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破天荒爺、転生する。  作者: 隠岐
一章:ガラム聖国編
7/8

7.破天荒爺、身体を癒す。

気がつけばお気に入り件数も増えてきて、ありがたいことです。


四月から新たな仕事も増えて、更新はせいぜい週一、または隔週だと思っていただければ幸いです。

残業祭りだヒャッハー!


※4/1:タイトルにナンバリングを忘れていましたので、ナンバリングいたしました。

(また午前2時頃に、少々追記いたしましたが、大きな内容に変更はありません。)

「…ぅ…ぁ…。」

「…動いてはいけない、霊薬の毒が回ってしまう。

大人しくしていなさい…水は飲めるかね?」


硬いベッドの感触と、息苦しさに仁が目を覚ませば歪んだ視界にバイスの銀髪が目に入る。

何とか身を起こそうとしてはみるものの、身体が重くてろくに動かせずに言うがままにするしかなかった。


「ゆっくり、少しずつ飲みなさい。

霊薬が効いている間は霊薬の毒を意に介する事ができないだろうが、抜けてくると苦しいものらしいからね。」

「…ぁ……りが、とう…。」


ゆっくりとバイスが仁の背中に手をやって起こしてやると、カップを口元にあてる。

その中に入った水をゆっくりと、咀嚼するように仁は飲む。

時間をかけて一杯の水をようやく飲み終えた仁が礼を言うと、バイスが目を見開く。


「…君は、理解できているのかね?」

「…何を、だ?…とりあえず、あのクソッタレな光神の世界だってことと。

奴隷かそれに準じた何かの身分にされてる、ってことくらいはわかってる。」


問いかけの意味がわからなかったため、仁が口を開いてバイスに唇の端を歪めて言う。

その悪態にバイスが少し眉をしかめて諌めるが、仁の不満は当然そんな言葉では治まらない。


「…立場がわかっているなら、口を慎みたまえ。

他の誰かに聞かれたらただではすまない。

それ以上に、他の誰かの前で口をきかないように…これまで以上の霊薬を飲まされるぞ。」

「その辺りは、わきまえてる。確か…何とか子爵、だったか?

アンタは純粋な光神教徒じゃない。

純粋っていえるほど宗教の毒に染まりきっちゃいない。」


仁は忠告に小さく頷いて、再び横にしてもらいながらクッと喉の奥で笑いながら言う。

初めて会話を交わしたバイスは驚きで内心を埋め尽くしていた。



第一の理由は「霊薬」である。


「霊薬」などと大層な名前はついているものの、要は毒である。

少量ならば多幸感と高揚感を与える興奮剤の一種である。

しかし、程度が過ぎれば幻覚や幻聴を巻き起こし、自意識を侵食し始める。

一部の教会ではコレを香に混ぜて教徒たちにかがせ、説法を行うという。


そしてある程度以上の濃度の使い方は、獣を飼いならすのに使うのである。

獣といっても馬や牛といった程度の獣ではない。

超大型の獣や、獰猛な獣を飼いならすのである。


地球で例えるのならば、ライオンや虎などを飼いならす際に高濃度の「霊薬」を飲ませるのである。

一定以上の濃度のものになると、多幸感などを与えるよりも先に脳をショートさせる。

思考などが全て「霊薬」の毒に蝕まれて、言いなりになるだけの生物となるのである。


司教たちの話によると物心がつく以前から仁はこの「霊薬」を過剰に摂取させられ続けたはずなのである。

にもかかわらず、目の前の少年はしっかりとした自我を持っている。

飲まされてすぐは時折呻くだけの意思の感じ取れない状態になるにしても、意思を取り戻している現状は異常すぎた。



第二の理由は少年の目と言葉である。


第一の理由の「霊薬」に対しては前例がないにしても、所謂毒の一種である。

耐性を得つつあると考えれば、まだ納得できなくはない。


しかし、聞く限りではこの少年が自我を持った、という事は聞いていない。

むしろ自我を持ったとしたら、あの保身に長けた司教たち、筆頭として大司教がバイスに任せるはずがない。

それだけこの少年は危険な切り札なのだ。


なのに目の前の少年は光神教幹部の腐敗ぶりをしっかり理解し、また宗教に関する独自の考えを持っている。

また自分の立場が奴隷という最下層に近い事を理解し、また奴隷を理解するという事は社会のシステムというものをどれほどのレベルでかはさておき理解している、ということである。


