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水沢紫と七人の悪魔たち  作者: リノン
水沢紫の帰郷
6/22

第5話:散策

「ん……」

 数年ぶりの我が家のベッド。そこでの睡眠を終えて朝を迎えると、時計の短針は数字の九を指しておりました。

「ふあ……。ふかふかです……」

 以前単身赴任中の父と共に暮らしていた頃は、部屋が余り広くないということもあり、ベッドではなく床に布団を敷いて毎日の夜をやり過ごしていたのです。ところでベッドって布団には無い独特の寝心地の良さがあると思いませんか? 私はあると思います。

「え~っと、ブラシブラシ……」

 ブラシで髪を整えて、顔を洗った後にリビングへと向かいました。

「あ、おはようございます」

「うむ。おはよう」

 リビングではおじいさんが既に朝食を摂っている最中であり、私の席にも朝食が用意されていました。

 父が仕事で忙しかったために家事のほとんどを私が行っていました。なので料理が出来ないというわけではありませんが、何もせずとも食事が用意されているというありがたみを味わったのは何年ぶりになることやら。

「ところで、昨夜はよく眠れたか?」

「ええ。おかげさまで」

 悪魔がどうとか契約がどうとか、昨日だけでかなり濃厚なファンタジーが繰り広げられましたが、疲れは結構吹き飛んだようです。嗚呼。ベッド万歳。

「今日はどうするんだ」

「そうですね……。特にすることもないので部屋のベッドでゴロゴロと転がっていましょうかね」

「ふむ。だったら近所に帰郷のご挨拶でも済ませてきたらどうだ」

「私には周囲を散策するという何事にも代え難い用事があるのを今思い出しました。さあお弁当でも作りましょうかね」

 皿に残っている焼き鮭を箸で小さく切り分け、軽く塩を振っておいたご飯に詰め込んで三角形のおにぎりを量産しラップで包装。空いた皿は洗剤を使って手早く洗浄。備え付けの布巾で水気を取って、食器棚へと食器をしまっていきます。これにて作業終了。

「それではおじいさん、夕方ぐらいには帰ってくると思いますので」

 おじいさんの返事を待たずにおにぎりとお茶と荷物をかばんに詰めて、私は日光溢れる外へと飛び出していきました。




























「はぁ……暖かい」

 自宅から自転車を漕ぐこと約三分。ただ今児童公園のベンチで見事な桜を観賞中。この公園には私が小さな頃から立派な桜が何本も咲いており、季節の流れと共に四季折々の姿を見せてくれます。昔からのお気に入りの場所、というやつです。

 携帯電話に小説と暇つぶし対策はばっちりですが、今はまだ使用する時ではありません。

『ん? どうしたの?』

 今回は暴食さんを呼び出してみました。

「喚びだして早速ですが、ご一献どうですか?」

 私はかばんの中から今朝作ったおにぎりを一つ取りだすと、それを暴食さんへと差し出しました。暴食と言うからには、さぞかし美味しそうに食べるのでしょうか。

『悪いけどパス』

 そんな思いも束の間、暴食さんはおにぎりをこちらへと返してきました。

「もしかして暴食の悪魔なのに小食だったりします?」

『そういうわけじゃなくて、私たちは契約者の魔力をもらうから』

「それ故に食べ物は不要と」

『そういうこと』

 そういえば私、魔力量に関しての素質は全く無かったと思いますが、こんなにポンポン喚びだしても大丈夫なんでしょうか? 尽きませんように、私の魔力。

「それでは、私もそろそろ昼食にしましょうかね」

 暴食さんにあげようとしていたおにぎりを取り、ラップを外します。まだそれほど時間が経っていないからなのか、ほのかな湯気と炊き立てご飯のいい匂いが漂ってきました。

「いただきます」

 一口齧ってみると、食欲をそそるほのかなしょっぱさとわずかな鮭の香りに包まれます。うん、我ながらいい出来。

「お、紫じゃん。戻ってきてたのか」

 不意に、私が座っているベンチのの後ろからそんな声が聞こえてきました。

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