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お前の苦しむ顔が欲しい

「……あの?いまなんと?」

「ですから、再三申し上げているではありませんか」


 短い黒髪の、目付きの悪い男が、王族仕様の豪華な椅子に腰かけている、王冠を被った美しい金髪の女性に向かって、面倒くさそうこう言い放った。


「姫様が肉壁になってくれるなら冒険に行きます」

「うん、なんでぇ?」


 この少女はこの国の姫だ。そして、この何人か人を殺めていそうな目付きの悪い男は、この国から排出された勇者だ。


 そんな二人がこの玉座の間でなにを話し合っているのかと言うと、それは勇者が冒険に行くか行かないかの交渉だった。


 いや行けよ、勇者なんだから。と思うところではあるのだが、この勇者、中々にくせ者であった。


「いや、そもそもの話、冒険に行かないっていう選択肢があるのはなんでなの!?勇者でしょ君!?冒険に行かない勇者なんて、そんなのただのニートじゃないの!」

「だまらっしゃい!!」

「ぴぃ!?」


 ピシャリと勇者が大声を出して姫を制すると、勇者はまた静かに語り出した。


「国で一番の剣士である私を勇者へと任命する。これは分かります」

「そ、そうよね?だってあなたが一番この国で強い人なんだから、そりゃ勇者にも選ばれるよ、うん……」

「そして映えある勇者に選ばれたのだから、さっさと冒険に出て魔王を倒してこい。これも分かります」

「そ、そうそう!それこそが勇者の生まれたる使命!最高の名誉!あなたは英雄になるための旅路に出ることの出来る、誉れ高き選ばれし人間で……」

「だと言うのに!国から支給されるのがたがたが100Gと銅の剣!防具に至っては配布すら無い!!国には金が無いのかと思い直接玉座に殴り込んだら、ムカつく顔をした姫が豪華な椅子で悠々と菓子をむさぼり食っている!!この国は腐っているのかぁ!!」

「ぴぃぃ!!?」


 説教をされながらも、パクパクと菓子を食べていた姫であったが、直接怒りの矛を向けられた事によって、改めて姿勢をただして玉座へと座り直した。


「ご、ごほん……そ、その支給額と銅の剣は、我が国伝統の勇者への選別であり……その……由緒あるしきたりと言いますか……様式美と言いますか……」

「昔からのやり方を変えられない面倒くさい職人かお前は」

「あー!お前って言った!姫の事お前って言った!不敬罪!ふ!け!い!ざ!いぃぃ!!」

「なんか、私がなにもしなくてもこの国滅びそうだな……」


 玉座でバタバタして愚図っている国のトップのあられもない姿を見て、勇者は破滅へと向かっている国の未来を想像し、頭を抱えた。


「私とて人の子です。100Gと、石にぶつけただけで折れそうな剣を渡されて冒険へ行けと言われても、当然拒否します。断固拒否します」

「うぅぅ!そんなにきっぱり断んなくても良いじゃん!冒険へ行けるんだよ!?なんかこう、男の子ならワクワクしたりしないの!?初めて訪れる場所とか、美しい景色とか、まだ見ぬお宝とか!ね?行こうよ冒険!行ってよお願いだからぁぁ!!」

