Case5 マッチングアプリ&コスメ②
【主人公:晶視点】
あれから数日後。
土曜日。
駅前のカフェへ向かう足取りが、やけに重い。
春の終わりの空気は少し湿っていて、
人混みの熱気とコーヒーの匂いが混ざり合っている。
――人生初、マッチングアプリでの待ち合わせ。
スマホの画面を何度も確認する。
時間、場所、相手のアイコン。
逃げたい。
でも――ここを越えなきゃ始まらない。
店の前に立っていた女性は、すぐ分かった。
綺麗だった。
落ち着いた服装。
年上っぽい雰囲気。
柔らかい笑顔。
(……え、普通に当たりじゃない?)
社会人だろうか。
大人っぽくて、少し緊張する。
「晶さん?」
「あ、はい」
よし。いける。
今回は普通の出会いだ。
――そう思った瞬間。
スマホが震えた。
ポケットの中で、小さく。
取り出して確認する。
『逃げろ、マルチか宗教』
……マジ?
脳が一瞬停止する。
顔を上げると、女性が微笑みながら話し始めた。
「私、芸術の仕事をしてるんだ」
嫌な予感。
「あなた、絵画とか興味ある?」
――来た。
背中に冷たい汗が流れる。
(マジか!?ホンモノかよ!!鉄平!!)
心臓がバクバク鳴る。
逃げろ。
でも自然に。
怪しまれずに。
口が勝手に動いた。
「…………すみません!!」
立ち上がる。
「急にお腹痛くなって来たので帰ります!!やばい病気うつしたら大変なので!!」
自分でも意味が分からない言い訳だった。
店を飛び出し、角を曲がった瞬間。
「はぁ……っ!!」
肺に空気を叩き込む。
助かった。
マジで助かった。
(鉄平の力、本物じゃねぇか……)
⸻
だが、悪夢は終わらなかった。
次の週――宗教。
その次――マルチ。
さらに次――宗教。
神回避。
神回避。
神回避。
スマホが震えるたび命拾い。
だが同時に、精神が削られていく。
大学のベンチで俺は天を仰いだ。
「……そろそろ、本当の出会い来ないかなぁ」
隣で友人が笑う。
「晶、宗教マルチ引きすぎじゃね?」
「顔と性格いい分、そういう運命なのかもな。普通こんな確率ねぇぞ」
「うるせー!」
別のやつが追撃する。
「晶って断れなさそうな顔してるもんな」
……否定できない。
俺は、人を疑うのが苦手だ。
だからこそ、鉄平がいなかったら――
今頃どこかのセミナー会場に座っていた可能性すらある。
⸻
そして。
五人目。
待ち合わせ場所。
スマホが震える。
反射的に画面を見る。
『晶、その子と話せ』
――来た。
ついに来た。
(やっと普通の子きたーーーー!!)
視線を上げる。
そこに立っていたのは、派手さのない女の子だった。
地味な服装。
少し控えめな立ち姿。
でも、どこか安心する空気。
危険な気配がない。
押し売りの笑顔も、
妙な自信もない。
ただ――少し緊張しているだけの、普通の女の子。
胸の奥がじんわり温かくなる。
ようやく。
ようやく。
「はじめまして、晶です」
言葉が自然に出た。
逃げなくていい会話。
警戒しなくていい時間。
(やっと女の子と話せる……!!)
それだけで、
世界が少し優しく見えた気がした。




