REMINISCENCE OF YOU
一つひとつ…
思い出話をして行こうか…
モウスグデ消エテシマウ君ニ…
桜吹雪の頃
去年の桜の頃に俺たちは出会った。
「どうかされたんですか?」
近所の公園の
小さいながらも立派な桜並木の中で。
「…?」
君はゆっくりと俺を見た。
突然かけられた声に
あまり驚いた風もない。
「泣いてるから…」
そう、始めて俺が見た君は
…泣いていたんだ
「あんまりにも…綺麗だから…」
答える君は
今にも消えてしまいそうな細い声で
「おかしいですか?」
そう聞いた。
「綺麗なのは…桜ですか?」
聞き返す俺に頷く君。
「そうですね…」
俺は少しの間、桜を見て
それから彼女を見た。
「とても綺麗です。」
思ったままを口にすると
君は淡く微笑んだ。
「そうですよね。私、毎年この時季になると桜が呼んでいるような気がして…」
「だけど…」
俺は君の言葉を遮った。
「…?」
「その桜を綺麗だと言って…涙を流す貴女も…とても綺麗です」
君は驚いた顔をしてすぐに顔を伏せた
そう…君の頬は真っ赤だったんだね…
それが…君と俺の出逢いだった…
緑の頃。
地面や木々を覆う新緑が
ようやく吹いてきた南からの風に
優しく撫でられて行く。
「ねぇ…どうして空は青いのかな?」
君はそんな疑問と共に隣の俺を振り返る。
「…なんでだろうね?」
俺の答えに苦笑して君はまた空を仰いだ。
「空の上には…宇宙があって…宇宙の上には…何があるのかな?」
今度は空を向いたまま君が口にした言葉。
「…宇宙がずっとずっと続いてるんだよ」
大して考えもせず口をついて出た言葉に君は
「じゃぁ宇宙の終わりには?」
更に疑問を投げかける。
「何も…ないのかな?」
何故か不安そうな瞳で俺を見る。
その瞳はあまりに揺れていたから…
「…神様の世界…かな?」
ガラにもなく
そんな事を言ってしまった。
君は一瞬驚いたような顔をして…
それから…
華のように微笑ったんだ。
なぁ…覚えてるか…?
あの時…お前は…
空を見ながらそっと…
紅葉映ゆる頃
窓から見える景色が
赤一色に燃え始める頃
君は舞い落ちる木の葉の中で
微笑んでたね。
春には
あんなに見事な桜並木だった公園が
今は燃えているかのように赤一色。
あまりに美しい光景で…。
「ねぇ!この紅葉、綺麗な赤!」
「本当だ…落ちたばっかりなんだな」
「押し花にしよっと」
「しおりにでもするのか?」
「いいかも!!」
楽しげにはしゃぐ君をみて
転びやしないかと心配になった。
その時…風が吹いて
「うわぁっ!!」
一斉に舞い上がった落ち葉に
目を見開く君。
そう、俺はあの時…
落ち葉の渦に触れようとする
君の手を強く引いて…
君を抱きしめたんだったね。
え…あの時は痛かったって?
ごめんごめん。
今考えると自分でも
ビックリするような行動だったよ。
それで…
「どうしたの?」
驚いたように…でも嬉しげに笑う君。
「…なんでもない」
とっさに意地を張った俺。
でも…腕にこもる力を
緩める事は出来なくて…
「…どうしたの?」
繰り返す優しい問いに…
「…」
「…ねぇ…?」
「…お前が…」
「…?」
「…落ち葉に連れてかれるかと思った…」
口をついた言葉…
馬鹿な事言ってるって
自分でも思ったよ。
だから笑われるかと思ったのに
「…どこにもいかないよ…」
君の言葉は何処までも優しくて
思えば…あの頃から君は…
こんな日が来る事を
知っていたのかな…?
