Case5 マッチングアプリ&コスメ③
【鉄平暗躍パート/鉄平視点】
瑠璃――。
晶と同じ大学に通う、一年生。
遠目に見た第一印象は、正直に言えば地味だった。
派手さもなければ、目を引く華やかさもない。
けれど。
悪意がない。
それだけは、はっきり分かった。
人の視線を警戒するような肩のすくみ方。
笑うとき、ほんの少し遅れて口元が動く癖。
自分の存在を小さくしようとする立ち方。
そして――学部違いとはいえ、同じ大学。
偶然にしては、出来すぎている。
俺は少し離れた席から、二人の様子を観察していた。
晶は分かりやすいほど上機嫌だった。
背中越しでも伝わってくる。
身振りが大きい。
笑い声も少し大きい。
(……はしゃいでんなぁ)
イケメンで性格も良いのに、なぜか女運だけ壊滅的。
そんなやつも世の中にはいるらしい。
喫茶店の中はコーヒーの香りと食器の触れ合う音で満ちていた。
午後の柔らかい光が窓から差し込み、二人を照らしている。
会話は弾んでいる。
――表面上は。
だが。
瑠璃は、晶が話すたびにほんの一瞬だけ視線を落としていた。
笑っているのに、目の奥が曇る。
嬉しそうなのに、どこか引いている。
その違和感が、引っかかった。
やがて二人は店を出て、駅前で別れたらしい。
晶が戻ってくる。
「なんかこのあと用事あるんだって。脈ないのかなぁ」
肩を落とす声。
俺は首を振った。
「いや、そうじゃないかもよ」
――嘘じゃない。
好感度ステータスは、すでに『成立可能』まで上がっている。
問題は晶じゃない。
(……あの曇り顔)
彼女自身が、ブレーキを踏んでいる。
進みたいのに、進めない顔。
なら。
ここは――俺の役目だ。
♢
人通りの少ない道に入る前、俺はコンパクトの手鏡を取り出し、軽く身だしなみを確認した。
第一印象は、魔法の詠唱みたいなものだ。
タイミングを見計らい、歩幅を速める。
「……瑠璃さん」
振り向いた彼女の肩が跳ねた。
「晶の友達の、鉄平です」
「……えっ!!」
当然の反応だ。
初対面の男に、突然名前を呼ばれる。
警戒して当然。
でも――ここで引くわけにはいかない。
「俺、晶の付き添いで近くにいたんです」
言葉を慎重に選ぶ。
押しすぎず、逃がさず。
「瑠璃さん、晶のこと嫌いとかじゃなくて……」
一拍。
「自分に自信がなくて、釣り合わないって思ってませんか?」
沈黙。
風が吹く。
彼女の視線が揺れる。
「………どうして、わかったの?」
その声は、小さかった。
俺は知っている。
この表情を。
変わりたい。
でも方法が分からない。
踏み出す勇気だけが足りない人間の顔を。
今まで、何度も見てきた。
「俺は晶の友達です」
だからこそ、まっすぐ言う。
「晶のために――あなたに、勇気と自信の魔法をかけさせてほしい」
彼女の目が、少し見開かれる。
俺は準備していた。
男側だけじゃない。
当然、女側の可能性も考えていた。
だが――コスメの世界は専門領域だ。
だからこそ。
信頼できる人材は、すでに確保済み。
スマホを取り出し、美容室のページを見せる。
「ここ、行きませんか」
「コスメの仕方も、ちゃんと教えてくれる美容室です」
沈黙。
迷い。
そして――小さな決意。
「……ありがとう」
彼女は視線を落としたまま言った。
「私、友達いなくて……化粧するの、苦手で……」
その言葉を聞いた瞬間。
確信する。
――この物語は、まだ動き出せる。
俺はただ、背中を押すだけだ。
魔法なんて、大げさなものじゃない。
ほんの少し。
自分を好きになれるきっかけを、渡すだけだ。




