プロローグ
(――ここは、どこだ)
意識が浮かび上がる。
気づいた時、俺は白の中に立っていた。
床もない。
壁もない。
天井すら存在しない。
上下の感覚さえ曖昧で、ただ――果てのない白。
音もない。
風もない。
世界そのものが、呼吸を止めているみたいだった。
「……俺、死んだのか?」
声がやけに遠く響く。
記憶を辿る。
交差点。
赤信号。
急ブレーキの悲鳴。
そして――衝撃。
(……ああ)
理解した瞬間。
背後から、澄み切った声が落ちてきた。
「あなたは前世で、不慮の事故により亡くなりました」
振り返る。
そこに立っていたのは――
光だった。
いや、人の形をした光。
金色の長い髪が淡く揺れ、白い衣が空気もない空間で静かに流れている。
神々しい。
圧倒的に。
見た瞬間、理解してしまう。
ああ、これは。
――女神だ。
「転生にあたり、あなたの“願い”を聞きましょう」
静かな声。
感情の揺れは一切ない。
裁定者の声音だった。
(……これは、異世界ものでよくあるテンプレ展開だ)
そう思った瞬間、妙に安心した。
どうせ死んだなら。
どうせやり直せるなら。
口が先に動いた。
「……ハーレム主人公になりたいです」
言った直後。
猛烈に恥ずかしい。
「その……モテモテな人生を……」
消え入りそうな声。
普通ここ笑うだろ。
でも女神は――笑わなかった。
「多くを望むのですね」
ただ静かに頷く。
その仕草すら神聖だった。
「では、試練を与えましょう」
空間の温度が変わる。
「これは成功と報酬を伴う“仕事”です。完遂した暁には、あなたの望む世界を約束します」
おお。
優しい。
ちゃんと女神だ。
いける。
頑張れる。
そう思った――次の瞬間。
「――ただし」
声が冷えた。
本能が警告を鳴らす。
「途中で失敗した場合、あなたは転生できません」
間。
「魂、記憶、存在すべてを完全消去します」
「……は?」
女神は瞬きすらしない。
「あなたに課す試練はこちらです」
一拍。
そして宣告。
「あなたは“ギャルゲー世界の友人”として、十人の主人公をハッピーエンドへ導きなさい」
沈黙。
頭が理解を拒否する。
「……主人公じゃなくて?」
「はい」
即答。
「恋の主役はあなたではありません」
慈悲ゼロ。
「あなたは友人です」
断言。
「支え、助言し、背中を押す役割です」
「……失敗したら?」
「消滅です」
笑顔で言うな。
⸻
「あの!?」
思わず手を上げた。
「ギャルゲーって聞いたことはありますけど!実際やったことないんですけど!?説明とか!!」
その瞬間。
女神の表情が、わずかに崩れた。
「あら?」
首を傾げる。
「この手のゲーム、あんまりやらないタイプ?」
さっきまでの威厳どこ行った。
「私は結構好きなんだけどなぁ」
急に距離が近い。
「え?」
「周回するとね、推しルートの解像度上がるのよ。あと隠しイベント――」
語り始めた。
止まらない。
……この人オタクだ。
咳払い。
「あー、えっと。能力説明ね」
仕切り直す女神。
「あなたには“運命の可視化”を与えます」
「運命?」
「好感度が見えるの」
軽い。
急に説明雑。
「つまり?」
にこっと笑う。
「あなたには彼らの青春プロデューサーになってもらいます」
さっきの威厳ある女神様どこ行った。
⸻
いや待て。
冷静になれ俺。
俺、彼女いたことすらないんだけど?
不安が込み上げた、その瞬間。
女神がぱんっと手を叩く。
「じゃ、一人目いこっか!」
軽っ。
「え?」
「現地で覚えるタイプでしょ?」
いや知らん。
抗議する間もなく。
視界が白く弾けた。
⸻
こうして。
俺――鉄平の試練は始まった。
ひとつだけわかった事がある。
この女神。
最初だけ威厳MAXで、
中身はだいぶ愉快なお姉さんだった。
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プロローグいかがだったでしょうか。
話あたりの長さが短めなのでサクサク読めると思います。
続きが気になったら、
ブックマークだけでもしてもらえると助かります。




