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破天荒爺、転生する。  作者: 隠岐
一章:ガラム聖国編
6/8

6.破天荒爺、現状を把握する。

次第にお気に入りの件数が多くなる今日この頃。


嬉しくもあり、期待に押しつぶされそうでもあり。

あいにく社会人で更新のための時間がとりにくいのが悩みではありますが、極力早く更新できるように頑張りたいと思います。


これからもよろしくお願いいたします。

自分に杖なのか、硬い棒を振り下ろす中年をどこかぼんやりとした視界で見上げる。

どうやら仁は床に跪いてしまっていた。


仁は前の記憶がないことと、ぼんやりした頭に内心困惑しながらもその棒を大人しく受け続ける。

仁が若い頃、従軍していた経験があった。

それは戦中の頃ではあったが、その中で上官にこのような理不尽な暴力を受けた事がある。

その際に学んだ教訓としては、下手に抵抗の意思や反抗の意思を見せるべきではない、ということである。


(…鍛えてねぇおかげか、ド素人が振り回してるだけだからダメージはそうでもねぇ。

それよりなんだ、このヒデェ酔っ払ったような気持ち悪さは…。)


自分に杖を振り下ろす中年は剣術の類の技術は持ち合わせていないせいか、ただ振ってるだけだった。

そのため昔打ち据えられた痛みや後に響くダメージには程遠い。

これならば翌日にはピンピンしてられるだろうと判断した。


しかし、ただ打ち据えられている趣味もない仁は当たる瞬間に僅かに身体を逸らす事でダメージを軽減させ続けた。

現代で言えばメタボ体型に見える男は数分も打ち据えていると、嗜虐的な笑みを浮かべながら息を荒げ始めた。

その頃になって、顔を上げないまま周囲を見渡すと豪華そうな大きな部屋に仁を打ち据える男以外にも数名の者がいるのを把握した。

仁のはみすぼらしいものの、一番豪華そうなローブを着たのが打ち据える男。

それ以外の者もそれなり以上の揃いのローブを身にまとっていた。

変わったローブではあるが、基本的には同じローブで、それぞれが僅かに装飾を変えているのがわかった。


(揃いの服を着てるってことは何かの団体関係なのか?

しかしローブってことは宗教かそれに似た身体を使わない団体のようだが…。)


ローブというものは要はデカくて、ヒラヒラしたコートと思えばいい。

ものによっては、頭から被って首を出して袖を通すだけの、筒に袖をつけだだけのような衣服である。

軍隊などを初めとした身体を動かす職業ならば、このような衣服を制服にするとは考えづらい。

また男たちが着ているローブは全て白に金で装飾した、威厳を見せ付けるようなものであった。

それらを踏まえて仁はこれは宗教関係かそれに似た団体の中にいるのではないか、と判断した。


頃合を見計らったのか、周囲にいた者の中で比較的シンプルなローブを着た男が一歩歩み出た。


「それくらいになさってはいかがですかな、大司教殿。

躾にしても程がありますし、霊薬で抑えてはいるとはいえ目覚められたら一大事ですぞ。」


深い渋みのある、落ち着いた声音。

しかし仁にはその中に嫌悪感が混じっているのが僅かに聞き取れた。

それを聞いてやっと大司教と呼ばれた男が手を止める。

少し苛立たしげに口元を歪めるが、軽く呼吸を整えて声の方へと向く。


「バイス子爵、心配はご無用。

コレは我々ヒューマン以上に生命力の強いケダモノでしてな。

これくらいでは死にはしませぬよ。」


『ケダモノ』扱いに苛立ちを感じないわけではないが、仁は膝をついた体勢から崩れ落ちたという様子を装って床に倒れ付した。

殴られないなら殴られないに越したことはない、ならばこれ以上は無理という様子を見せた方がいいという判断である。


(正直、殴られたなら倍にして殴り返したいが…今自分がどこにどうなっているのかもわからん。

その中で一番偉そうな「大司教」様とやらに危害を与えれば命も危うそうだしな。

…『ケダモノ』呼ばわりも含めて、万倍にしていつか返してやるが。)


