Case5 マッチングアプリ&コスメ⑤
【主人公:晶視点】
七月後半。
長かったテスト期間が、ようやく終わった。
冷房の効きすぎた講義室。
眠気と戦いながら書いた答案用紙。
単位という名の生存ライン。
結果は――セーフ。
一般教養も必修も落としていない。
胸の奥に溜まっていた重たいものが、ようやく抜けていく。
キャンパスには、もう夏の空気が流れていた。
照り返すアスファルト。
遠くで鳴く蝉の声。
開放感に浮かれた学生たちの笑い声。
もうすぐ夏休みだ。
そして今日は――
瑠璃との、二度目の待ち合わせ。
駅前の広場。
日差しを避けるように日陰へ立ちながら、スマホの時間を確認する。
(同じ大学でも、学部違うと全然会わないもんだな)
講義棟も時間割も違う。
偶然すれ違うことすらない。
だからこそ、この待ち合わせが少し特別に感じた。
胸の奥が、妙に落ち着かない。
その時だった。
「……あの?」
すぐ隣から、女性の声。
顔を上げる。
そこに立っていたのは――
綺麗な女性だった。
肩にかかる金髪のミディアムレイヤー。
夏らしい軽やかなブラウスが風に揺れる。
ふわりと広がるフレアスカート。
足元は白いサンダル。
日差しを受けて、全部が柔らかく光って見えた。
一瞬、視線が止まる。
知らない人だ。
……いや。
でも。
「……晶くん?」
名前を呼ばれる。
思考が、完全に停止した。
「………………」
頭の中で一致しない。
声と顔が結びつかない。
数秒。
いや、体感ではもっと長かった。
そして――
「……瑠璃さん??」
やっと言葉が出た。
え?
待って。
誰だこの美女。
いや、瑠璃さん?
え?
脳が処理を拒否する。
フリーズ。
再起動。
理解。
「瑠璃さんイメチェンした!?」
声が裏返る。
「超可愛い!!
似合ってるーーー!!」
思ったことがそのまま全部口から出た。
取り繕う余裕なんてなかった。
瑠璃は、少し照れたように笑う。
「……ありがと」
その笑顔が――前よりずっと自然で。
胸が、ドクンと鳴った。
ああ。
変わったのは見た目だけじゃない。
雰囲気。
立ち方。
目線。
自信。
全部が違う。
選択肢が頭に浮かぶ。
▶︎手を取る
帰る
……帰るわけないだろ。
手を取る一択!!
自然と手が動いていた。
「じゃあ――」
少しだけ勇気を込めて。
「デートしよう」
ほんの一瞬の沈黙。
そして。
「……うん!!」
瑠璃の返事は、夏の日差しみたいに明るかった。
その瞬間。
胸の奥で何かが確かに始まった。
ふと視線を感じて、少し離れた場所を見る。
ベンチの影。
鉄平。
腕を組んで、こっちを見ている。
(やったぞ鉄平!!)
目線で送る。
鉄平は小さく指でサインを返した。
任務完了、みたいな顔で。
そして――
隣の瑠璃も、それに気づいた。
少しだけ振り返り、
小さく手を振る。
(ありがとう、魔法使いさん)
言葉には出さない合図。
三人だけが共有する秘密。
夏の風が吹く。
新しく染めた髪が揺れる。
その横顔を見ながら、俺は思った。
――ああ。
これはきっと。
本当に、恋が始まる瞬間なんだ。




