第6話:再会
「よう、久しぶりだな」
後ろを振り向くと、そこには数年ぶりに見る男子の姿がありました。
「聞いたぞ。昨日こっちに戻ってきたんだってな。それならそうと挨拶ぐらいしてくれてもいいじゃないか」
「あなた一人に挨拶に行くと、それを聞き付けてたくさんの方たちがやってきそうだったので、遠慮させていただきました」
この男子の名前は中野裕也。私の家の二件隣に家がある、いわゆる幼馴染というものです。家が近かったのと、近くに同年代の子供が私たち以外はほとんどいなかったので、気がついたときにはお互い仲が良くなっていました。
「覚えてます? 大体ここを離れる時だって、かなり大がかりなことになっていたじゃないですか」
「そういえばそうだっけ」
あの時は私が転校するということを聞いた周辺住民たちの迅速な手際によって、最寄りの川原でお別れ会という名の大々的なバーベキューパーティーが行われたのです。そして私に課せられたのは、十数人の知人を前にしたスピーチという尋問のような何か。あの時の思い出すだけで頭が痛くなりそう。
「お、それお前のおにぎりか」
「ええ。朝の残りもので作ったものです。良かったらあなたも食べますか?」
「おう。いただきま~す」
暴食さんが食べなかったおにぎりと、鞄に入っているもう一つのおにぎりを裕也に渡しました。裕也はラップをはがしてからそのまま食べています。
「うむうむ。絶妙な握り加減だ。どうやら腕を上げたらしいな」
「それはどうも。あ、飲み物はありますか?」
「ああ。ちゃんと持ってきてるぞ」
彼はポケットから500mlのペットボトルを取り出して一気に飲み始めました。私は私で家にあった水筒にお茶を入れてきてあるので、備え付けのコップでお茶を飲むことにします。ああ、お茶が温かくておいしいです。
「ふう、ごちそう様。おにぎりおいしかったぜ」
「はいはい、お粗末さまでした」
私が一つおにぎりを食べている間に、裕也に渡したおにぎり二つはあっという間に彼の胃袋へと飲みこまれてしまったご様子。やっぱり男子は食べるスピードも速いのでしょうか。まあここまでおいしそうに食べているのを見れば、こちらとしても作り甲斐があったというものです。
「それで紫、ここに帰ってきたってことは4月からこっちの高校に通うってことか」
「ええ。確かあなたが通っている学校だったはずですよ」
そういえばまだ時間があるとはいえ、転校手続きが完全には終わってないんでした。今日帰ったらおじいさんにも少しばかり協力してもらって、さっさと終わらせることにしましょう。溜めておくと後々面倒なことになりそうですし。
「そっか。それじゃ、新学期からよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いしますよ。こちとらあなたの学校について何も知らないんですから。学校案内ぐらいはしていただきますからね」
「おう。任せておけ」
裕也は私の方へ手を伸ばし、私もその手を取って軽い握手を交わしました。