12話 新たな火種
「オセラム様。面白い遊びが見つかりましたよ」
ルリウスは、部屋で退屈そうに積み木遊びをしていたオセラムに話しかけた。
オセラムが目を輝かせたのは勿論、政務の合間にオセラムに付き合ってやっていたジェミールも顔を上げた。
「何の話だ?」
「いえ、オセラム様が狩りに憧れていると言うのですが、さすがに狩りにお連れする訳にはいかないでしょう?
なので面白い遊びを考えてお持ちしまして……」
内容をちょっとぼかしてルリウスは説明し、城の中庭に二人を連れ出した。
中庭には凧が何本も用意されていた。
「凧揚げ? これが、新しい遊び?」
ジェミールは不思議そうに言う。
事実、城壁の向こうを見れば凧はうようよと飛んでいる。
凧同士の動きを揃えて美しさを見せる協力競技だ。
新しくも何ともない、普通の遊び。
「よく見てください。
動きを揃えて遊ぶ凧は二本糸。
でも私が用意した凧は一本糸です。これが重要です。
では試しにジェミール様、凧を持って」
「分かった」
ジェミールとルリウスは互いに一本糸の凧を持ち、風に乗せて揚げていく。
「オセラム様は要するに、勝敗のあるものがやりたかったのでしょう?
だからこうやって……凧で勝負をつければ良いのです!」
ルリウスの凧はジェミールの操る凧に急接近すると、糸同士が擦れ合った。
ジェミールの方の凧糸が引き切られ、本体が中庭にひらひらと落ちてくる。
「面白そう!」
「この遊びは……!?」
「港でちと小耳に挟んだことがありまして。昔の人はこうやって風を読む訓練ついでに遊びをしていたと」
港で聞いたというのは嘘だ。
本当は前世でルリウスがやっていたことだ。
とにかく、オセラムは喜んでジェミールと勝負をしている。
初めて体験する勝ち負けのある遊びに、オセラムはいたく興奮しているようだった。
これで前世を暴露される心配はなくなった。
数日後、エイカに珍客が訪れた。
それは男女一組であった。
領主アルトゥール、次期領主アリアス、そしてジェミール、彼らの侍従や護衛という大勢と、男女は向かい合う。
男女の数歩後ろには護衛なのか、一人の男性が付き従っていた。
「お久しぶりです、アルトゥール様。
アリアス様とジェミール様にはお初にお目にかかりますでしょうか。
私はリジオ。
アルトゥール様のまたいとこの息子で、ラポーニの貴族です」
男が挨拶した。
「私はベルッタ。ラポーニ領主エレーヌの妻で……その、リジオ様の恋人です」
女も告げる。
ちなみにベルッタの方は、かなりの美女だ。
「うーん、密通ということ? で、エレーヌ様にバレて怒られて逃げてきたんだね?」
アリアスが言うと、二人はうなずいた。
「エレーヌ様と私は政略結婚でした。
政略結婚自体を否定するつもりはありませんが、エレーヌ様と私はあまりにも性格が合わなさすぎました。
だから、ついリジオと……」
ベルッタがおずおずと言う。
「だから匿ってほしいという訳だな。
経緯は分かった。しかし、何故エイカに?」
ジェミールは少し冷たく、あえて突き放すように言った。
「実は、こうして助けを求めるのは二件目なのです。
元々はモリッツ様の領地に逃げていたのですが、捜索の手が伸びてきて……」
「助けてください! エレーヌは私たちを殺すつもりです!」
這いつくばる二人を見て、全員がいたたまれない気持ちになる。
「匿うほかないか……」
「私もそうしたいです」
「うむ……」
アルトゥールも、アリアスも、ジェミールまで、その方向性で一致しかけている。
「し、進言させてください!」
これはまずいと、ルリウスが声を上げた。
「匿って王都にバレたら危ないのはエイカです!
密通よりも隠蔽の方が罪が重いのは当然でしょう?」
「だが、リジオ様とベルッタ様を見捨てるのか」
「そんなつもりは……。
でも、寛大なオルエルン王家様ならばエレーヌ公とベルッタ様の不仲を知れば示談で済ませるかもしれません。
我々は、怒りに任せたエレーヌ公の私刑からお二人を守りさえすれば良いのでは?」
しかしジェミールは首を横に振った。
「不仲を客観的に証拠づけるものなんて無い。
それに、二人には味方が少ない。示談で済むとは思えない。
ルリウスも私と居るならば、どうしようもなく惹かれ合う恋人同士の気持ちは分かるだろう」
悔しいが、分かるところもある。
しかしそれがエイカを危険に晒してでも良いほどの事項だとは思えなかった。
その時、メイドが駆け込んできた。
「失礼いたします。モリッツ様よりリジオ様とエレーヌ様に、大麦袋が届きました」
大麦袋を届けたということは、モリッツは直接リジオとベルッタを匿うことは出来ないが応援はしているということの表明だ。
「確認してまいります」
リジオの従者が部屋を出て行く。
「頼んだぞ、ピディ」
その背中に、リジオが声を掛けた。
「ピディが逃げた!?」
リジオが、門番の言葉を思わずオウム返しした。
「はい、モリッツ様から送られた大麦袋に付いていたお手紙を持っていずこに……。
嫌な予感がして止めたのですが、馬でどこかに去られてしまい……」
門番は息を切らしている。
「私のせいだわ、私がピディに言い寄られたのを断ったばかりに……」
ベルッタは顔を覆って泣き始める。
彼女は泣いても美しく、まさに美人だからこその苦悩というべきとのがにじみでていた。
リジオはすかさずベルッタを慰める。
「ベルッタのせいじゃない」
「でも! ピディはあの手紙を証拠にして王家かエレーヌに告発するつもりだわ」
「ピディの動機がベルッタ様への復讐なら、より恨みを募らせているエレーヌ様に密告する可能性が高いでしょうね」
アリアスが言った。
しばらく黙り込んだ後、ジェミールが口を開いた。
「……私に考えがあります」




