Case5 マッチングアプリ&コスメ⑥完
【女神様パート/鉄平視点】
白い空間に足を踏み入れた瞬間。
――ページをめくる音が聞こえた。
ぺらり。
ぺらり。
妙に真剣な沈黙。
視線を向けると、女神様がソファに腰掛け、分厚い写真集を膝の上に広げていた。
男性モデルの写真集だ。
しかも筋肉特集。
「うーん……」
真剣な顔で唸っている。
「イケメンが筋肉あっても、『はいそうですね』なのよねぇ……」
ページをめくる指先がやけに真剣だ。
「完成されすぎてるのよ。意外性がないの。ギャップが足りないというか……」
ふむ、と頷く。
そして。
俺の知らない角度から撮られた――
俺の写真を取り出した。
……待て。
「やはりフツメンからの筋肉こそ至高であって……」
見比べる。
写真集。
俺。
写真集。
俺。
「……鉄平、やはり逸材」
なに評価されてるの俺。
声をかけるべきか迷う。
というか、話しかけづらい。
「あの……女神様?」
次の瞬間。
シュバッ!!
音がした気がした。
写真集も俺の写真も、超高速で消えた。
「はい、お疲れ様ー!」
満面の笑み。
いつもの近所のお姉さんモード。
……今の見なかったことにしろ、という
神からの無言の圧を感じる。
俺は察した。
触れてはいけない領域だ。
♢
女神様は腕を組み、満足そうに頷く。
「今回は女の子側をプロデュース、ね」
少し誇らしげな目。
「魔法使い役、板についてきたじゃない」
「いや、まだ全然です。メイクのことなんて全く覚えられなくて……結局、人に頼りましたし」
すると女神様は、ふっと柔らかく笑った。
「それでいいのよ」
声の温度が少し下がる。
神としての声音。
「全部自分で出来なきゃいけないなんてことはないわ」
ゆっくりと指を立てる。
「出来ないなら、出来る人を頼る。その道を示せた時点で――合格」
胸の奥に、すとんと落ちる言葉だった。
だが。
女神様の表情が、急に引き締まる。
「……ただし」
空間に光が走る。
文字が浮かび上がった。
⸻
【禁じ手リスト】
・SNS大量アカウントによる情報操作
・筋肉で誘惑
(※ただし女神様が見たいと言った場合は例外)
・マッチングアプリや合コンでの「運命の可視化」乱用 ←NEW!!
⸻
「これはね」
女神様は額を押さえ、ため息をつく。
「強すぎるのよ」
本気の顔だった。
「力を与えた私にも責任があるから、多くは言わないけど……これは封印」
確かに。
宗教もマルチも完全回避。
恋愛事故ゼロ。
「最強の組み合わせですね」
「でしょう?」
ちょっと誇らしげに胸を張る。
……いや作ったのあなたですけど。
女神様はぱん、と手を叩いた。
「さあ、気を取り直して次行きましょうか!」
空気が軽くなる。
いつものテンポ。
――だが。
このとき。
俺はまだ気づいていなかった。
『運命の可視化』
この力を巡って。
次の試練が――
俺の心を、大きく抉ることになるなんて。
女神様が指を鳴らす。
満面の笑み。
「次回!!」
妙に楽しそうに宣言する。
「『失恋編』!!鉄平死す!!」
「勝手に殺さないでください!!」
白い空間に、俺のツッコミが虚しく響いた。




