甲 「侍」
~川上翔~
やっちまった・・・どうしよう・・どうすればいいんだろう・・ 俺は慌てて自転車を降り、袴の男に近寄った。
「だ、大丈夫ですか!?すみません!よそ見していたらつい・・あぁ本当にごめんなさい!」
今まで生きてきて、こんなに焦ったのは初めてだ。男から返事はない。・・やばい。そう思った瞬間、男は立ち上がり、
頭を擦りながらあくびをした。・・・・え? え・・大丈夫なの・・?男は眠そうに言った。
「あ~あ~痛いじゃない。よそ見とかホント気をつけてよ。危ないじゃない。ホラホラ見て、袴汚れちったじゃん。」
む・無傷なのか??いや、それはないだろ。でも平気でしゃべってるよこの人!
よく見れば、青髪に袴って、しかも刀まで腰にかけとるし・・なにものだよ・・
「まー気をつけてよ?自転車も乗用車、車と同じ気持ちでよ、ぶつかられると、痛いんだぞ?」
いや痛そうじゃねぇよ・・・
「あーはい。すいませんでした。本当にお怪我はないんですね?」
「うん。ねぇよ。俺は侍だからね。かんたんにゃ傷つかねぇのさ。」
侍・・・・
侍か・・小さいころ憧れてたな。いつかなりたいって。そのたびに、母さんが 今はもういないって言ってたなぁ。
この人はきっと変わってるんだな。変な人なんだな。侍名乗るとか、馬鹿げてるよ。
「んじゃな、今度ぶつかったら、・・斬るぜ・・!」
「は、はい。気をつけます。」
全くおかしな人だ。斬るってよ。笑っちまう。
そう言い残して、彼は去っていった。 あ・忘れてた、遅刻だぁ!!