ホワイトデーは期待しとけってカッコつけてみたけど、幼馴染は卒業できた?
「哲哉! これは今年のチョコレートね」
当たり前のように和佳がキャラクターの絵柄のチョコレートをくれた中2のとき、
「来年のチョコレートは手作りがいいな」
と、少しの期待を込めて俺は頼んでみた。
和佳とは3軒隣りの幼馴染だけれど、中学に入った頃から少しよそよそしくなっていた。
照れくさくて話しにくくなっていた頃、クラスの男子が、影で和佳のことを可愛いと言っているのが聞こえてきた。和佳の容姿を気にしたことはなかったのに、その時感じたのは。
「和佳は俺のなのに」
なんて思い上がりなんだろう。
その瞬間、いつまでも隣にいるわけじゃないと気づいたんだ。
だけど、毎年途切れずにくれるチョコレートに期待をした。
今年のバレンタインデーに、和佳のクラスに行ったら、彼女は怪我をして早退したと聞いた。
(怪我? 知らなかった! 大丈夫なのか?)
走って、和佳の家まで着くと、インターホンを鳴らす。出てきた和佳はなぜか驚いたような顔をしている。
まだ息が整わない。
見つめると、目が赤いのに気づいた。泣いていたのか? 視線を移すと手首の包帯が痛々しかった。
「クラスに行ったら早退したって聞いたんだけど、大丈夫?」
玄関先で話していたら、リビングに通してもらった。
怪我をしているのに、和佳はキッチンに行くと小箱を持ってきて、おずおずと可愛らしく言った。
「あのね、ラッピングはまだなんだけど、作ったんだ」
本当に手作りチョコを用意してくれたことが嬉しくて、すぐに食べた。柔らかくて甘い生チョコはとても美味しかった。
ただ、本命チョコかはわからない。和佳のことだからリクエストに応えただけの可能性が高かった。真剣に和佳の顔色をうかがう。好かれてはいると思うけど、なんかわからないんだよなぁ。
進路の話をしてなかったのを思い出し、卒業したら家を離れるんだということを伝えると、和佳は大泣きしだした。驚いた。俺の存在が大きかったことが嬉しい。嬉しいから告白をすっ飛ばしてしまった。
「今日から和佳は俺の彼女な。ちゃんと電話もするから、早く手首も治して手紙も書けよ」
しばらく無言になった和佳が不思議そうに聞いてきた。しまった、急ぎすぎたか?
「私が彼女でいいの? Limeじゃなくて手紙?」
「うん」
大丈夫だ、嬉しくなって顔がゆるんだ。それから嬉しそうに頷いた和佳に満足した。離れていても、手紙なら公認の仲だとわかりやすいし、なにより手書きは嬉しい。
ホワイトデーは期待しろと言ったものの、俺の住んでる街は田舎で車で行かないとコンビニくらいしか店がない。
「今月のマンガ、まだ買ってないみたいだけどいいの?」
悩ましく思っていたときに、母さんから聞かれた。少し考えて協力してもらうしかないと、腹を括った。
「あのさあ、お年玉の貯金っておろせる?」
「あら、何かほしいものがあるの?」
「ネックレスを買いたいんだ。店まで連れて行ってくだサイ」
語尾が丁寧になってしまい、母さんが笑った。
「誰にあげるのか教えてくれたら、連れて行ってあげる!」
プレゼントだなんて言ってないのに、これはもう『知ってる』と言ってるも同然じゃないか。表情からまるわかりだ。おばさんだな?
「あぁ、もう! 和佳だよ。どうせ知ってるんだろ!?」
いつもコンビニのアメなのにと、笑っていた母さんに、週末、大きなショッピングセンターまで連れて来てもらったけれど、どの店がいいのかわからない。
「どうしよう……」
恥ずかしいけど母さんに相談したら、黒い壁のアクセサリーショップに連れて行ってくれた。並んでいるアクセサリーがどれも銀色に光っている。
「予算はどうするの? このあたりのか、この辺のペアとかもいいと思うけど」
もともと値段を知らなかったものだから予算はあってないようなものだった。毎月のお小遣いを思うと高いけど、貯金からなら買えなくはない。
「貯金を使うから大丈夫。シルバーとかステンレスって何?」
説明を聞いて、いつもつけて欲しいから、シンプルなステンレスのペアのものにした。四角いキューブの枠の中に、色違いの石が入ってるものだ。可愛いし和佳に似合うと思う。
和佳の分をプレゼント包装にしてもらう。俺が悩んでいる間、母さんは店内で他のものも見てピアスを選んでいた。
母さんのホワイトデーも要るのだったか? 父さんに相談した方が良かったか? 顔に出さないようにしたけれどバレていて、久しぶりにお店に入ったからねと微笑っていた。
そうして購入ミッションは終わったけれど、どうやって渡そう。
バレンタインデーから、和佳とは時々一緒に下校している。それがちょっとしたデートだ。
なんていったって、喫茶店にも映画館にも車が必要だ。中学生には一緒に下校する程度が精一杯なのだ。
結局、家に行ってもなぁと思って、公園に行くことにした。おばさんに聞かれたら恥ずかしいし。
「夕方大丈夫なら、外に出れないか?」
帰宅後に俺達が出会った近所の公園まで行くことにした。3月と言ってもまだ寒く割と静かだ。静かなのは良かったとベンチに腰を下ろす。
「この公園で会って、もう10年かな。和佳、ずっと仲良くしてくれてありがとう」
ポケットからネックレスの入った小箱を取り出して渡す。
「これ。選んだのは俺だからな。母さんに店に連れていってもらったけど」
いらないことまで口走る俺の顔を見て、さっさと包みを開いた和佳は、ネックレスを光にかざし
「きれい……」
と呟いた。その瞳に目が離せない。
それから、涙目になって、
「大好き」
……と。俺こそ言うべき言葉なのに。
「俺も。……ちゃんと言わなくてごめん。和佳、好きです。これからも、よろしくお願いします」
「うん……うん! ありがとう!」
和佳が、いつも以上に可愛く見えた。
「それな、ペアになってるんだぜ」
首につけたネックレスを見せると、和佳は驚いた。
「学校には無理かもだけど、たくさんつけて、俺のこと忘れないで」
「哲哉の方がモテるから心配だよ」
「知ってると思うけど男子校だからな?」
これから、和佳は新しい出会いをするんだろうけど、仲のいい子と同じ高校だから少し安心かな。今までと同じように過ごすんだろう。
「高校、ちゃんと受かって良かったな」
「うん! 有希と離れなくてよかった。……哲哉はいつから行くの?」
「あと10日くらいかな。寮だから荷物を持っていくだけだけど」
「その間、何して遊ぼうか?」
いたずらっぽく笑った和佳がとびきり可愛く見えたのだった。
だから、きっと大丈夫。
うちの息子は頼みごとをするとき、丁寧語になります。そんなことを思い出しながら哲哉には頑張ってもらいました。
バレンタインデーと対のお話として書きました。
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バレンタインデーのお話はこちらです。
幼馴染からバレンタインにリクエストされたのは恋心だったらしい!?
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