Case3 ファッション②
【鉄平暗躍パート/鉄平視点】
俺は鉄平。
研磨の友人だ。
――今回の依頼は、恋愛でも告白でもない。
イメージチェンジ。ファッション。
正直に言う。
未知の領域だった。
これまでの人生、俺はずっと日陰側の人間だ。
流行だとか、オシャレだとか、そういう世界とは無縁で生きてきた。
だから最初は考えた。
(……誰に頼めばいい?)
教室のざわめき。
笑い声。スマホの通知音。
窓から差し込む午後の光の中で、自然と一人の人物が浮かび上がる。
――いる。
この学年いや、このクラスに。
最も“外見戦”に強い人間が。
⸻
聖夜くん。
クラス一軍の中心。
そして現役配信者。
彼の周囲だけ、空気の密度が違う。
人が集まり、笑いが生まれ、視線が自然と向く。
動画も確認した。
歌ってみた動画で響いた声は、低く腹に落ちる重低音から、女性かと思うほど驚くほど柔らかな高音まで滑らかに変化する。
コメント欄は常に高速で流れていた。
顔ファンが多い理由も、一目で理解できた。
――これは才能だ。
そして同時に、戦略の匂いもした。
だから俺は呼び出した。
取引のために。
♢
放課後。
人気の少ない廊下。
聖夜くんは壁にもたれ、軽く手を上げた。
「それで、鉄平くん。話って?」
柔らかい声。
でも目は、相手を値踏みする大人のそれだった。
俺は本題に入る前に、頭の中で情報を整理する。
グループチャット。
何気ない雑談ログ。
そこに残っていた一文。
「テストの過去問とか在る人いないー?( ; ; )」
聖夜くんの成績は中程度。
配信活動で忙しい彼にとって、学業は弱点。
そして――
彼ほど顔が広い人間でも手に入らない情報。
それは価値になる。
♢
今回の俺は新聞部に所属している。
校内の部活、人脈、先輩後輩。
情報が自然と集まる立場にいる。
思い出した。
上級生に一人、試験問題の傾向を記憶し、非公式にまとめノートとして残している人がいたことを。
半信半疑で連絡を取る。
返信音。
数回のやり取り。
そして――入手成功。
ページをめくると、紙の匂いがわずかに立ち上る。
書き込みの跡。折れた角。
使われ続けてきた証拠。
信頼度は高い。
これで条件は揃った。
♢
資料を差し出す。
一瞬。
聖夜くんの目が変わった。
「……ありがとう、鉄平くん」
声のトーンが一段下がる。
本気の声音だった。
「君は……ファッションについて知りたいってことだよね?」
成立。
交渉完了だ。
彼はポケットから名刺を取り出した。
高校生とは思えない動作だった。
裏面にさらさらとペンが走る。
インクの匂い。
――そういえば、スポンサー向けに名刺を作っていると動画概要欄に書いてあったな。
「ここに電話してみて」
名刺を渡される。
表面の動画チャンネル名とSNSアドレス、
そして、裏面に電話番号と店名、担当者。
「僕からもファッション指導、お願いしておくよ」
軽く笑う。
「じゃあ、またね。いい取引きだったよ」
去っていく背中を見送りながら思う。
配信者。
人気者。
クラスの中心。
だけど彼は理解している。
貸しと信用。
対価と責任。
筋を通すということを。
――大人の世界のルールを。
高校生なのに。
いや。
だからこそ、なのかもしれない。
俺は名刺を握り直した。
紙の角が指に当たる。
これで、研磨を変えるための第一歩が整った。
あくまでも表舞台に立つのは、あいつだ。
俺はいつも通り――
裏方でサポートに回る。




