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Canna Suspicion6 - クラウドマネーの闇 -





やっと梅雨が明け、今度は容赦ない程の夏の日差しがやって来た。

その日、少し遅くなった女子大生のカンナは友人の洋子と学食の隅で向かい合って座っていた。

洋子は真面目に塾の講師のバイトをしている。

今日もバイトだと言っていたのだが、急ぐ気配もなく、手に持った冷たいミルクティの缶を握りしめていた。


「どうしたのよ……」


カンナは缶コーヒーを一口飲んで、じっと洋子を見つめる。


「うん……」


「バイトの時間大丈夫なの……」


カンナはスマホの画面をつけて時間を見た。


「私もそろそろバイト行かなきゃだし……」


そう言って缶コーヒーを飲み干した。


「私、最近……、夜道で必ず誰かにつけられている気がするの。スマホにも無言電話が有ったり、部屋のドアノブに変な液体塗られてたり……」


カンナは飲み干した缶をテーブルの上に置く。


「何……。ストーカーって事……」


洋子は首を横に振る。


「わからないんだけど……。そんな事が続いてるのよ……」


洋子はそう言うが、カンナにしてみると悪質なストーカー行為の様に聞こえた。


「直接、被害に遭った事は……」


洋子は静かに首を横に振った。


「それは無いけど……。どうしよう。引っ越しするお金もないし。塾のバイトも辞められないし……」


カンナは顎に手を当てた。


「わかった。明日まで待って……。今日もバイト帰り危なそうなら連絡して……。少し頼れる人に相談してみるから」


カンナは洋子に微笑んだ。

そしてバッグを手に取り立ち上がる。


「ありがとう……」


洋子も立ち上がり、カンナの手を取った。


「良い、危ないと思ったら私か、警察に電話するのよ」


「うん……」


洋子も椅子に置いていたバッグを取ると、椅子をテーブルの中に戻した。

それくらいちゃんとした子だった。

同級生はガールズバーだのキャバクラだのってバイトをしている人が多いが、この洋子は学習塾で中学生に英語を教えている。


二人はキャンパスを出て、駅に向かう。

その間も洋子は周囲を気にしながら歩く。


「この辺りでもあるの……。気配を感じる事……」


カンナは洋子に小声で訊いた。

洋子はコクリと頷くと、


「何度かあったけど……。今日は大丈夫なのかも……」


カンナは無言で頷き、不安そうな洋子の横顔をじっと見つめた。






カンナは洋子と別れ、JRに乗り、バイト先の事務所に向かった。

喜多川コンサルティングと書かれた窓ガラスを見上げて息を吐く。


どうして私の周りって、こんなに危ない目に遭ってる人が多いんだろう……。


カンナはその雑居ビルを階段で三階まで上がり、事務所のドアを開けた。


「よお、カンナちゃん」


ソファに座り、週刊誌を広げている大柄な男がカンナに声を掛けた。

この男は明らかに反社と呼ばれる類の人間なのだが、よくこの事務所に出入りしている。

この喜多川コンサルティングの代表でもあるタケルと仕事をしている。

仕事と言ってもどうもまともな仕事ではない気もするのだが。

そしてカンナは未だにこの男の名前を知らない。

タケルは男の事を「おっさん」と呼んでいる。


「カンナ……。すまんがラーメン作ってくれ……」


机の前でパソコンを触っているタケルが大声で言う。


「タケルさん……。その前に聞いて下さいよ」


カンナはタケルの机に両手を突いて、洋子の話をした。

タケルは面倒な表情で、


「ストーカーねぇ……」


と言うと立ち上がり、飲み干したマグカップを手に冷蔵庫まで歩くと、ペットボトルのコーヒーを並々と注ぐ。


「男にだらしないのか、そのお前の友達は……」


カンナは首を横に振った。


「そんな事無いんです。至って真面目で、男性関係のトラブルも聞いた事無いですし……」


「真面目過ぎるってのもなぁ……。あ、カンナちゃん。俺にもアイスコーヒーくれ」


ソファに座ってたおっさんが言う。

カンナはマグカップを手に、アイスコーヒーを注ぐとおっさんの前に置いた。

それと同時におっさんの向かいにタケルが座りコーヒーを飲む。


「ストーカーってのは表面だけ見て動くのは実は危険でな……。ストーキングの目的が何なのかで、対処法が違うんだ。痴情の縺れなんかだと、そこのおっさんや警察に頼めば解決する事も多い。しかし、最近はそんな事でストーカー行為に及ぶ奴も少ない。ましてや金絡みだったりすると、その裏には大きな組織何かが付いている事も多い……」


