Case1 二者択一 ②完
【鉄平暗躍パート/鉄平の視点】
「……途中から、こうなるんじゃないかって思ってたよ」
夕暮れの教室。窓の外は橙色に染まり、机の影が長く伸びていた。
春秋は青ざめた顔で座っている。
千夏と千冬――二人から同時に告白の呼び出しを受けたのだ。
選ぶか。
選ばないか。
そのどちらかしかない。
俺の能力――『運命の可視化』は、はっきり告げていた。
女の子同士が奇跡みたいに和解でもしない限り、都合のいいハーレムルートなんて存在しない。
(まあ、現実ってそうだよな)
胸の奥でため息をつきながら、俺は春秋に向き直った。
「いいか、春秋」
顔を上げた彼の目は、迷いで揺れている。
「誰かを選ぶってことは、誰かを選ばないってことだ」
沈黙が落ちる。
遠くで運動部の掛け声が響いていた。
「振られる方が、たぶん何倍もキツい。……でも」
言葉を探しながら続ける。
「振る方も、ちゃんと痛いんだ」
胸の奥が、ズキ、と鳴った気がした。
「そこから逃げちゃダメだ。二人のためにも――お前自身のためにも」
俺、彼女なんてできたことないのに。
なんでこんなに必死に語ってるんだろう。
答えは簡単だった。
俺は、春秋の友達だからだ。
夏海でも千冬でもない。
こいつの味方でいる。それが俺の役目だ。
「……で、どっちを選ぶんだ?」
「まだ、頭真っ白だよ……」
春秋は苦笑する。
「じゃあさ。簡単な心理テストやろうか」
「信号機を思い浮かべてください。赤、黄色、青。それぞれ誰の顔が浮かびましたか?」
「赤が……千冬。黄色が鉄平。青が夏海、かな」
俺は少しだけ笑った。
「赤は情熱的に求めてる相手。青は――本当に心の底から想ってる相手だ」
春秋の目が大きく見開かれる。
「……ていうか、なんでしれっと選択肢に俺入ってるんだよ!怖いわ!」
思わず笑いがこみ上げた。
「……ぷっ、ははっ。ごめん、つい」
張りつめていた空気が、少しだけ緩む。
(黄色は……『信頼出来る友達』だよ、春秋)
⸻
その後。
春秋は、夏海を選んだ。
千冬もまた、過去の恐怖に縛られることなく、やがて優しい誰かと笑い合えるようになったらしい。
夕暮れの帰り道。風に混じる土の匂い。信号待ちのざわめき。
「あのさ、鉄平。お前のおかげで夏海と付き合えたよ。ありがとう」
「うん」
短く返す。
少し間が空いて、春秋がぽつりと言った。
「また、会えるよな? なんか……遠くに行っちゃう気がしてさ」
胸の奥が、かすかに痛んだ。
「そんなことないよ。また明日な」
そう言って笑う。
――そして。
俺は、この世界での役目を終えた。
【女神様パート/鉄平視点】
「はい、お疲れさまー」
白い空間に、ぱちん、と手を叩く軽い音が響いた。
目の前には、相変わらず神々しいオーラをまとった女神様。
――なのに、口調は完全に近所の愉快なお姉さんだ。
神々しい見た目とフランクな態度のギャップに、鉄平は毎回ちょっとだけ混乱する。
「ハーレムなんてねぇ、そんな都合のいいものないのよー。諦めて普通に恋しなさいな」
軽い。めちゃくちゃ軽い。
けれど鉄平は真顔だった。
「いや、そんなわけにはいきませんよ」
一歩、前に出る。
「最後までやらせてください」
迷いのない目で見上げられて、女神は思わず瞬きをした。
(……あら)
「俺、なんか……やり遂げた感じがしたんです」
胸のあたりを握りしめながら、鉄平は言う。
「誰かの力になれたっていうか。ああ、これが“成功体験”ってやつなのかなって」
言葉は少し照れくさい。でも、どこか誇らしげだった。
女神は口元をゆるく吊り上げる。
(へえ。この子、試練の本質に気づきかけてるじゃない)
――ただのハーレム願望少年じゃなかったらしい。
「次の試練は難関よ?」
ふっと声の温度が下がる。
「失敗したら、消滅だからね」
鉄平の顔がぴたりと固まった。
「……うっ」
喉が鳴る。
数秒の沈黙。
「……が、頑張りまーす!!」
半分裏返った声が白い空間に響き、女神はくすっと笑った。
女神様は今日も、楽しそうだった。
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Case2で鉄平の本領がいよいよ発揮されます。
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