怒りをかみ殺しながらも床に倒れ伏して、周囲の様子を伺う。

先ほど大司教を諌めたバイス以外はその事を意に関せずといった様子である。

そのバイスが倒れた仁の傍らに慌てて身を寄せて、助け起こす。


正直、仁からしたらそっとしておいてもらっても構わなかったのだが。

昔の、足腰が立たないどころか数日蚯蚓腫れが引かず、内臓をも痛めつけられて血尿が出る「シゴキ」に比べれば鼻歌交じりで受けれるレベルの「躾」である。

仁からすれば「お疲れさん」と大司教に言ってもいいくらいであった。


しかし、バイスには大事のようであった。

抱き上げられはしないものの、うつ伏せから仰向けに抱き起こされ、上半身を起こされた仁には、50半ばといった様子のバイスの顔には明らかな怒りが見て取れた。


(おやおや、それなりに年のいった人物のようだが…青いねぇ。

だがまぁ、その気持ちはありがたいし、そういう青さ、嫌いじゃないがね。)


転生前に聞いていた情報から判断するに、今自分は獣人などの迫害される種族なのだろうと悟った仁。

それを生前の世界に似た人道的な感情で、自分より上の立場であろう大司教に歯向かうバイス。

その青臭い正義感ともいえるあり方に仁は内心だけで内心ほくそ笑む。


「言わぬ事ではない!まだ身体の出来上がっておらぬ子供相手にする事ではないでしょう!!

…今日はもうこの程度になさって下さい。

障害などが残れば大司教様のお立場、ひいては光神教の立場もけしてよくはないでしょう。」


声を荒げて非難するものの、一息呼吸をする間に声音を抑えるバイス。

それをつまらなそうに鼻で笑うと、大司教は杖を傍らにいた者に渡して背を向ける。


「…ふん、まぁよい。子爵殿の諫言、受け入れるとしようか。

この度、領地よりこちらにお呼びしたのもその件であるしな。

子爵殿、いや、バイス元司祭殿にその者の世話をお任せする。

なにやら情が移った様子ですし、ちょうどよろしかろう。」


薄めの金髪を後ろに撫でつけて、大司教が言う。

その内容を怪訝そうに、しかし僅かにだけ灰色の眉を寄せてバイスが問いかける。


「…よろしいのですね?」

「当然だが、子爵の領地に連れて帰る事は勿論、首都の外へ連れ出す事も禁止する。

この大聖堂の中、地下の檻で基本的に生活させること。

何かあれば相談をしていただくことになるな。

あとは、当然霊薬はこちらの者が準備し、毎回投与させる。

治癒などはしたければしても構わん。」


それを聞いて、バイスはギリッと奥歯を噛み締める。


(どうも俺は奴隷か何かのようだ。

霊薬、とやらがよくわからんが…何とかなるといいが。)


仁は己の事よりも赤の他人と思われる自分のためにここまで怒れるバイスの人間性を改めて評価する。


「……で、我が孫には会えるのでしょうか?」

「何をおっしゃいますやら。我々が祖父と孫の面会を阻む必要などないでしょう?

まぁ、光神様の加護を受けた聖女であられようと、お孫殿は修道女としての修行の身。

時間の制限や、万が一の良からぬ影響を受けぬようにはさせていただきますがね。

ついでに大聖堂で持ち前の治癒の腕前も振るっていただければ幸いですね。」

「…最後のは、しばらく考えさせていただきたい。

この子の世話や治癒もありますので。

…無駄かもしれんが、最低限の教育を受けさせて礼儀作法でも覚えれば、そちらのためにもなりましょう。」


(このバイス子爵殿は孫を実質人質にとられてるのか。

それもあって逆らえず、ということかね。)


黙って意識を失ったふりをしながら聞いた内容を咀嚼する仁。

それを周囲の嘲笑が包む。


「ふ、ふははは!バイス子爵殿、お孫殿と歳格好が似通っているからと、そのケダモノに教育を!?

さすがケダモノを擁護される、心優しき司祭殿は違いますな!!

結構、高濃度の霊薬を投与されたそのケダモノが理解できるかはわかりませぬが、お好きになさるといいでしょう。

ついでに芸の一つでも覚えさせて、我々に見せていただきたいですな。」


おかしくてたまらないといった様子で笑う取り巻きと大司教。

周囲の人間もそれなり以上に高位の聖職者であるようだが、基本的に人道主義者はいないようである。


「…いつかお見せいたしましょう。

では、その地下牢に案内いただけますかな。治癒も必要でしょうから。」

「えぇえぇ。結構です。

が、その前に今日の霊薬を投与してから、ですな。」


そういって大司教が合図すると、奥から二人の人間が入ってくる。

その二人がぞんざいな扱いで仁の顔をつかむと、手馴れた手つきで口にどろりとした液体を流し込む。

その液体が流し込まれた瞬間、仁の世界がぐるりと回った。


「ガッ!?ゲホッ!!カハッ!!…んぐっ!」

「チ…暴れやがる。子爵殿、動かぬように固定をお願いします。」

「…わかった。」


仁は食道が焼けるような熱を感じて、強烈に咳き込む。

しかし、それを許さぬとばかりに傍に来た二人が身体を押さえつけるとともに、口が開かないようにと顎を無理矢理閉めさせる。

苦しさに痙攣し、もだえる内に意識が朦朧とし、また深い眠りに落ちていった。


(く、ぁぁぁっ!なんだこりゃぁっ!!