洋子に限ってそんな事は……。


カンナは壁に寄り掛かってタケルを見た。


「面倒な事は任せとけ……。ストーカーでも組織でも軽く捻ってやるからよ……」


おっさんはカンナが淹れたアイスコーヒーを一気に飲み干した。






その日、洋子からの連絡はなく、今日は何も無かった様だった。


その翌日、カンナはまた学食でコーヒーを飲み、昼食代わりに生協で売っているバウムクーヘンを口に入れた。


「よう、カンナ……」


最近見てなかった益子という男子学生から声を掛けられる。


「あ、益子君……。最近見ないと思ったら……」


以前の益子と違い、髪を金髪にして、高そうなブランド物のバッグを手に持っていた。


「ああ、ちょっと仕事が忙しくてな……。どうせ留年だし」


そう言うとカンナの向かいに座る。


「それよかさ……」


益子はキツイ香水の香りを漂わせて、身を乗り出して来た。


「何……」


「お前、HALTって仮想通貨知ってるか」


久々に会う、そう親しくもない奴からの話って決まってこんな話だ。

カンナはそう思いながら、最後のバウムクーヘンを口に入れて缶コーヒーで飲み込んだ。


「雲銭……。クラウドマネー。いわゆる仮想通貨だ」


雲銭って……。

それって隠語なの……。


カンナは苦笑して背もたれに寄り掛かる。


「いや、もう円とかドルとか古いんだよ。これからは仮想通貨の時代だ。HALTは絶対に儲かるんだよ……」


そんな胡散臭い話を益子は小声でしてくる。


「仮想通貨ってコンビニじゃ使えないじゃん……。何のためのお金なの」


カンナは缶コーヒーをテーブルの上に置く。


「その辺は色々と使い道あるんだよ……。上甲大学の理工学部の奴らとさ、研究会作ったんだよ。お前もどう……」


益子は多分、よく理解出来ていないままカンナに話をしている事は明確だった。


「だから、そのHALTだっけ……。利用目的って何なのよ……」


カンナが益子に突っ込むと益子の目は明らかに泳いでいた。


説明も穴だらけで、本人が理解出来ていないモノをどうやって人に勧めようと思ってるのかしら……。


カンナは呆れて首を横に振った。


「怪しい話と怪しい男には近付くなって死んだおばあちゃんが言ってたんで……」


カンナはバッグを手に取ると立ち上がった。

そしてカンナのおばあちゃんはまだ生きている。


昼休みの間、洋子を学食で待っていたが来る気配も無かったので、カンナは帰る事にした。


「良いのか、俺たちだけ日に何百万も稼いでるんだぞ」


益子も立ち上がってカンナに言う。

カンナは立ち止まると振り返ると、


「頑張って稼いで、世の中のために経済まわしてね」


そう言うと微笑み、学食を出て行った。

外に出て学食の中を見ると益子はまた別の学生に声を掛けていた。


まったく、どうなってるのよ……。


カンナはキャンパスを出てバイト先へ急いだ。







「HALTだって……」


タケルはカンナの話を聞いて声を上げる。


「知ってるんですか」


カンナはマグカップに注いだアイスコーヒ―を手にソファに座った。


「ああ、数年前に何処かの学生が作った仮想通貨だな……。学生のやる事だ。仮想通貨を作ったは良いが、それをどう運用するのかが、不明瞭でな、そのまま消えてしまったと思ってたんだが……」


