Case4 ダイエット⑤ 完
【女神様パート/鉄平視点】
白い空間に、軽やかな音が弾んでいた。
ぽん。
「ほっ!」
ふわり。
「はっ!」
ソフトバレーボールが宙を舞う。
神の領域とは思えないほど、平和な光景だった。
「お疲れ様ー、鉄平。はいパース!」
女神様が満面の笑みでボールを投げてくる。
「おっと!」
反射的に片手レシーブ。
少し体勢を崩しながらもトスで返す。
……まあ遊びだし、二回触ってもセーフでしょう。
ボールがゆっくり弧を描く。
白い空間に、ぽん、ぽん、と軽い音だけが響く。
「なんかねー、人間たちがスポーツしてるの見てたら身体動かしたくなっちゃって」
神様にもそういう衝動あるんだ。
「女神様もスポーツやるんですか?」
「はっ……たまにね!」
軽くジャンプしてトス。
髪がふわっと揺れる。
「人の姿借りて混ざったりするわよ。認識とかちょっと誤魔化して」
さらっと恐ろしいことを言う。
「それ絶対クラスに一人いる“誰だっけこの人”枠ですよね」
「便利なのよ、あれ」
神、楽しそうである。
ぽん。
ボールを打ち返したところで――
「……ふう」
鉄平は汗を拭き、上着を脱いだ。
タンクトップ姿になる。
その瞬間。
視線。
めちゃくちゃ視線を感じる。
……いや。
ガン見されている。
しかも。
カシャ。
カシャカシャ。
「……今シャッター音しませんでした?」
女神様はそっぽを向いた。
「あの、鉄平」
声が妙に落ち着かない。
「いま体脂肪率いくつ?」
「一桁いきましたよ。ダイエット一緒にしてたら結構絞れて」
「そ、そう……」
視線が泳ぐ。
頬がほんのり赤い。
「あの……ちょっと腕、見せて?」
「? はい」
何気なく腕を上げる。
浮き出る血管。
締まった筋肉のライン。
その瞬間――
女神様、硬直。
(これは……)
(えっちすぎる!!)
ぶんぶん首を振って目を逸らす。
「一旦上着着なさい!!」
次の瞬間。
鉄平の身体が、すぅ……と半透明になる。
「うわぁ!?消えてる!!」
「消えてない!ちょっと透明になっただけ!!」
完全に動揺しているのは女神様の方だった。
深呼吸。
咳払い。
そして厳かに宣言。
「禁じ手リストを追加します」
空間に文字が浮かぶ。
⸻
【禁じ手リスト】
・SNS大量アカウントによる情報操作
・筋肉で誘惑
(※ただし女神様が見たいと言った場合は例外)←NEW!!
⸻
「どういう事ですか!?」
当然の疑問。
女神様は腕を組み、真顔で言った。
「筋肉フェチの私に筋肉を見せつけるのは拷問に等しいの」
神、完全に私情。
(……もっと見たいけど……でも私が保たないかも……)
(ていうかなんで触れないのよぉ……)
高次元存在、物理干渉不可。
最大の欠点である。
「そんなあ……」
鉄平、過去一理不尽なルール追加を受ける。
♢
しばらくして。
女神様はふと首を傾げた。
「そういえば今回、暗躍してないわね?」
ボールを軽くトスしながら聞く。
鉄平は受け取り、少し考えて答えた。
「理由はあります」
ぽん。
静かな往復。
「ダイエットって、一番必要なのは知識じゃないと思うんです」
「ほう?」
「真横で、同じ痛みを共有できる仲間です」
女神様の動きが止まる。
「ダイエットって、自分との戦いなんですよ」
「孤独で、逃げたくなる」
「なんで自分だけこんな思いしてるんだって」
少し笑う。
「でも、横を見ると同じように頑張ってるやつがいる」
「それだけで前に進める」
「だから俺は――強化魔法をかけたかったんです」
前回学んだこと。
ファッションも。
SNSも。
全部同じ。
「苦しいだけじゃ続かない。だから楽しさで塗り替える」
女神様は黙って聞いていた。
腕を組み。
ゆっくり頷く。
そして――
目が少し潤んでいる。
「……満点よ、鉄平」
小さく笑う。
「なにより暗躍してないのが良いわ」
やっぱりそこ重要らしい。
暗躍=マイナス要素かぁ…
女神様は空中に座り込み、次のページをめくるように指を動かした。
「さて……次は」
少し楽しそうに。
「大学生編ね」
いたずらっぽく微笑む。
「少し大人な恋になるわよ?」
そして――
「頑張ってらっしゃい」
その声は、神の宣告というより。
どこか。
応援してくれる、近所のお姉さんみたいだった。




