Case4 ダイエット③
【鉄平共闘パート(暗躍無し)/鉄平視点】
ゴールデンウィーク。
街はどこか浮かれていて、時間の流れが少しだけ緩んでいる。
学校もない。
朝も急がなくていい。
――だからこそ。
体を変えるには、ちょうどいい期間だった。
俺と雄大は、公園のベンチに並んで座っていた。
歩いた後の身体がじんわり熱い。
春から初夏へ変わり始めた風が、汗ばんだ首筋を撫でていく。
スマホの記録アプリを確認する。
「いい調子だぞ、雄大」
画面を見せる。
「一週間で3kg減ってる。やっぱ食事改善が一番効くんだ」
雄大は息を整えながら苦笑した。
「……ああ。その分、誘惑はキツイけどな」
コンビニの前を通るたびに漂う揚げ物の匂い。
ラーメン屋の湯気。
甘いパンの香り。
全部が敵になる。
だから俺はポケットから一本取り出した。
魚肉ソーセージ。
「小腹空いたらこれ。低脂質・高タンパク」
包装を剥く音がやけに大きく響く。
「何より安い」
雄大が笑う。
「現実的だなぁ」
「あとさ」
俺は指を立てる。
「噛む回数増やそう。あと一回、二回多く噛むだけで満腹感変わる」
雄大は真剣に頷いた。
「鉄平も同じことやってるからさ……俺もやんなきゃって思えるよ」
少し照れた声。
「……ありがとな」
その言葉を聞いて、俺は内心確信する。
一人だったら、絶対続かない。
♢
「さて」
俺は立ち上がる。
「次は運動だ」
雄大が露骨に身構えた。
「スポーツ経験は?」
「ゼロ。相撲部も怖くて断ったし」
予想通り。
だから俺は笑った。
「じゃあゲームしようぜ」
「……は?」
「位置情報ゲーム」
二人でスマホを操作する。
ダウンロードバーが伸びていく。
キャラ作成。名前入力。初期装備。
まるで新しい人生を始めるみたいだった。
「このゲームな、現実の位置情報と連動してる」
画面を指差す。
「歩いてモンスター倒す。素材集めて装備強化。以上」
雄大の目が少し輝く。
「シンプルだろ?」
さらに続ける。
「モンスターは一時間でリポップする。だから――」
地図をなぞる。
「公園A、公園B、公園Cを徒歩15分で周回」
「着いたらまとめて戦闘。歩きスマホ防止にもなるし、歩くことに集中できる」
実際に始めてみると――
雄大は秒でハマった。
「鉄平!こいつ倒せない!」
「遠距離武器ある?近接だとキツいぞ」
並んで立ち止まり、スマホ越しに共闘する。
夕方の公園。
子どもの声。
犬の散歩。
その中で俺たちは真剣にモンスターを狩っていた。
「……このゲーム、課金の誘惑あるよな」
雄大がぼそっと言う。
俺は即答した。
「そこ我慢」
「課金は時短。でもな」
ニヤッと笑う。
「無課金のほうが、めっちゃ痩せる」
数秒の沈黙。
「……無課金でやってやるぜ!!」
その宣言に、思わず笑った。
楽しめている。
それが何より重要だった。
♢
「雄大、今日チートデイだよな?」
「ああ。家系ラーメントッピング全部乗せ予定」
目が本気だ。
「じゃ、その前に腹空かせていこう」
連れてきたのは、ボーリング場併設のスポーツ施設。
汗とゴムと金属の匂いが混ざった空間。
まずは――バッティングセンター。
カキン!!
「よっ!」
100kmの球を打ち返す。
雄大が挑戦する。
120km。
――快音。
「……やっば!!気持ちいい!!」
目が少年みたいに輝いていた。
「雄大、動体視力あるんじゃね?」
次はバスケット。
「鉄平ドリブル下手すぎんか!?」
「うるせー!!」
テニス。
「鉄平!左右振るな卑怯だろ!」
「作戦勝ち!」
フットサル。
汗が滲む。
呼吸が荒くなる。
笑い声が止まらない。
気づけば、運動が「罰」じゃなくなっていた。
そして。
ふと雄大が言う。
「鉄平も筋肉ついてきたよな」
腕を見下ろす。
確かに、脂肪が落ちて輪郭が出てきていた。
「皮下脂肪減ってるな」
雄大が笑う。
「体重は俺の勝ちだけど、仕上がりは鉄平の勝ちかも」
「勝ち負けじゃねえよ」
本当にそうだった。
これは競争じゃない。
共闘だ。
♢
そして――
ラーメン屋。
湯気。
醤油と脂の香り。
腹の奥から食欲が暴れる。
「ラーメンうっま!!」
雄大が叫ぶ。
俺も笑う。
「お疲れさん、雄大!」
汗をかいた後の一杯。
罪悪感じゃない。
達成感。
「動いた後のチートデイ、最高だな」
俺たちは気づいていた。
ダイエットをしているんじゃない。
生活を、楽しみに変えているんだと。
――俺たちは。
ダイエットを、楽しんでいた。




