Case4 ダイエット②
【鉄平共闘パート(暗躍無し)/鉄平視点】
俺は鉄平。
スマホ越しに届いた雄大からのメッセージは、短かった。
――変わりたい。
それだけだった。
だけど、その一行に詰まっているものが何なのかは、なんとなく分かった。
焦り。
劣等感。
期待。
そして、最後に残った勇気。
だから俺は即座に返信した。
「OK。作戦会議な」
♢
雄大の部屋は、どこにでもある高校生男子の部屋だった。
ゲーム機。
漫画。
開けっぱなしのお菓子袋。
けれど、机の上に置かれた一枚の写真が目に留まる。
家族写真だった。
両親と並ぶ、少し幼い頃の雄大。
――あれ?
思わず写真を手に取る。
父親は整った輪郭。
母親も柔らかく上品な顔立ち。
(……なるほど)
遺伝子的なポテンシャルは、かなり高い。
今は脂肪に隠れているだけだ。
つまり。
痩せれば、変わる。
見違えるほどに。
前回の出来事が、頭をよぎる。
ファッション。
外見を整えることは、ただの見た目の問題じゃなかった。
あれは――
自信と勇気を底上げする強化魔法。
俺は、それを目の前で見た。
成功例も。
変化の瞬間も。
だから今回は。
ダイエット回。
今度は、俺が魔法を掛ける番だ。
♢
テーブルを挟んで向かい合う。
雄大は少し緊張した顔で座っていた。
俺はできるだけ軽い口調で切り出す。
「まずさ。ダイエットに必要なのって、めちゃくちゃシンプルなんだ」
雄大が身を乗り出す。
「食生活の改善と、適度な運動」
拍子抜けしたような顔。
でも、ここがスタートラインだ。
「ざっくりでいい。一日の食事、思い出せる範囲で書き出してみて」
ペンが走る音。
カリカリ、と紙を擦る音が部屋に響く。
少しして、メモを覗き込む。
「……なるほど」
カレー。
ラーメン。
唐揚げ。
揚げ物。
いかにも男子高校生メニューだ。
「これね、全部“脂質”が高い料理なんだ」
雄大の顔がゆっくり曇る。
「ええ……それは寂しいな」
分かる。
好きなものを否定される感覚は、きつい。
だから俺は首を振った。
「違う違う。禁止じゃない」
「置き換えるんだよ」
「置き換え?」
目が少し戻る。
ここが大事だ。
「例えば、ラーメンをスープ春雨にする」
「唐揚げを焼き鳥にする」
雄大が瞬きを繰り返す。
「食感とか満足感は似てる。でも脂質は全然違う」
我慢じゃない。
選択を変えるだけ。
「あと、魚な。特にサバ」
「EPAとかDHAって聞いたことあるだろ?脂肪燃焼をサポートしてくれる」
「ただし食べ過ぎは逆効果。脂質だからな。適量」
雄大が真剣な顔でメモを取る。
カリカリ、と音が続く。
「魚と鶏肉を交互にローテーション。野菜も必須」
「主食はパンとか麺より、ご飯」
「パンって意外と脂質多いんだよ。ご飯は腹持ちいいしコントロールしやすい」
「ほうほう……」
さっきまで不安そうだった顔が、少しずつ前向きになる。
理解できると、人は動ける。
そして――
俺は切り札を出した。
「あと、チートデイ方式」
雄大の手が止まる。
「チートデイ?」
「週一で好きなもの食べていい日」
「……有りなのそれ?」
思わず笑う。
「有り有り。これないと人間続かない」
「一日食べても、残り六日整えれば帳尻は合う」
沈んでいた目に、光が戻る。
「じゃあ……毎週金曜にカレーとかラーメン食べていいってこと?」
「そういうこと」
雄大の肩の力が抜けた。
「……なんか、やれる気がしてきた」
その言葉を聞いて、俺も少し安心する。
そして。
最後に、もう一つ。
「あとさ」
雄大が顔を上げる。
「俺も同じメニューで食う」
「え?」
「雄大だけ頑張ってて、俺が普通に食ってたら説得力ないだろ」
一瞬。
沈黙。
雄大の目が揺れる。
「……鉄平」
小さな声。
「ありがとう」
その言葉を聞いた瞬間、確信する。
ダイエットってのは――
知識でも、根性でもない。
一人じゃないと思えるかどうかだ。
魔法は、もう掛かり始めていた。