タケルはキーボードをガチャガチャと叩いた。


「なるほど……。まだ存在してるんだな……」


タケルはそう呟くとニヤリと笑った。

そしてそのサーバを調べ始める。

そして暗号化されたセキュリティの層を剥がすごとに黒い画面に赤い警告の文字が浮かんでくる。


「そうか……。完全にアングラ化してるな……」


アングラ化……。


カンナは立ち上がってタケルの後ろに立った。


《LADIES DERBY》


そんなタイトルのサイトが画面に浮かび上がっていた。

制服姿の女子高生や女子大生たちの顔写真が並び、「出馬表」と称されたページにはその女たちの名前や個人データ、そしてオッズらしきモノが表示されていた。


「オッズ……」


カンナはタケルの耳元でそう呟く。


「ああ、いわゆる違法賭博だな……。帰宅レース、ホテル滞在レース、何か色々な事をレースに見立てて、賭け事にしているみたいだな……。此処に表示されている女たちはいわゆる競馬馬の様なモンだ。誰が一番早く帰宅するか。誰が一番長くラブホテルに滞在するか……。そんな賭けにこのHALTは使われているらしい」


まるで競馬馬の様に女性が消費されている……。


カンナは吐き気を堪える様に手に持ったコーヒーを飲んだ。


「これは……」


そのページに並ぶ女の中に洋子と言う名前があった。

タケルはその名前をクリックすると、カンナの友人の洋子の顔写真が浮かび上がった。


「お前の友達か……」


カンナはじっとそのモニターを見つめてコクリと頷く。


タケルは机の上のコーヒーを手に取ると、一口飲んだ。


「多分、帰宅するのを阻止してレースをコントロールする。そんな事をしてるんだろうな。そのために普段の行動を監視する必要もある。ストーカー行為を匂わせて家に帰りたくなくするってのも心理戦の一つだろうな……」


カンナは小指で眉の上を掻く。


「これが、洋子を狙った理由って事ですか……」


タケルは小さく何度か頷いた。


「まあ、お前の友達もこれだけ人気ならターゲットにされるのは当然だな……」


そう言うと立ち上がって、キッチンへと移動した。


「カンナ、ラーメン作ってくれよ」

 






