Case4 ダイエット①
【主人公:雄大視点】
春の空気は、まだ少しだけ冷たかった。
けれど校庭を渡る風の匂いは、もう冬ではない。
湿り気を含んだ土と、若い草の青い匂い。
季節が、確実に前へ進んでいるのが分かる。
四月。
入学式も終わり、学校という場所にも少しずつ慣れ始めた頃。
ゴールデンウィークを目前に控えた、どこか浮ついた空気の中で――
俺は、自分の体を持て余していた。
俺の名前は雄大。
高校一年生。
身長は一応、172センチある。
……だが。
体重は、90キロ近い。
制服のボタンは座ると引っ張られ、
階段を上がれば太ももが擦れ、
体育の時間には視線を感じる。
誰も何も言わない。
でも分かる。
(ああ、俺ってデカいよな)
鏡を見るたびに思う。
どう見ても、メタボだ。
入学してすぐ、相撲部から声をかけられた。
「体格いいね!どう?」
悪意なんてない。
むしろ好意だったんだと思う。
でも俺は、笑って断った。
運動が苦手だから。
――いや、本当は違う。
人前で動く自分を見られるのが怖かっただけだ。
走れば揺れる体。
息切れする姿。
遅れる動き。
笑われていないのに、笑われている気がする。
だから逃げた。
そんな俺が。
身の程知らずだと、自分でも思う。
それでも――
好きな人が、できてしまった。
同じクラスの、結衣
特別目立つわけじゃない。
派手でもない。
けれど、ノートはいつも整っていて、
提出物は忘れず、
誰にでも丁寧に話す。
黒板を消す姿。
静かに髪を耳にかける仕草。
小さく「ありがとう」と笑う声。
気づけば、目で追っていた。
……でも。
どう考えても。
俺と彼女は、住む世界が違う。
几帳面で、ちゃんとしていて、
細くて、清潔で、まっすぐな人。
それに比べて俺は――
地味で、太っていて、
何をするでもなく毎日を過ごしているだけの男子。
接点なんて、あるはずがない。
教室のざわめきの中で、
ふとガラスに映った自分を見る。
丸い輪郭。
重そうな肩。
猫背気味の姿勢。
(……もし)
痩せたら。
変われるんだろうか。
周りが見る俺も。
そして――
俺自身が見る世界も。
胸の奥が、じわりと熱くなる。
▶︎変わりたい。
このままでいい
でも。
どうやって?
何をすれば?
分からない。
分からないから、今まで何もしてこなかった。
机の上に置いたスマホを見つめる。
連絡先一覧。
その中にある名前で、指が止まる。
鉄平。
不思議なやつだ。
目立つわけでもないのに、
気づけば人の中心にいる。
誰かが困っていると、
いつの間にか隣に立っている男。
……たぶん。
今の俺が頼れるのは、あいつしかいない。
喉が少し乾く。
ためらい。
躊躇。
それでも。
俺は、画面をタップした。
――自分を変えたいんだ。
その一言を送るために。




