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1話

季節は初夏。

桜は疾うに散り、ピンク一色だった木々は新緑へと色を変えている。時折吹く風は新たに葉をつけた枝を揺らす。

それ以外は焼き増しした写真のように代わり映えのしない日常。

正直に言って退屈なことこの上ない。別に今の生活に不満があるというわけではないのだが、新しい生活にも慣れてくるこの時期にはよくある五月病みたいなものだ。

毎日起きて学校行って帰って寝るなんてサイクルを続けているせいか、どうにも刺激がたりないのだ。

今だって下校というルーチンワークをこなしているだけで特別なことは何一つない、いつもの日常なのだ。



「ほ~~う~~しっ、なに辛気臭いツラして…ブべらっ?!」


「だから法師って呼ぶなって言ってんだろうが!!」

振り返りざまに裏拳を叩き込んでおいた。

ちなみに法師というのはアダ名だ。俺は本名を都築兼好つづきかねよしというのだが、下の名前の兼好が徒然草の吉田兼好と同じなので兼好法師というしょうもないあだ名がついてしまったのだ。断じて俺が僧や坊さんというわけではない。


「だからっていきなり攻撃仕掛けてくることはないだろ…」


そしてこのバカの名前は奥屋游おくやゆうという。腹が立つことに俺の幼馴染だったりする。


「で、何の用だ?」


「何の用だはねえだろ。お前が考え事してるみたいだったから心配して話しかけてやったのに」


(バカ)にしんぱいされるようなことでもねぇーよ」


「お前今俺と書いてバカと読んだだろ!」


「読んでないって、バカゆう


「い、いい度胸してるじゃねぇか?!」


コイツとの会話もすっかりただの日常として馴染んでしまっている。


「だいたいお前は日頃から俺のことをバカバカと言いすぎなんだよ!」


「真実を言ってなにが悪い」


「なっ、あったまきた!今日という今日は決着を「あのぉー」つけて…?」


声のしたほうを見るとひとりの少女が立っていた。いや、少女のまえに美とつけても問題ないくらい容姿の整った顔立ちをしている。綺麗というよりはかわいらしいというほうがしっくりくる印象だ。


「何の御用ですかな、お嬢さん?」


さっそく游が喰いついたようだ。何せコイツは美少女に目がない。出会った三秒後には平気で気障なセリフで口説きにかかる。


「いえ、あなたではなくそちらの方に」


「そ、そうですか…」


…そして三秒後には撃沈する。

っていうかそちらの方っていうのは俺のことか?


一応後方を確認。誰もいない。


「あなたのことですよ、都築兼好さん」


今度は名指しされたので間違いない。っていうかなんで俺の名前をしってるんだ?どこかで会ったことあったっけ?いや、こんな美少女は忘れようがないだろ。


「俺に何かご用でしょうか?」


「ええ、とっても大事なお話が。できればそちらの方には席を外してほしいのですが」


「そんな!?っおい兼好どういうことだ!どうしてお前なんだよ!!」


「知るか!っていうか胸倉を掴むな鬱陶しい!」


游がすごい形相で俺の体を揺すってきやがった。どうして俺かなんてこっちが聞きたいくらいだ。


「ダメ、ですか?」


「よろこんで!!」


こんどは少女の上目使い+瞳ウルウルであっさり陥落しやがった。単純な奴め。


「くそう、おぼえてろよーー」


そんな捨て台詞をはいて游は走り去っていった。何をおぼえてろというのだ。何を。


「さて、邪魔者は居なくなりましたし、どこか落ち付いて話せる場所にいきましょうか」


…この少女は案外腹黒いのかもしれない。



俺達はとりあえず近場の喫茶店に入った。…入ったはいいのだが席に着いて注文をしてからというもの、この少女一向に話しだそうとしないのだ。自分から話があるなんて言っておいて黙っているなんてどういう了見だ。気不味いったらないだろう。