「もう少し、サーバの中に潜入したい。お前、こいつらの大学に侵入して、これを仕掛けて来てくれないか……」


タケルは黒いUSBメモリーをカンナに渡した。


カンナは翌日、益子の言っていた上甲大学に侵入して、「仮想通貨投資研究会」へと向かった。

当然、研究会の使用する部屋には入る事が出来ず、比較的近い、理工学部の棟へと侵入した。

どうやら登録の無いパソコンをネットワークに接続するとアラートが出るらしく、タケルはそれも考えて、その対策を施したパソコンを準備していた。


理工学部の奥にあるサーバルームは照明も落とされて、これでもかと言う程エアコンが効いていた。

タケルが作ったIDカードでサーバルームへ侵入し、持って来たパソコンをネットワークに接続する。


「いいか、そのまま、デスクトップにあるHMと書かれたアイコンをクリックしろ……」


耳に付けたイヤホンマイクからタケルの声が聞こえ、カンナはその通りにした。


「それが終わったら、渡したUSBメモリをサーバに差し込め」


カンナは傍にあったサーバの一つにそのUSBメモリを差し込んだ。


「君……、何をしてるの……」


振り返ると如何にも理工学部だと言わんばかりの男が立っていた。

冷たい視線がカンナとサーバに差し込んだUSBメモリに突き刺さる。


カンナの耳にタケルの声が聞こえる。


「落ち着け……。須藤教授に頼まれた解析データを吸い上げていると言え」


カンナは引き攣りながらも笑顔を作り、


「ゼミの課題で、須藤教授に指示されたデータを解析するために……」


その男もカンナの言葉に疑念を残しつつも微笑んで、サーバルームを出て行った。


カンナは大きく溜息を吐くと、ノートパソコンに戻り、画面を見る。

タケルの準備したUSBメモリが認識されて、何かのインストールが始まった。


カンナの鼓動は既に爆音の様で、エアコンの効いたサーバルームの中で額に汗が浮いていた。






タケルのパソコンに広がるのは電脳の戦場。

事務所のパソコンから彼は「仮想通貨投資研究会」のサーバの裏階層に侵入し、ユーザデータを開く。

だが、それは再び黒い画面に赤文字の警告メッセージを表示した。

既にそのサーバは日本の国内にも無く、どうやらグアテマラへと繋がっている様だった。


《UNAUTHORIZED ACCESS DETECTED》


そんなメッセージが画面いっぱいに表示された。

どうやら学生が侵入に気付き、カウンター攻撃を仕掛けていた様だった。

IPアドレスの逆探知、ポート封鎖、ファイアウォールの再構築のメッセージが矢継ぎ早に飛び込んで来る。


「やるじゃねぇか……。流石は天下の上甲大学だな……。しかしこっちも伊達じゃないんだよ……」


タケルは画面に向かってニヤリと笑うと、キーボードを叩く。


仮想マシンを幾重にも展開し、ダミーアドレスを放流した。

そして逆探知を空回りさせると、その裏でその学生横田の自宅回線に侵入した。

画面には横田の銀行口座の残高が浮かび上がった。

タケルはその口座の残高をゼロに見せかけるスクリプトを走らせた。


「お前の金は、今すぐ全部無くなった様に見えるだろう……。横田さんよ」


そして横田同様に、大金を自分の口座に隠している名前を見付けた。

それは川村と柳本と言う名前だった。

タケルはその二人の回線にも侵入して横田と同じ様に口座の残高をゼロに見せかけた。

その裏で「仮想通貨投資研究会」の名簿を開く。

会長が横田、副会長が川村と柳本だった。


「なるほど……。見えて来た……」


タケルはそう呟くと、またガチャガチャとキーボードを叩き始めた。


横田は暴れる様に動き、無意味なパケット攻撃を連発していた。


「相当焦ってるな……」


タケルはモニターの青白いライトに照らされながらニヤリと笑った。


横田の攻撃は逆にその痕跡を残す事になり、警察への通報ルートさえもタケルにさらす結果になる。


電脳空間の炎の渦の中、タケルは勝利を確信した。


「クソガキが……。お勉強が出来るだけじゃ、俺に挑むのは百年早いぜ……」






金曜日の二十二時。

レディースダービーの口火が切って落とされる。


出馬表に並ぶ洋子は端正な顔立ちから人気も高かった。

タケルは膨大なHALTを一気に生成し、洋子にベットした。


「胴元を潰すには勝ちを確定させるのが一番だ」


タケルはニヤリと笑い、モニターをじっと見つめた。






洋子は塾のバイトを終えて、駅前のビルを出た。

そのまま自分の部屋まで歩いて帰っていた。

人気の無い公園の横を通りかかった時、洋子を囲む様に数人の男が現れた。


「な、何ですか……」


洋子は声にならない声を発し、後退る。


すると、そこに一台の車が物凄い勢いで走って来て止まった。


「おいおい、寄ってたかって何やってんだよ。お前ら……」


後部座席のドアが開くなり、大柄の男がそう言った。

そして、その男たちを囲む様にして黒いスーツ姿の男たちが立つ。


「おい、タツ。後は任せたぞ」


大柄の男はそう言うと、洋子と一緒に後部座席に乗り込んで車を発車させた。






その様子も何処かで撮影されていて、タケルの見るモニターには映し出されていた。


「おっさん……。ご苦労さん……」


タケルはそう呟いて、またキーボードをガチャガチャと叩き続ける。


洋子は一番人気と二番人気を抜いて、八分十七秒で帰宅し、一着となった。






