプレイしたのだ。その後、激しく後悔して、またしようなんて気持ちにはなれなかったが。

 「いいから、よく見てくださいっ」

 少女に急かされ最度パッケージを眺める。ツインテールにした黒髪の女の子が清純そうな笑顔で印刷されている。先週はこの笑顔に見事、騙されて……ん? ツインテールで黒髪?

 目の前にいる、少女と見比べる。

 少女、ゲーム、少女、ゲーム、

 「瓜二つだ……」

 こんなことは、あるのだろうか。双方が黒髪、ツインテールで、しかも顔までそっくり、いや同じといってもいい。アニメ調で描かれているイラストと、眼前の少女を同じ、というのはふざけている様にしか聞こえないが、本当に…………同じなのだ。

 「思い出してくれた? お兄ちゃん!」

 「いや、まさか……」

 こんなこと、あるわけがない。ゲーム内の少女が現実に、肉体を有して存在しているなんて――

 「そのまさか、だよっ」

 少女はニコニコ顔でとんでもない事を告げる。そして、それが覆すことのできない決定的な事実である証拠ゲーム内での俺の総称を言い放った。

 「妹の亜衣をどうしようもなく愛してる変態的なお兄ちゃん!」

 今更ながら、俺は『ろりっとますたぁー』の兄に対してのネーミングセンスを疑った。それと、あり得なさすぎるこの現状も。


 時は先々週の金曜日に遡る――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


ではまたお会いしましょう!

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