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恋愛請負人・鉄平  作者: 強炭酸
Case3 主人公 研磨

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9/25

Case3 ファッション②

【鉄平暗躍パート/鉄平視点】


俺は鉄平。


研磨の友人だ。


――今回の依頼は、恋愛でも告白でもない。

イメージチェンジ。ファッション。


正直に言う。


未知の領域だった。


これまでの人生、俺はずっと日陰側の人間だ。

流行だとか、オシャレだとか、そういう世界とは無縁で生きてきた。


だから最初は考えた。


(……誰に頼めばいい?)


教室のざわめき。

笑い声。スマホの通知音。

窓から差し込む午後の光の中で、自然と一人の人物が浮かび上がる。


――いる。


この学年いや、このクラスに。


最も“外見戦”に強い人間が。



聖夜くん。


クラス一軍の中心。

そして現役配信者。


彼の周囲だけ、空気の密度が違う。


人が集まり、笑いが生まれ、視線が自然と向く。


動画も確認した。


歌ってみた動画で響いた声は、低く腹に落ちる重低音から、女性かと思うほど驚くほど柔らかな高音まで滑らかに変化する。


コメント欄は常に高速で流れていた。


顔ファンが多い理由も、一目で理解できた。


――これは才能だ。


そして同時に、戦略の匂いもした。


だから俺は呼び出した。


取引のために。



放課後。


人気の少ない廊下。


聖夜くんは壁にもたれ、軽く手を上げた。


「それで、鉄平くん。話って?」


柔らかい声。

でも目は、相手を値踏みする大人のそれだった。


俺は本題に入る前に、頭の中で情報を整理する。


グループチャット。


何気ない雑談ログ。


そこに残っていた一文。


「テストの過去問とか在る人いないー?( ; ; )」


聖夜くんの成績は中程度。

配信活動で忙しい彼にとって、学業は弱点。


そして――


彼ほど顔が広い人間でも手に入らない情報。


それは価値になる。



今回の俺は新聞部に所属している。


校内の部活、人脈、先輩後輩。

情報が自然と集まる立場にいる。


思い出した。


上級生に一人、試験問題の傾向を記憶し、非公式にまとめノートとして残している人がいたことを。


半信半疑で連絡を取る。


返信音。


数回のやり取り。


そして――入手成功。


ページをめくると、紙の匂いがわずかに立ち上る。

書き込みの跡。折れた角。


使われ続けてきた証拠。


信頼度は高い。


これで条件は揃った。



資料を差し出す。


一瞬。


聖夜くんの目が変わった。


「……ありがとう、鉄平くん」


声のトーンが一段下がる。


本気の声音だった。


「君は……ファッションについて知りたいってことだよね?」


成立。


交渉完了だ。



彼はポケットから名刺を取り出した。


高校生とは思えない動作だった。


裏面にさらさらとペンが走る。


インクの匂い。


――そういえば、スポンサー向けに名刺を作っていると動画概要欄に書いてあったな。


「ここに電話してみて」


名刺を渡される。

表面の動画チャンネル名とSNSアドレス、

そして、裏面に電話番号と店名、担当者。


「僕からもファッション指導、お願いしておくよ」


軽く笑う。


「じゃあ、またね。いい取引きだったよ」



去っていく背中を見送りながら思う。


配信者。


人気者。


クラスの中心。


だけど彼は理解している。


貸しと信用。

対価と責任。

筋を通すということを。


――大人の世界のルールを。


高校生なのに。


いや。


だからこそ、なのかもしれない。


俺は名刺を握り直した。


紙の角が指に当たる。


これで、研磨を変えるための第一歩が整った。


あくまでも表舞台に立つのは、あいつだ。


俺はいつも通り――


裏方でサポートに回る。


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