「あのぅ」


「だいたい分かっているとは思いますが、」


俺が善意でこっちから話し掛けようとしたのと同じタイミングで声を掛けてきたのでちょっとイラっとした。まあ、やっと喋ってくれるのだから別にいいけど。


「今日はあなたにこの世界の主人公になってもらいにきました」


…なんか電波なことを言われた気がするが、聞き間違いかもしれない。


「すいません、もう一回言ってもらえますか?」


「あなたにこの世界の主人公になってもらいにきました」


聞き間違いではなかったらしい。そしてその言葉を頭の中で反芻する。OK。やっぱり意味がわからない。


「あの、意味が良くわからないんですけど?」


「あれ?お知らせって届いてなかったですか?ちょっと前に送ったはずなんですけど。主人公育成講座のご案内って」


主人公育成講座のご案内?もしかして、いやもしかしなくてもアレのことだろう。あれほどインパクトの強い迷惑メールはない。むしろ今まで忘れていたのが不思議なくらいだ。


「まあ、届いてないならそれでいいです。今から説明しますんで」


「いえ、結構です」

聞いてはいけないと直感的な何かが告げている。


「それでですね、」


む、無視しやがった!


「あなたはこの世界が誰を中心に回っているかわかりますか?」


また意味不明なことを言い出した。コイツの話は脈絡がなさすぎる。


「アメリカの大統領とか…」

何を律儀に回答をしているんだ俺は。こういうのは真面目に受け取っちゃダメなタイプだ。


「不正解です。それはこの世界という舞台設定上の形式的な役割にしか過ぎません」


まるで出来の悪い生徒を見るような目で俺を見てくる電波女。相変わらず何を言ってるかはわからんが無性に腹が立つな。


「質問を変えましょう。漫画や小説の世界では誰を中心に話が展開していきますか?」


ああ、なるほど。この女が何を言わせたいのか何となく分かった。


「それが主人公ってことか」


「正解です!」


今度はよく出来ましたみたいな目で俺を見てきた。なぜにコイツはこんなに偉そうなのか。


「それでアンタは結局何が言いたいんだ」

こいつ相手に丁寧な口調を使うのも馬鹿らしくなってきたのでいつもの調子で聞いてみた。


「まあそんなに慌てないでください。順を追って話しますから」


俺としては早く終わって欲しいんだが。


「まずはこの世界のあり方から説明しましょう。わかりやすくさっきの様に漫画に例えて説明するとですね、この世界というのは設定なんですよ。主人公が活躍するべき舞台、それが世界の存在意義です」


俺にも理解できるように説明しているのつもりかもしれないがさして変わらない。むしろこれで理解できるヤツがいるなら連れてきて欲しい、っていうか変わって欲しい。


「つまり、主人公がいるから世界が存在できるんですよ。世界設定だけあるのに登場人物が全く出てこないなんて物語なんて見たことがないでしょう?それと同じでこの世界にも存在する主人公(りゆう)があるはずなんです」


「はあ・・・」

面倒くさいので適当に流すことに決めた。


「次に主人公についてです。始めに言ったように世界は主人公を中心に回っています。ですが本来物語の中の主人公がそのことに気づくことはありません。それがわかるのは第三者の視点、つまり読者や作者から見た場合だけです。言い換えれば、神の視点ということです」


ついに神なんて単語が飛び出してきた。ん?もしかして。

「すいません。宗教の勧誘ならほかの人を当たってくれませんか?なんならさっき俺と一緒にいたヤツ呼んできましょうか。あいつならアンタが言えばコロッと落ちると思うんで」


「はい?」


きっと新興宗教の信者の勧誘だろう。だとしらこれ以上聞いている意味はない。注文したコーヒーの代金だけおいて席を立つことにした。さり気なく游を生け贄に捧げることも忘れない。


「じゃあサヨウナラ」


「あっ、ちょっと説明はまだおわってませんよ!」


後ろで何か言っているようだが気にしたら負けだ。俺はそのまま喫茶店から出た。


(そういえばあいつの名前聞いてないや。まあいっか、どうせ二度と会うこともないだろうし)

そう思って俺は帰路についた。






なんかテンポが悪い気が…。

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