翌日、タケルは匿名でレディースダービーの配当金の支払いを横田たちに迫った。

そんな金を支払える筈も無く、横田たちは慌てふためく。

そしてその時に自分の口座も空になっている事に気付いた。


「おい、横田……」


パソコンの画面を見ながら川村が慌てて横田の肩を叩いた。

HALTの金がプールされている海外の口座の残高もゼロになっている事に気付いた。


「何だこれ……」


横田は慌ててキーボードを叩いた。

しかし何度リロードしてもその口座の残高はゼロのままだった。


「白州会に連絡しよう……」


柳本が立ち上がって電話を掛けようとするが、それを横田が止める。


「ダメだ……。もう白州会に支払う金も無い……」


横田はパソコンを置いた机の上を拳で強く叩いた。






翌日の新聞には、


《仮想通貨、HALT破産》


《違法賭博、レディースダービーの実態》


という文字があった。

それを見てタケルは微笑む。

その記事の影に、


《白州会、末端組織、島田組解散》


の記事もあった。


「おっさん、いつも、仕事早いね……」


タケルはそう言うと手鍋のラーメンを啜る。


その時カンナが事務所のドアを開ける。


「おはようございます」


タケルはラーメンを食べながら、カンナを見た。


「昨日はお疲れ様……」


タケルはまだ熱い鍋の縁に唇を付けてスープを飲む。


「また朝からラーメン食べてるんですか……。どれだけラーメン好きなんですか」


カンナは買って来たサンドイッチをテーブルの上に置くとマグカップにアイスコーヒーを注いで、タケルの向かいに座った。

そしてテーブルの上に置いてあった新聞を手に取った。


「何か、また一網打尽って感じでしたね……。洋子も無事だったし。良かった良かった……」


そう言うとサンドイッチを開けて、口に入れた。


「よお、おはよう……」


事務所のドアが開いておっさんが入って来た。


「あ、おはようございます」


カンナは立ち上がり、タケルの横に移った。


「いやあ、今回も見事だったな……」


とおっさんは笑いながら言った。


「金、受取に来たんだけど……」


そう言うと事務所の中を見渡す様に見ている。


「ああ、少し時間が掛かる。準備出来たら、口座に送金するよ。今回は持って帰れる程の額じゃない……」


タケルはそう言うと食べ終えたラーメンの鍋を持ってキッチンへと消えて行った。

そしておっさんの分のコーヒーを淹れて戻って来る。


「しかし、どうやったんだ……」


オッサンはコーヒーを受け取り、足を組んだ。


「ああ、HALTの口座に侵入して、その仮想通貨を別の仮想通貨に換金したんだよ。その換金した仮想通貨を幾つかの仮想通貨に換金して、それを現金化した。その現金はロバートポートマンって言うフランス人のスイスの口座に入れて、そこからこっちへ送金の予定だ。少し手は混んでいるが、そこまでやらねぇと足が付くのは嫌だしな……」


タケルの説明にオッサンはうんうんと頷く。


「で、いくらになる……」


タケルはコーヒーを口にして、天井を見た。


「そうだな……。手数料が少しかかるが、それでもこれくらいかな……」


とタケルは指を三本出した。


「三億か……。なかなかいい稼ぎになったな……」


オッサンはコーヒーを一気に飲み干す。


「馬鹿、三十億だよ」


オッサンは動きを止めてじっとタケルを見つめていた。

タケルはニヤリと笑って、


「クソガキ共、しこたま持ってたよ。まあ、HALTのユーザーの分も含まれているが、そんな事は俺たちの知った事じゃない。あのクソガキ共が何とかするだろう。まあ、出来る額じゃないけどな……」


タケルは背もたれに寄り掛かり、カンナのサンドイッチに手を伸ばした。

そしてそれを口に放り込んだ。


「あ、私のサンドイッチ……」


カンナはコーヒーを飲みながらタケルを睨む。


「ガタガタ言うな……。三十億入るんだ。何でも食わせてやるから……」


タケルはニヤリと笑う。


「で、おっさんの方は……」


おっさんは顔を上げると、膝に肘を突いて身を乗り出して来た。

そしてスーツのポケットからメールを印刷した紙を取り出してテーブルの上に広げた。


「これを見てくれ……」


タケルとカンナはそのテーブルの上の紙を覗き込む。


《BLACK LOTUS》


カンナの背筋に冷たいモノが走る。

カンナはタケルの横顔を見る。

いつになくタケルも真剣な表情でその文字を見つめている。


「もう、白州会との衝突は免れん……。しかし、白州会以上にもっとデカい組織がある様だな……」


おっさんはそう言うとソファに沈む。


「ブラックロータスか……」


タケルは呟く様に言うと、こめかみに指を当てた。


「厄介なモンを敵に回したのかもしれんな……」


タケルの言葉におっさんは何度か頷いた。


二人の真剣な表情を見てカンナも、ただ事ではない事を悟る。

そしてじっとその「ブラックロータス」の文字を見つめた。


次なる敵は、また見ぬ深淵の中にいる……。


カンナはそう思った。


もしかすると私はとんでもない事に巻き込まれているのかもしれない。


カンナは手に持ったサンドイッチを口に放り込んだ。








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