見た目10歳やそこらにも関わらず、この頭脳は異常だとしか思えなかった。



「…少し、楽になってきたな。」


目の前の少年の異常さにバイスが考えをめぐらせている間に、仁が呼吸を整える。

さっきまで内臓の異常により蒼白な顔をしていたのだが、気持ち血色がよくなってきている。


「う、む…あまり動かないように。

推測だが…君の身体が少しずつ霊薬に対して耐性を得ているのかもしれない。

止めさせる事ができない以上、これ以上量を増やさせないように自我がないように、人形のように振舞いなさい。」

「…そんな薬飲ませてんのか。

まぁいい、警戒されていいことはないからな。」

「君は、ドラゴニアンとしての自覚はあるのか?」

「…ドラゴニアン?なんだそりゃ?」


寝転がったまま天井を見上げる仁にバイスが問いかけると怪訝そうに視線をやる。


「ドラゴニアンというのあ龍の眷属である、我々ヒューマンより力のある種族だよ。

数は少ないが、まさに一騎当千というべき能力を持つ。

…詳しくは聞いてないが、約10年前に光神教とガラム聖国のクラル黒馬騎士団長が東の龍を討伐してね。

おそらくはその際に君は囚われたのだろう。」

「…へぇ。そりゃまた…討伐ってのは、龍が何かしでかしたのか?

それとも、人間の生存圏拡大のためかい?…それとも、権威の主張?」

「君の言う、人間、というのはヒューマンを指すならば…三番目が最も近いだろうね。」


横たわったまましばらく考えて少年の口から出た可能性にバイスは背中に冷たいものが走る。

「龍がワルモノなので退治された」。

これはまだわかる。

「生存圏の拡大」。

「権威の主張」。

少なくとも多少の学があっても出てくる概念ではない。

それを事もなく口にする少年。

しかもそれがドラゴニアンである仁から出てくることにバイスは寒気を感じた。


「君は、どこでそんな知識を得たんだい?」

「……夢の中でな、神々に会ってね。

この世界を正すようにって言われて色々教わったのさ。」

「な!?……それは、光神様にか?」

「そうだな、闇神にも会ったぜ。」


問いかけに少し考えて仁は夢のお告げ、ということにした。

宗教の力が強いこの世界を逆手にとって、宗教のせいにしておけば多少の事は誤魔化せるだろうという考えである。


「ま、まさか…同じ時代に二人も両神から明確な加護を受けた者が…。」

「ん?加護ってのはよくあるのか?二人から加護を受けるのは珍しいのか?」

「あ、あぁ。どちらかの加護だと強弱を問わねば年に数人はいる。

ただ、両神から受けるのは数十年、下手すれば百年に一人だ。」


驚くバイスに不思議そうにしつつ、仁が問いかければ丁寧に答えてくれる。


「強弱、っていうのは?」

「君のように神々と会った、お告げを受けた、などとはっきりと認識できると強い方だ。

弱い方だと、自覚はないが魔法を使う際に魔法の効力などに明確に差が出ること。

あとは刻印、とでも言おうか…光神様なら光神様の加護を持った人間が光魔法を使えば、身体の一部が光る。」

「…それは、どれくらいの光だ?

というか、魔法、やっぱりあるんだな…。」

「うむ、魔法があるのは当たり前じゃないか?

