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水沢紫と七人の悪魔たち  作者: リノン
水沢紫の帰郷
3/22

第2話:水沢家

「お前にーー悪魔との契約を結んで欲しい」

 ……はい?

 悪魔?

 アクマ?

 AKUMA?

 アレですか、ファンタジーよろしく童話や神話、ゲームや小説などに出てくるあの悪魔だと言うのですか。

 一体何を言っているんでしょう、このじいさんは。ボケてしまったのでしょうか。ああ、寄る年波に勝てなくなってしまったせいか、ついにおつむの方が使い物にならなくなってしまったのでしょう。だったらこんな寝言みたいなことを言っても仕方ないですね。

 ええっと、ボケ治療に効果的な食材って何でしたっけ。この近くで売っているものだとこちらとしてはありがたいのですが。

「おい」

「何です?」

「今非常に失礼なことを考えていなかったか」

「まさか。そんなことがあるわけないじゃないですか。親しき仲にも礼儀有り、と言うでしょう」

 一応私も人並み程度には科学技術の息がかかった生活を満喫している現代っだったりするのです。そんな私にいきなり想像上の生き物である悪魔について語られ、あまつさえて契約を結べと言われても、はいそうですかと納得できるわけがないでしょう。

 とりあえず鶏の唐揚げでも食べて、一旦気を落ち着かせましょう。大丈夫。おじいさんがボケていないのであれば、きっと私の聞き間違いでしょう。もしくは文字の誤変換といった勘違いか何かです。

 まぁこうなった以上、まずは双方の情報解釈における齟齬を無くす作業から始めることに致しましょう。というわけで、一度深呼吸をしてからおじいさんに問いかけます。願わくば、おじいさんが言う『アクマ』という存在が、『悪魔』ではない別の何かでありますように。

「あの……おじいさん」

「何だ?」

「まさかとは思いますが、悪魔というのは人に災いをもたらし、よく天使の対になる存在として描かれていて黒い羽根と尻尾が特徴的な、あの悪魔だったりするんですか?」

「その悪魔以外に何がある」

 情報解釈の齟齬の解消は、私が想定する最悪の形でなされることとなりました。一体どうしてこうなった。

「ま……またまた~。おじいさんってば、冗談が上手いんですから~困ったものですよ全く」

「こんな時に冗談を言って何になると言うんだ」

 ダメだこの老人、眼が本気です。仕方ありません。悪魔が存在することについて未だに信じられませんが、これはもうおじいさんに話を合わせるしか道は残されていないようです。

「その悪魔が、科学技術溢れるこの現代社会に存在していると?」

「存在しているというより、喚び出すといった方が正しいな」

「喚び出す、ですか?」

「ああ。ちょっとついて来い」

 空になった皿や茶碗を水に浸し、リビングを後にして廊下に出ます。

 するとそのまま廊下を奥まで進み、突き当たりにある扉の前までやってきました。

 そしてポケットから鍵束を取り出すと、その中の一本を鍵穴に差し込んで回したのです。

「あの、ここって昔絶対に開けるなって言われた扉だったはずだったんですが」

 まだここに住んでいた頃、この扉を絶対に開けないようにとおじいさんや両親が口を酸っぱくして何度も言っていました。

 そんな中、以前どうしても気になってこっそり開けようとした所、家族総出でこっぴどく叱られたのは未だによく覚えています。

「ああ。あの時はまだ早過ぎたからな。だが今は違う」

 開かれたドアの先には、薄暗い闇と地下へと伸びるレンガの階段がありました。

「この先にある部屋で、お前に悪魔との契約を結んでもらう」

 おじいさんは壁に掛けてあったランプを手にとって火をつけると、そのまま階段を降りていきました。しかしここだけやけに壁が古ぼけていますけど、ちゃんと補強とかされているのでしょうか。

「何をしている。早くついてこんか」

「あ、はい」

 私もおじいさんに続いて階段を降りていきます。……壁と同じく随分古そうな階段ですが、崩れたりしませんよね、コレ。

「部屋に向かう間に、水沢家について説明しておこう」

「うちについて、ですか?」

「ああ。遡ること約150年前。当時ヨーロッパに住んでいた先祖が、悪魔ととある契約を結んだ」

「とある契約?」

「悪魔を喚び出して彼らの能力ちからを借りる代わりに、代々に渡って水沢家の子孫が悪魔を喚び出し契約を結び続ける、という契約をな」

 それで同じ水沢家である私も契約に従い、悪魔を喚び出さなければいけないと。本当になんてことをしてくれたんでしょうね、私のご先祖様は。

「ということは、小さい頃は時期がまだ早過ぎたというのはーー」

「ああ。契約は17歳の誕生日を迎える日までの半年間以内に行わなければいけないからな。それまでの間に余計なことを知られるわけにはいかなかったからな」

「どうして知っちゃダメなんですか?」

「お前が知ったら部屋をしっちゃかめっちゃかにかき回すだろう。それが原因で大事な物が紛失でもしたら大変だからな」

「ああ。なるほど」

 それで私が部屋に入るのをあんな厳重に禁止していたわけですか。転校してこの家を出てからは、どうやっても入れなかったのですが。

「ほら。ここだ」

 階段の突き当たりにある扉を開けると、古ぼけて埃まみれーーかと思いきや、綺麗に整理整頓された部屋がありました。 幾つもの本が押し込まれた棚はピカピカで埃一つなく、床も光沢ができるほど磨かれています。これまで下ってきた階段の汚れ具合から、部屋も同じように汚いものかと思っていたのですがね。

「あの、もしかしてこまめに掃除してたりしていたんですか?」「普段はここまでやらんのだが、お前が帰って来るのに合わせて徹底的に掃除した」

 ご苦労なことこの上ないです。

「さて、早速だが悪魔との契約の準備をする。お前も手伝ってくれ」

 おじいさんが両手に抱えている箱には、側面に黒マジックで大きく『儀式用』と書かれていました。中を覗いてみると、丸めた上から紐で縛ってある羊皮紙、謎の赤い液体が入った大きなガラス瓶、表紙の文字がかすれている分厚い本といった沢山の物が入っているではありませんか。

 ものすごく嫌な予感しかしませんけど、本当に大丈夫なんでしょうか。

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