兼業ニート音楽家
世の中には、ギブアンドテイクっつー便利な言葉がある
むしろその言葉が無きゃ俺は引きこもりニートだし、助かってるし全然良いっつーのに
俺の協力者は、よくねぇらしい
「………やっぱり良くないよぉ、しぃくぅん」
情けない声を上げて泣きそうな嫁
今のへにゃへにゃの姿だけ見たらとても信じられないが、こいつは超がつくほどの社交的な性格で
今まで俺が作った楽曲を俺が思っているよりも素晴らしい形でプロデュースしてくれた
まぁ元はカウンセラーだから、人の心を読むのが他よりは多少優れてんだよな
「じゃあ辞めるか? 別にもう俺たちがほそぼそ暮らせるぐらいの稼ぎにはなったろ」
「いやでもしぃくんの曲を待ってる人はたくさんいるから!! だから、しぃくんが曲を作ったって自分で売ろうよ!!」
「死んだ方がマシだ」
そんな嫁に対して俺
極度の人間嫌いの人見知り。別に外に出れない訳じゃ無いが、他人と話すのはまず無理
今のところ普通に話せるのは両親と嫁のこいつのみ
そんな欠点を持った俺をなんとか治せないかと差し向けられた心理カウンセラーがこいつだった
二年間の苦労が実を結び、俺がこいつとようやく打ち解けた時には………
『しぃくんが大好きすぎるんです……』
こいつは俺を遥かに上回る激情を俺に抱いていた
それでもよかった
俺にとっては肉親以外の唯一の相手だし
好きだったから付き合った。んで結婚した
披露宴とか挙式とか無理な俺を選んでくれた大切な大切な相手だ
だが、
彼女は俺の才能を神聖視した
そして俺が世の中に出ることを望んだ
たかが売れる曲を作ったからってなんだっつーんだ
良い曲をつくったって、引きこもりの俺じゃそれは世に出せない
俺が作って
彼女が発表して
それで始めて売れるんだ
ゴーストライターとか気にしなくても良いのに
「……俺の世界はお前だけで良いっつの、わかってんだろ」
「でも、しぃくんの歌を世界は求めてるよ? 私が作ったんじゃないのにあんなに称えられても困るよ……」
「じゃあやめりゃいい」
「それはだめだってば!! もったいないよ!!」
めんどくさい
「お前以外に関わらなきゃなんねぇなら俺がやめる。元から養わなきゃって思ったからやっただけだ」