さておき…暗闇で使えば、ぼんやりと、という程度だな。

蛍の光にも劣るから普段は気付かれにくいが、意識すればそれなりに光る。

見てみるかね?」


社会に対する知識はあれども加護や魔法に関しては無知な仁に少し違和感を覚えながら教えるバイス。

バイスが袖まくりをして、太い右腕を出して朗々とした歌にも似た、何語ともつかない音程を唱える。


「■■■■■■■■■■■■。■■■■■■。治癒(ヒール)。」


その詠唱が響くと薄暗い地下牢で、わずかな明りがバイスの右腕に灯る。

とはいえ、暗所で本を読むなどは不可能な程度で、明るいかな、と思えるレベルでしかなかった。

その光が「治癒(ヒール)」という締めの言葉とともに仁の身体へと飛ぶと、わずかに身体が楽になる。


「意味のない上に、効果が落ちるから…本来はやらないのだが、権威付けにするものもいる…。

このように光らせようとすれば…。

■■■■■■■■■■■■。■■■■■■。治癒(ヒール)。」


先ほどと同様に詠唱をすれば、詠唱は同じだが明りがかなり明るくなった。

しかし、蛍光灯には及ばない程度の明り、といったところだろうか。

確かに言うとおり、光が身体に入っても仁には身体が楽になる感覚は薄かった。


「…輝く、のはわかったが…。

なんだその、背中がむずがゆくなる呪文は…。」

「…何?」

「いや、アンタ、『美しくも高貴、力強く』…何とかかんとかって光神を褒め称えていたじゃないか。

それは定型文なのか?凄く気持ち悪いくらい持ち上げなきゃいかんのか?」


凄く渋い顔つきになって言う仁にバイスが目を見開く。


「君は聖句を理解できるのかね!?」

「ぁ?…さっきからそう言ってるじゃねぇかよ?」


驚くバイスに逆に仁が驚く。


それから仁にバイスからの説明が続く。

要は呪文とは「聖なる詠唱」であり、聖人と呼ばれる特に強い加護を受けた人間しか理解できない「魔法の言葉」らしい。


「君は、その夢の中でどのような祝福を受けたのかね?

伝承に残る祝福で言えば…聖なる水差しより全身を清められたなどあるが…。」

「…そんな祝福なんて……ん?…もしかして…。」


確かに世界を救うように言われたが、それは一言二言である。

むしろ依頼主としては閻魔様であった。

それ以外に光神と接したのは、遊び惚けたのを誤魔化そうとしてなのか自賛を交えた言い訳を聞いた程度である。

が、不意に思い起したことが脳裏をよぎった。


「…光神の、血を…浴びた、ってのはどうなんだろうな?」

「な!?そこまでの加護は聞いたことがない!

聖なる道具ならまだしも…しかし、最も尊き光神様の血とあらば…歴史上最大級の加護だろう。」


バイスは「光神が自らの血を仁にふりかけて、祝福した」と勘違いしている。

が、当然といえば当然である。


この世を生み出した最も尊い神の一柱である光神を「投げ飛ばした上に馬乗りになり、神でなければ死んでもおかしくないレベルで殴り続けた」などと想像すらできるはずがない。