「泣きながら私の袖を引っ張るな。トイ○らスでオモチャを買って貰えず、泣きわめいている子供と同レベルだぞ」


 勇者は袖についた姫の涙を汚そうに拭き取ると、そのまま話を続けた。


「だからどうしても冒険に行けと言うなら、私にも要求があるわけです」

「それが……さっきの……」

「はい。姫様が肉壁になってくれるなら冒険に行きます」

「だからなんでぇ?どうしてそこで私が肉壁になる必要が出てくるのよ!?私王族よ!?お姫様なのよ!?」

「だから良いんじゃないですか。自分は絶対的な安全圏に居ると思い込んでいる王族を前線に引っ張り出して苦しめるのが、私の子供の頃からの夢でした」

「どんだけ邪悪な子供なのよ!?悪魔から生まれたの!?」

「失礼な。拷問管と死刑執行人のハーフですよ」

「残虐性のハイブリットモンスター!?」


 勇者は語りたいことは語ったと言った感じで、肩をすくめて改めて姫に提案した。


「それで、どうしますか?肉壁になるのかならないのか。私が世界を救うかどうかは、姫様が自身を肉壁に出来るかどうかにかかっていると言っても、過言ではない」

「……そ、その。ちなみに肉壁って言うのは具体的にどういう……?」

「そうですね……例えば、洞窟でドラゴンに出会い、逃げ場を失い、ドラゴンがファイアーブレスを私に放ってきたとしましょう」

「ぜ、絶体絶命ってやつね……!そんなの食らったら灰ものこらな」

「そのファイアーブレスを全て体で受け止めるのが姫様の役目です」

「出来るかぁ!」


 頭の王冠を床にぶん投げながら、姫はついにツッコミをいれ始めた。


「ただの自殺行為じゃないの!?なんで自分からドラゴンのファイアーブレスに突っ込んでいかないといけないのよ!?」

「じゃないと私が死ぬじゃありませんか。魔王を倒せる私が死んだら、この世界はもう終わりです。ですが、もしそこで死ぬのが姫様だったとしたら……?」

「だったとしたらダメでしょ!?死ぬのが姫だったとしても大問題でしょうが!?世界を救っても国が滅んだら意味ないんだってば!」

「良いじゃないですか別に、勇者に100Gと銅の剣しか与えてこない極悪国家なんぞ、滅んで歴史から消えて無くなれば良い……」

「ちょっと衛兵!こいつ!魔王より先にこいつを国家転覆罪で捕まえてぇぇぇ!!」


 わめく姫を余所目に、勇者は話を続けた。


「別に、率先して死んで欲しい訳ではありませんよ。すぐに死んでしまったら私がたのしめ……私がたのしめないではありませんか」

「なんで言い直そうとして結局言っちゃったの!?本音を隠す気すらないってこと!?」

「最初の方はゴブリン辺りにこん棒で殴られて貰って、後半の方になったらゴーレム辺りの拳にでも耐えて貰いましょうか」

「ついに具体的な私の肉壁計画を立て始めた!?死んじゃうから!ゴブリンのこん棒の時点で死んじゃうからぁぁ!!?」

「はぁ……全く……わがままなお人だ」

「自分の命を守る行為がわがままだと言われてたまるかぁ!!」


 ハァハァと肩で息をしながら、姫は勇者と交渉を続けた。


「ならわかったわ!こうしましょう!あなたに護衛を一人つけてあげるわ!肉壁にするならそっちに……」

「違うんですよ姫様。私は肉壁が欲しいんじゃありません」

「じゃ、じゃあ一体なにが欲しいってのよ……?」

「苦痛に歪むお前の顔が欲しい」

「国中の神父とエクソシスター連れてきてぇぇぇ!!悪魔がここに居るぅぅぅ!!」


 あわや姫が聖水を勇者にかけようとしたその時、勇者は最後の勧告を姫に言い渡した。


「さぁ決断を!肉壁か!破滅か!肉壁か!魔王か!」

「どれ選んでも私死ぬじゃんかぁぁ!!嫌だぁぁ!!選べないぃぃ!!」

「つまり決断出来ないと?」

「出来るわけないじゃん!どれ選んでも私が苦しむんだもの!!そんなの絶対に嫌!嫌ったら嫌ぁ!!」

「と、姫はおっしゃっていますが。どうしますか国王」

「ふむ……そうじゃな……」

「へ?パパ?いつの間にそこに……」


 本当に、いつの間にそこに居たのか、いつから居たのか。王冠を被った白髪の老人が、突如として勇者と姫の目の前に現れた。


「ねぇー。パパからも言ってやってよ!私を肉壁にしようとしてくるのよ?そんなのパパが許すわけ」

「姫よ。一緒に行っておやりなさい」

「なんでぇ?」


 あまりにも予想外な答えが肉親から飛び出した事により、姫は間抜けな顔をしながら固まってしまった。


「そうじゃな……一緒に冒険をして経験をつみなさいだとか、世界を見回って見識を深めなさいだとか、まぁ理由は色々あるんじゃが、一番は……」

「い、一番は……?」

「お前、ワガママ過ぎ。お灸を据えてもらいなさい」

「……い、嫌だぁぁぁぁ!!!?私まだ死にたくな」

「ほれ。この指輪をつけなさい勇者よ」


 国王は勇者に黒い指輪を渡した。


「?これは?姫様がつけている白い指輪と対になっているように見えますが」

「それは迷子防止の指輪じゃよ。この子は昔から落ち着きが無くての。しょっちゅう迷子になるもんだから特別にこの指輪を作らせたのじゃ。この指輪を二人がつけている限りは、白い指輪をつけている人間は、絶対に黒い指輪をつけている人間からは逃れられなくなるのじゃ。ほれ、試しに姫を呼び寄せてみよ」

「分かりました。駄々をこねていないでさっさと来いバカ姫」

「あー!?いまバカって言っ……う、うわぁぁぁ!!?」


 勇者が黒い指輪をつけて姫に命令すると、指輪の力によって、姫は強制的に勇者の目の前へと吹き飛んでいった。


「ほぅ、こいつは便利だ。これならドラゴンのファイアーブレスが来ても、咄嗟に姫様を目の前に呼び出せる……」

「発想がモンスターのそれ!?ていうか痛!?膝とか肘とか擦りむいたんですけど!?」

「その程度で痛がっていては、ゴブリンのモーニングスターは耐えられませんよ」

「ゴブリンの装備がこん棒からパワーアップしてる!?嫌だぁぁ!!誰かたすげてぇぇ!!」


 よほど城内で人望が無いのか、叫びを聞いた全ての衛兵が、姫の助けを無視していた。


「うむ。では勇者よ!行くがよい!輝かしい冒険の末、見事魔王を打ち倒すのじゃ!」

「は!必ずや姫と二人で冒険に出掛け、魔王を討伐し、私一人で帰還したいと思います」

「あんたが一人で帰ってくるって事は私死んでるじゃんか!?二人で行ったなら二人で帰れるようにしでよぉぉぉ!!」

「皆のもの!勇者の出発を称えるのじゃ!」


 衛兵が通路を開けるように横に並び、ラッパを吹きながら勇者と姫の冒険を称え始めた。


「さぁ、行きますよ姫様」

「うぅ……なんでこんなことにぃ……!」

「大丈夫ですよ姫様。きっと楽しいと思いますよ」

「ゆ、勇者…….!そ、そうよね!なんだかんだ言って冒険なんだし、きっと楽しいことも」

「これから毎日姫様を苦しめられると思うと、私はとても楽しい」

「……ぴぃ……」


 勇者と姫の肉壁ファンタジーライフが、今始まる。

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