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水沢紫と七人の悪魔たち  作者: リノン
水沢紫の帰郷
8/22

第7話:春一番(前編)

「あぁ~」

 春休み最終日。我々学生にとっては鬼とも悪魔とも呼べる一日です。宿題との闘いで一日を費やす人もいれば、翌日から始まる学校に向けての準備に追われる人もいるでしょう。

「あぁ~」

 そして何より、私のように学校へ毎日足繁く通うことに対して少なからず不安や抵抗を覚える人も、たくさんいることでしょう。

「明日から学校だというのに、お前は何をやっているんだ」

「あ、おじいさん」

 午前中からカウチポテトを決め込んでいるところへ、おじいさんが入ってきました。手には何やら中に荷物が詰め込まれているであろう鞄。もしかして外出でもするのでしょうか。

「何って、明日に向けての英気を養っているところですが?」

「ソファーに座って菓子を食べているだけにしか見えんのだが」

「ここが一番落ち着くんですよ」

「縄張りを見張る猫かお前は」

 なんというか、家の中で一番落ち着くスペースを占領したりする人って結構いると思うのですが。

「今からそれではこの先が思いやられるな」

「何を言ってるんです。転校前日は緊張すると相場が決まっているものでしょう。だからこそこうやって心身共にリラックスさせているのです」

 私の言葉を聞いたおじいさんは額に手を当てため息を一つ。

「まあいい。少し出かけてくるから留守番を頼む」

「帰りは何時頃に?」

「明日の昼頃になりそうだ。食事も外で食べてくる」

 おじいさんはそのままリビングを出ていってしまいました。

 明日の昼までおじいさんが帰ってくることはない。ということは少なくとも今日一日は一人自宅で過ごすことになりそうです。

「一応食材の買い置きもしておきますか」

 冷蔵庫を確認したら、どうも野菜があまりなかったので野菜を中心に買ってくることにしましょう。










 買い出しを終えて家に着く頃には、日中だというのに段々空が薄暗くなり、雲行きも怪しくなり始めてきました。この分だとあと30分もすれば雨が降り出すでしょう。

 時刻は既に正午過ぎ。調理はほぼ完了し、後は鍋に入った具材が煮込むのを待つだけ。ちなみにメニューはホワイトシチューとサラダ。

「…………」

 ふと家の中を見回す私。

 聞こえるのはシチューを煮込む音と、杓子で鍋の中のシチューをかき回す音だけ。一人だからか、いつもよりも家の中が広く感じてしまいます。

 落ち着かないというか、退屈しているというか、なんだかよくわかりません。もしかして、ホームシックというやつでしょうか。

「いやいや、実家にいるのにホームシックってのはおかしいでしょ」

 シチューも無事に完成し、いよいよ盛り付けのために食器を出そうとしたその時。玄関から呼び出し音のチャイムが聞こえてきました。おじいさん宛ての宅配でも届いたのでしょうか。

「はい、今開けます」

 ロックを解除してドアを開けた先には裕也の姿がありました。

「どうしたんです。こんな天気が悪くなりそうな日に」

 息せき切らした裕也は私に向かって手のひらを合わせ、更に頭を下げてきました。

「頼む。宿題が終わらないから手伝ってくれ!」

「いやいやあなた……。もういいです。もうすぐ雨も降りそうですし、とにかく中に入って下さい」

 これが明日から転入する人に対する頼みなのでしょうか。私にはよくわかりません。

「裕也はもうお昼は食べたんですか?」

「いや、食べてない。だから何か作ってくれ。今日は肌寒いからあったかい食べ物がいいな」

「いけしゃあしゃあと何を言っているんですか」

 どこまで図々しいのやら。

「わかりましたよ。私も丁度お昼にしようと思っていたところですから」

「ちなみにメニューは?」

「ホワイトシチューとサラダです。これなら身体も温まるでしょ」

「おう。ばっちりだ」

「それじゃあご飯を食べたらさっさと宿題を終わらせてしまいますよ」

 とりあえず今日一日は退屈しないで済みそうです。

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