Case5 マッチングアプリ&コスメ①
【鉄平暗躍パート/鉄平視点】
季節は五月。
春の柔らかさが抜けきり、少しだけ夏の気配が混じり始めた初夏。
大学構内には、新歓の喧騒が嘘みたいに落ち着きが戻っていた。
芝生の青は濃くなり、開け放たれた学食の窓から、生ぬるい風と揚げ物の匂いが流れ込んでくる。
俺は鉄平。
……いきなりだが、今回は初手から暗躍パートだ。
正直、自覚はある。こういう立ち位置が板についてきた気もする。
今回の主人公は――晶。
俺の友人で、同じ大学一年生。
昼休みの学食。
トレーの上の唐揚げ定食を箸で突きながら、晶が深いため息を落とした。
「どこかに良い出会いは無いものかなぁ……」
その声には、軽口に見せかけた本気の疲労が混じっていた。
「お前さ、見た目も悪くないし、人当たりもいいじゃん。普通にしてりゃ彼女できそうだけどな」
俺がそう返すと、晶は苦笑いを浮かべる。
「……いやさ。四月の新歓で出会った子がさ」
一拍。
「宗教やってて」
箸が止まった。
「必死で縁切って来たのよ」
……ああ。なるほど。
周囲のざわめきが遠のく。
新入生特有の浮ついた空気の裏側で、そういう事故は確かに起きる。
「……おおう。それは災難だな」
晶は笑っていたが、その目は少し警戒していた。
出会いそのものに、ブレーキがかかっている顔だ。
――傷ついた経験は、人を慎重にする。
だが。
俺には、それを越える手札がある。
胸の奥で静かに意識する。
『運命の可視化』
縁のある者。
縁のない者。
近づけば破滅する関係。
それらが、俺には分かる。
「なあ」
俺はジュースのストローを回しながら言った。
「もうちょっと頑張ってみないか。マッチングアプリとか」
晶が即座に顔をしかめる。
「……ええ?また宗教とかマルチ引かされそうじゃん?」
当然の反応だ。
だから俺は、少しだけ笑った。
「ふふふ」
わざと含みを持たせる。
「俺にはそいつらを見破る眼力があるんだよ」
晶の眉が跳ねる。
「マジ?」
――マジだ。
運命の可視化は、単なる勘じゃない。
ご縁のない相手。
危険な接続。
未来が破綻するルート。
それらは最初から弾かれる。
「俺が遠隔で指示出す」
スマホを軽く叩く。
「宗教かマルチっぽかったら、店入る前に理由つけて逃げろ」
晶は数秒黙り込み――
やがて、小さく笑った。
「……なんか、お前といるといける気してくるな」
その言葉を聞きながら、俺は内心で頷く。
そうだ。
これは恋愛指南じゃない。
事故を回避し、本来進むべき運命へ戻す作業。
背中を押すだけの、ほんの少しの調整。
こうして。
俺の遠隔支援による――
マッチングアプリ作戦が、静かに開始された。
初夏の風が吹き込み、
テーブルの紙ナプキンがかすかに揺れた。
誰も気づかない。




