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水沢紫と七人の悪魔たち  作者: リノン
水沢紫の帰郷
2/22

第1話:帰郷

初めてのオリジナル小説ですが、どうぞよろしくお願いします。

『本日は、ご乗車ありがとうございます。この電車が向かいますのはーー』

 春風も麗らかなある日。電車のシートに揺られていると、そんなアナウンスが耳に入ってきました。

「……ん……ふぁ」

 目を開けると少しの眠気とけだるさが襲いかかってきました。どうやらしばらくの間眠ってしまったようです。

「この分だと、到着まであともう少しですね」

 時計を見ると、もう夕方。地平線に沈む太陽に比例して、私の気分も駄々下がりです。

「もう少しで着いちゃうんですよね……」

 電車の窓から外を見れば、そこには見覚えのある光景が広がっており、益々沈む我が気分。

「どうしたんだいお嬢ちゃん。随分と暗い顔をしとるけど、何かあったんかい?」

 隣に座っていた見知らぬおばあさんが、心配そうな顔をして私の顔を覗き込んでいました。

「いえ、なんでもありませんよ」

「そうかい? ならいいんだけどもっと明るくしてなきゃ幸せが逃げちまうよ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

『次に止まります駅はーー』

 作り笑顔でやり過ごしていると、私が降りる駅の名前がアナウンスで流れました。他人との積極的な交流が苦手な私としましては、なかなかナイスなタイミングです。

「それではここで降りるので、そろそろ失礼します」 電車が止まりドアが開いたのを確認すると、お婆さんから逃げるようにホームへと飛び出しました。

 そこからバスに揺られ、更に少し歩くとようやく目的地に到着します。

 しかし、本当の戦いはこれからです。

「おや、久しぶりだねぇ」

「小学校以来じゃない?」

「すっかり大きくなっちゃって」

「髪は相変わらずふわふわだね」

 老若男女が次々と私に声をかけてきました。そう。ここは私が生まれ育った故郷であり、帰郷してきたのです。育ったと言っても、家の都合で小学校の途中から高校1年生までの数年間は地元とは別の地方の学校へ通っていたのですが。

 別に大都会じゃあるまいし、帰郷でテンションが上がる人なんてほとんどいないでしょう。

 私を懐かしむ人混みから半ば逃げるように、久しぶりの我が家へと歩を早めました。









「ただいま戻りました」

「おかえり。随分久しぶりだな、ゆかり

 生まれた我が家のドアを開けると、その時ちょうどおじいさんが玄関に出ていました。

 白い髪に無精髭。70代とは思えない元気さと動きの機敏さ。曲がることなく真っ直ぐに伸びた背。おじいさんの方は私が知る昔の姿とあまり変わらないようです。ちなみにおばあさんの方は既に他界してしまったので、ずっと前からおじいさんはこの家で一人暮らしをしています。

「立ち話もなんだろうし、それに長旅で疲れているだろう。とりあえず中に入りなさい」

 おじいさんに連れられて家の中に入ると、部屋の間取りや様子は当時ここに住んでいた小学生時代とほとんど変わりはありませんでした。ああ、懐かしきこの住まい。

「お前が今夜帰ってくると聞いたから二人分の夕食を作ったところなんだが、もしかしてもう外で何か食べてきたのか?」

「いえ、何も食べてないので私もいただきます」

 私とおじいさんがリビングへと向かい入ると、テーブルにはすでに二人分の食事が向かいに並んだ状態で用意されていました。私もおじいさんも席に座り、早速おじいさんお手製の夕食をいただきます。

「すまないな紫。こんな中途半端な時期に突然転校、それもよりによって帰郷させることになってしまって」

 夕食の焼き魚に舌鼓を打っていると、おじいさんがそんなことを言い出しました。

「まぁ、事情が事情ですからね。しょうがないですよ」

 元々おじいさんと私たちは別居していたのです。しかし病気持ちだった母は私が産まれてすぐに亡くなり、更に先月父の転勤が決まりました。

 そしてそんな状況下での子育ては辛かろうと、おじいさんは父の転勤に合わせて私にこちらへ戻るようにと連絡を入れてきたのです。その後私と父も合意の上、春休みを利用して帰郷することになったのが今回の事態の顛末だったりします。

「確かにそれもあるんだが、実はお前にこちらへ来てもらったのはそれだけではないんだ」

「え? それってつまり、他にも何か理由があるってことですか?」

「そういうことだ。紫。水沢家みずさわけの人間として、お前にやってもらわなければいけないことが一つあるからな」

 これは驚きです。しかもおじいさんの言い方から察するに、どうも私個人がやるべき事柄のようです。

「私の家って、そんなに重大な秘密を抱えていたりするんですか?」

「ああ。それでやってもらいたいことというのはーー」

 おじいさんは一つ息を吐いて間を置くと、真剣な眼差しでこちらを向いて口を開きます。

「お前に、悪魔との契約を結んで欲しい」

 おじいさんのこの一言が今後の我が人生を180°変えてしまうことなど、この時の私が知る由は微塵もありませんでした。

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