口に出せば狂人扱いか、異端審問で縛り首になって当然である。

その辺りは地球で長年生きていた仁にもわかっていたので黙っていた。


「…なるほど、ならばおいおい魔法も教えるとしよう。

光神様が今の光神教を快く思っておられないならば、君が為す事にも協力する。」

「だろうな、今の光神教はよろしくない、とは光神も闇神の娘ちゃんも言ってたし。

というか、排他主義に走ったら進歩しねぇぞ。よく反乱が起きなかったもんだよ。」

「…いや、起きてはいる。しかし、幸いヒューマンは亜人種に強いからな…。」

「ふぅむ…よくわからんが…その口ぶりからすればそのヒューマン内での内乱はない、のか?」

「うむ。情けない話だが、ヒューマン内の不満はあれども亜人種、特に獣人種への虐待で不満を逸らしてるのが現状だな。」


説明を聞いて、深く仁はため息を漏らす。

元々彼は前の大戦で首脳陣はどうだったかはさておき、日本人として日本人の自由と尊厳のために戦った人間である。

そしてその敵は植民地主義に基づく差別主義である。

特に占領地となった東南アジアでの酷い風景は未だに忘れられないものがあった。


あの戦争が善か悪かで言えば悪だったのだろうと仁は思う。

しかし、NOと言わずに日本が、アジアが植民地主義の餌食になっていたら、と思うと必ずしも罪悪だったとは思えないのも事実である。

全ては後世の歴史家の判断に委ねるしかないのではあるが。


その仁からすれば、光神教が台頭している現状は危うい綱渡りにしか聞こえないのである。


「…それがヒューマン内の不満と獣人種や亜人種とやらの不満と繋がってみろ。

世界をひっくり返す大戦争の始まりになりかねんぞ。」

「それはわかっているが…わかってくれるヒューマンは少ないのだよ。」


仁の言葉に深い溜息を漏らすバイス。

その顔に浮かぶ悔恨や苦悩の皺の深さから本気で何とかしようとした形跡を見て取った。


「まぁいい。とりあえずは己の自由からだな。

…さし当たって頼みたいことはこの世界の知識。また魔法とかの技能だな。」

「うむ…ドラゴニアンの君にヒューマンの未来を託すのは複雑なものがあるが…力になろう。」


バイスの言葉にヒューマンと他の人種との隔絶の深さを感じ取りつつ、仁は問う。


「ドラゴニアンだ、とか言ったが…何故俺がドラゴニアンだってわかったんだ?」

「聞いた、というのもあるが…君の背中に翼を象った痣のような紋章がある。

それが証拠だよ、その紋章が有事の際に本当の翼と変化するのがドラゴニアンの証拠だ。」

「…そんなもんがあるのかよ…どうやって変化させるんだ?」

「そればかりはわからない。ドラゴニアン達とは交流はほどんどないからな。

…後は、君の頑丈さだな。鍛えていないにしろ大の大人から杖で無防備に殴られて大して傷がない、というのもヒューマンからしたら異常だ。」


説明に頷くと、仁はそっと目を閉じた。


「なるほど、とりあえずは演技をして雌伏の時を続けざるを得ないわけだな。」

「そうなるな…いつに好機が訪れるかはわからんが…。

私も当分大人しくしておこう。

そして折を見て信頼できる筋に繋ぎを取って、打つべき布石を打つとする。」

「そっちは任せる。俺はこの毒を克服できるように頑張る事と身体を鍛えること、だな。」

「知識のサポートは任せたまえ。」


バイスは目を閉じた仁を見下ろしてしっかりと頷いた。

その瞳には諦観は既になく、使命に燃えた熱いものが宿っていた。



こうして、最大の協力者を得た仁は雌伏の時を過ごす。

当然海千山千の者を相手に老齢まで戦い続けた仁からすれば、最初から疑わずに嘲る司教達を騙す事はさほど難しいものではなかった。

元々、ドラゴニアンという獣人に属する、ヒューマン至上主義を心から信じる司教達が仁を注視することはほとんどなかったのも幸いであった。

むしろ汚らわしい獣、という目で見るくらいであり、注視なんてとんでもないという様相であった。



仁はバイスの教えを受けて一般常識から歴史、光魔法などを教わって力を蓄えていった。

そして、数ヶ月の後、バイスの「調教」の結果、光魔法の「治癒(ヒール)」を会得したと報告を受けた司教達は外出の許可を出す。


理由は「治癒(ヒール)」を使える信者は少ないからである。

治癒(ヒール)」は光魔法という光神教の奇跡の内で中級レベルに属するのである。


破壊の魔法などの方が圧倒的に簡単なのである。

それは光神は元々異世界で傭兵や冒険者といった類に属する戦士であったことに起因する。

戦い続ける内に力をつけて、異世界の魔王を撃退して聖者や勇者として認められた神なのである。

そのため癒しなどよりも破壊や強化という戦闘メインの技能に長けた神である。


ゆえに光神自体が癒すなどといったことが苦手なので、奇跡の中でも中級以上の魔法になる。



逆に元々巫女に似た立場で、癒す事を得意とした闇神が主神として祀られる闇神教だと回復系の魔法は初歩の魔法となる。


閑話休題(それはさておき)



中々得難い能力を持った仁を遊ばせるのは勿体無い、とドラゴニアンである事を隠して奉仕させようという心算であった。

あくまでも仁に自我がなく、バイスや自分達の息のかかった人間の言う事を盲目的に聞く、という前提からであったが。


特にこれはおかしなことではなかった。

光神教の教会の修道院で修行する修道士たちにも同様に課せられる修行である。


それを修道院に顔の利く司教達が布施の額を見て、有力貴族に派遣したり、人気取りに街中の教会で「治癒(ヒール)」などの奇跡を行わせるのは常であった。



これにより仁が新しい繋がりを得て、さらにはガラム聖国というより光神教の支配するヒューマン社会を見極めるのであった。

微妙なところで切るハメになってしまいましたが、こんなところで。


そうしないとこの倍の量になりかねないので、ご容赦を。

可能でしたら、4/7中にUPしたいですが…期待せずにお待ち下さい。

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