第4話:悪魔
『初めまして』
「はぁ……こちらこそ、初めまして」
目の前にいる七体の悪魔たち(?)は、皆三等身でだいたい身長が約十センチメートル。いえ、十五センチメートルぐらい?
悪魔というからもう少しごつい格好をしていると思ったけれど、人間らしくない姿というのがこういうことになるとは。さっき見た本の通りであれば、どうやら私は素質がなかったようです。
しかも服はジャストサイズ。ちゃっかり背中には小さな翼が生えてるし。あ、尻尾もあった。
「ほれ、せっかく契約したんだ。挨拶ぐらいしたらどうなんだ」
このおじいさん、相変わらず無茶を言ってくれますね。
「は、初めまして。私、水沢紫って言います」
悪魔たちにお辞儀をすると、あちらさんも律儀にお辞儀を返してくれました。
『それではこちらも自己紹介を』
『じゃあ私から』
『ボクから』
『だったら俺が』
『『どうぞどうぞ』』
「待って下さい。そんないっぺんに言われても困ります」
『では貴方から向かって左から自己紹介をば』
「ならそれでお願いします」
幸いなことにそれぞれ見た目が違いますし、特徴さえ覚えれば区別は出来そうです。
『ではまずウチから。ウチは嫉妬です』
一番左の悪魔が一歩前に出て自己紹介。何故海賊の帽子をかぶっているのでしょうか?
『アタシは色欲よ』
ああ。こちらはすぐに予想がつきました。……ビキニだし。『怠惰ッス』
こちらもパジャマ姿なのですぐにわかりました。
『俺は憤怒だぞ』
スーツ姿が似合う彼はどうやら憤怒のご様子。課長か何かでしょうか。
『ボクは傲慢だよ~』
こちらは眩しい金髪が存在感をアピールしています。
『私は暴食。よろしくね♪』
アホ毛が似合うこのお方。暴食なのに太っていないのはどうしてでしょう。
『オイラは強欲。よろしく』
……手に小さな万札みたいなのが見えますが、あれ偽物ですよね?
「何はともあれ、これからよろしくお願いします」
『『『あいさー』』』
全員どこかへ消えていってしまいました。
「どうやら掴みはばっちりのようだな」
椅子に座っていたおじいさんがこちらへやってきました。というか今のでばっちりだったんですか?
「そういえば、悪魔たちはいつでも喚び出せるみたいですけど、何かやり方とか呪文とかはあるんですか?」
「いや、頭の中で念じれば喚び出したい悪魔が出てくる」
ということなので、早速喚び出してみましょう。えぇっと……。
『そうそう。忘れてた』
「わ!」
喚ぼうとする前にあちらからやってきました。この方は確か。
「色欲さんでしたよね」
『ピンポーン。はいこれ』
「あ、どうも」
色欲さんが渡してきたのは、何かが書かれている紙。どれどれ。
傲慢:★★
嫉妬:★★★
怠惰:★★★★★
色欲:★★
暴食:★
憤怒:★★
強欲:★★★
「あの、一体何ですかこれ」
『あなたのステータス』
え? ステータス? 私の?
渡した当人に尋ねようにも、彼女は既に消えたご様子。
「そういえば言い忘れていたな。契約の際に自分の性格について診断されるんだ」
「それがこの七つの大罪ですか?」
「ああ。五つ星の評価をされるんだが、なるほどこうなったか」
「私はとことん怠惰な人間であるとみなされたわけですか」
「当然だろう。火を見るよりも明らかなことだ」
「失礼なおじいさんですね」
私はただ、身に余る苦労をしたくないだけだというのに。
「これで契約は完了した。他に聞きたいことはあるか?」
「いいえ。今はありません」
帰郷の長旅やら契約やらで、今日はもうヘトヘトです。温かいベッドで眠ることにしましょう。
「紫」
「なんですか」
ドアを開けて部屋を出たところで、おじいさんに呼び止められました。
「よくがんばった。今日はゆっくり休みなさい」
「……もとよりそのつもりです」
後ろ手にドアを閉めて寝室へと向かうことにしましょう。
昔は褒められたことなんてあまりなかったのですが、珍しいこともあったものですね。
「ふぁ……もう限界……」
昔懐かしの寝室に到着し、いの一番でベッドに潜り込みます。するとすぐに瞼が落ち、意識はまどろみの中へ沈んでいきました。