光神教、だな…覚えたぞ、こいつら…借りは、万倍に………し、て…。)



完全に意識が飛び、ぐったりとした仁を確認すると薬を投与した二人は来た奥のドアへと帰っていく。

それで用は済んだなと周囲を見渡すと、小さな仁の身体を抱き上げてバイスは立ち上がる。


「では、これにて。」


もう何も聞きたくないとばかりに大司教の謁見室を後にする。

外に控えていた者に案内させて、先ほど大司教に言われた「地下の檻」へと子爵は足を進める。


階段を下りながら周囲を見渡す。

築百年を迎えた大聖堂。

その最上階は5階であり、司教クラスか特別に許可の出た者しか入れないフロアである。

子爵は元司祭であることと、呼び出しをうけていたことで初めて入れたフロアだった。


調度品は子爵の立場のバイスをしても、手にしたことのない豪華なもの。

壁は磨き上げられて真新しく見える。


これだけの財があれば、どれだけの人が救えるのか。


そうバイスは内心で毒づく。

現在ガラム聖国は二重に徴税されるシステムとなっている。


バラン王家と光神教。

この二大勢力がそれぞれ徴税している形である。


王家が徴税するのは当然の事だ。

国家を運営するにあたって、ただで行えるはずがない。

治水工事や軍事の運営。

金はいくらあっても足りないくらいである。

しかし、バラン王家の課す税は諸国に比べれば控えめといっていい。


直轄地なら直接王家が徴税し、各貴族の領地ならば貴族経由で徴税する。

当然ながら貴族領ならば貴族が上乗せもするが。

(貴族も己の領地の運営のために金が入用だからである)


一番の問題は光神教である。

使い道は曖昧で、要は「お布施」や「浄財」という形で要求する。

義務である、などとは言わない。

いくら権力があっても、光神教はあくまで「宗教団体」であり、「国家」とは無関係だからである。

あくまで「善意」を求めるのである。


しかし、実質はどうかといえば義務である。

断ろうとすれば光神教の嫌がらせを受けることになるのである。

例えば商人の出入りが悪くなる。

教会での治癒術を何だかんだ理由をつけて拒否される。

酷い場合はそれを名目に住民を先導し、内乱を起こされる。


しかもその額は税より多いときている。

そのせいでガラム聖国は他国よりも難民の数は多い。

そうして集められた金で作られたのが、黄金の像や高価な調度品である。



バイスはそれを思うだけで苛立ちを隠すのが精一杯になる。

司教たちの豪華な法衣。

煌びやかな指輪。

脂ぎった肥満体。

それの元となった金を全て難民救済に使えれば何人の命が救えるのかと。


しかし、それを声高に言えば己の孫の立場や領地運営に影響が出る。

若かりし日に味わされた苦痛は今も忘れられない。

また、今バイスの腕の中でぐったりとする少年。


素性を聞いた時は正気を疑ったが、間違いのない事実であった。

ここで自分が感情のままに教団を非難して、彼の担当を離れればどんな者が彼の担当になるかわからない。

正直、教団に対して反感を示した事もあるバイスが担当になることがありえない話だった。


(万が一、に備えて…なのかもしれんな。)


懸念事項としては腕の中の仁である。

ふと見下ろして、脱力しきった力ない姿を痛ましく思いながらバイスは仁を案内された牢屋の中へと運んだ。

この地下へと案内した係りの者は、入り口にまで案内すると同じ空気を吸うのも嫌だとばかりにバイスに鍵を押し付けて去っていった。


その「檻」の中はシンプルなベッドと申し訳程度についたてで隠れたトイレ。

それと水の入った大甕と陶器のカップ程度であった。


バイスはその汚いベッドを不愉快そうににらみながらも、仕方なく仁をベッドにそっと下ろした。


(本当に獣か囚人扱いをしているのだな…。)


本来ならばこのような扱いは許されるはずではない、とバイスは思いながら治療のために魔法を唱えるのであった。

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