腕ノ中デ…
真ッ白ナ顔ヲシタキミガ
苦シゲナ吐息ヲ…
遠クカラ…
紅葉ヨリモ真ッ赤ナ
サイレンガ近ヅイテクル
ネェ…
誰モ触レナイデ…
キミヲ俺カラ奪ワナイデ…
ね ぇ …
そしてキミは…
白イ箱ニ閉ジ込メラレタンダネ
冬華舞う頃
思い出してみれば
君とは自然の中で出会って
自然の中で同じ時を過ごしてたな…
その年の樹氷が降りる頃…
白くて四角い建物から見る外の景色は
やっぱり白くて。
「雪のにおいがする…」
君はそう言って窓のほうを見た。
俺は日光を遮断してしまう布を
少しだけ開けて
静かに舞う結晶を眺めた
「ホントだ…」
「もう…そんな時期なんだね…」
「よくわかったな」
驚く俺に
「このにおい好きなの」
そう笑う君は本当に嬉しそうで。
ゆっくりとした動作で
ベッドから降りてきた。
「…大丈夫か?」
「少しなら平気…でも…ちょっとこうさせて?」
そっと俺にもたれる君の
抜けるような肌の白さに…
抱きしめれば消えてしまいそうな…
そんな錯覚を覚えたんだ。
「いつか2人で…」
「?」
「俺の故郷に行こうか」
「…ぇ…?」
「元気になったら、な?」
「…ぇ…?」
「俺の育った街をお前にみせたいんだ」
我ながらかなりクサイ言い方したな
そんな事を思いながら君をみると…
「連れってって…くれるの…?」
驚きと嬉しさと…
なんだか複雑な顔をした君が
俺を見上げて…
あの時は…
なんで君があんな顔したのか
…俺には解らなかったんだ…
だけど今にも泣き出しそうな君に
俺は精一杯真剣に言ったんだ
「お前の他に…誰を連れて行くんだよ?きっと母さんもビックリしながら喜んで迎えてくれるさ」
一瞬
驚き一杯の顔の後
「…じゃぁ精一杯おしゃれしていかなきゃ」
泣き笑いで君は俺に言ったね
ちゃんと…忘れてないから…
あれ…寝たのか…?
今日は少し早く来たから…
疲れたのかな…
ダケド…
今ニナッテヨウヤク気ヅイタンダ…
「必ず…行こうな?」
あの時…君は微笑ったね
外を染める冬華のような
今にも溶けて消えそうな…
何よりも綺麗な微笑みだった
そんな顔で微笑って…
君は…
…答えなかったんだね…
日差しの下に
車椅子を押しながら君の鼻歌を聞く。
「あ、…桜の木!」
ふいに君の声が弾んだ
「芽が膨らんでるな…もうすぐ咲くんじゃないか?」
「うん!早く咲かないかなぁ…」
「そしたらまたあの公園に行こうな」
「早く元気にならなきゃ!」
あの頃より…ずっと細くなった声
ずっと細くなった身体…
けれど変わらない瞳の強さ
「ねぇ!」
両腕を俺に伸ばす君
「…よっ…と…」
抱き上げると
あまりの軽さに胸が詰まる
「わぁ!高いっ!」
無邪気にはしゃぐ君は
空へと手をかざした。
「届きそう…」
眩しそうに呟く君。
そっと…手を下ろさせて
その甲にキスをした。
くすぐったそうに笑う君の頬は
淡く赤くて。
今…この時を…
離したくない…
離れたくない…
…ねぇ…
どこへも行かないで…
ずっと俺の傍に…
「泣かないで…?」
君の声にも涙は止まらなくて…
「ごめん…もう少しこのまま…」
最後にするから…
君の前で泣くのは
…もう最後にするから…
日差しの下
君の腕に包まれていた
昨夜
白衣ノ人ガ言ッタ
「モウソロソロデショウ…」
「アト一週間…モツカドウカ…」
残り時間はあと僅か…
星降る夜に
ピッ…ピッ…ピッ…
規則的な電子音は…
常人よりもずっとゆっくりで
…でも確かに緑の線は波打っている。
浅い呼吸が…緑のマスクを曇らせる。
それだけが
…今、君が生きていると証明するもの。
握った手も力を返すことはなく
僅かな温もり…ねぇ…
「…あとは…何があったっけ…」
君は答えない。
「…そう言えば…俺ばっか話してたなぁ…」
その目は開かない。
「俺が話し忘れてる事…なんかあるか…?」
俺を見ない
「…っ…」
嫌だ
後悔だらけだ
俺がもっと君をみていたら
俺が君の病に気付けていたら…
もっとあの時…
「…ごめん…本…とに…ごめん…」
神様…
君と出会って
初めて
形の無い
「神」
に縋るようになった。
ありもしない永遠を願うようになった。
とても…弱くなったと自分でも思う。
でも怖くは無かった。
その弱さを君は抱きしめてくれたから…
「…んで…お前なんだよ…なんで…」
君と巡った季節は…色鮮やかで
何を犠牲にしても守ろうと思った
…なのに
俺に出来るのは君の手を握って
バカみたいに立ち尽くしている事だけ
もうすぐ君がいなくなってしまうのに…
俺はそれを引き止める力も無くて…
君ガ消エル…
コノ腕カラ…
柔ラカナ温モリガ消エル…
ピッ……ピッ…
俺の指に…
その反応が…
「…!!…」
君
が
俺
を
見
た
その唇が僅かに震えて
「… … …… 」
その微笑みは…
どこまでも
遠くて
… ピ―――― …
「 …!!」
真っ黒な空を
一筋の光が翔けた
俺の祈りは…
この空に届きますか…?
星降る夜に…
俺にただ1つの愛を教えた星は
たくさんの思い出と共に
願いの空に輝き続けるから
俺は…
月の光の中…
ただ1人の君に祈りを
「…愛してる…」
fin