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Canna Suspicion4 - 白州会の秘密 -





カンナはいつもの様に講義が終わると、机の上のパソコンを片付け、バッグに入れる。


「カンナ。お茶でもしない」


と傍に座っていた数人の友達が声を掛ける。


「ごめん。バイトなんだ……」


と言うとバッグを取り、教室を出る。


「最近、カンナ、付き合い悪いね……。男でも出来たのかな」


カンナの友人の一人が言う。


「どうも、本当にバイトらしいよ。亜希が言ってた」


「何のバイトしてるんだろう……」


カンナはそんな噂話をされている事も知らずに階段を駆け下りた。

そして学舎を出るとそのまま地下鉄の駅まで小走りに向かう。

改札でICカードをスキャンすると、入って来た電車に乗るためにまた階段を駆け下りた。


ドアが閉まる瞬間に地下鉄に飛び乗ったカンナは、車内に流れる、


「駆け込み乗車はお止め下さい」


というアナウンスに舌を出して、車窓に映る自分を見て前髪を直した。

初夏になり、少し暑くなってきた事もあり、カンナはエアコンが直接当たる場所へと移動して、服をパタパタと扇ぎ風を入れる。


「あれ……。カンナ」


そんな声がした。

カンナは座席に座る友人の美咲に視線を落とした。


「美咲……。さっきの授業出てた……」


美咲は首を横に振って立ち上がった。


「ちょっと色々あってさ、休学届出して来た」


美咲は目を伏せた。


「休学って、どうしたの……」


「うん……。ちょっとね……」


カンナは美咲の様子を察し、それ以上は聞かなかった。


カンナがJRに乗り換える駅に地下鉄は到着した。


「私、バイトだから行くね……」


と美咲に言い、地下鉄を下りた。

何か言いたそうな表情の美咲の事は気になったが、カンナはエスカレータに乗り、地上に出た。


「美咲、どうしたんだろう……」


カンナはJRの改札を潜り、ホームで電車を待った。

するとメッセージの着信音が鳴り、スマホが震える。

ジーンズのポケットに差したスマホを取り出して開いた。


メッセージはさっき別れたばかりの美咲からだった。


「カンナ……。助けて」






カンナは古い雑居ビルの階段を上がった。

そしてバイト先である喜多川コンサルティングと書かれたドアを開ける。


「おはようございます」


とカンナは言って中に入ると、コンサル事務所の代表であり、元天才詐欺師と聞かされているタケルが難しい表情でソファに座っていた。


「どうしたんですか……」


カンナはタケルの向かいに座り、顔を覗き込んだ。


「ん……。ああ、カンナか」


「カンナか、じゃないですよ……。険しい表情のタケルさんなんて、似合いませんよ」


カンナは立ち上がり、テーブルの上にあったタケルのマグカップを手に取った。


「コーヒー飲みますか」


タケルは短く返事をして、自分の机に戻った。


此処でバイトを初めて三か月程が経つ。

特に仕事らしい仕事をしている訳では無く、コンサルタントとは名ばかりの何でも屋のタケルのサポートをしている。

しかも破格の時給……。

時間を付けている訳では無いので時給でも無いのかもしれないが、この三か月、タケルから毎月三十万円が振り込まれている。


一つ年下で、一緒に暮らしている妹からは、


「お姉ちゃん、愛人契約でもしたの」


と言われたくらいだった。


カンナはタケルと自分のコーヒーを淹れて、タケルの机の上に置いた。


「何かあったんですか……」


タケルはパソコンのキーボードを叩きながら、


「オッサンの所の若い奴が刺されたらしい……。オッサンから誰がやったか調べてくれって依頼が来てな……」


オッサンとはタケルの事務所に出入りしている反社、いわゆるヤクザで、三か月になるが、カンナもオッサンの名前は知らない。

少人数で話をすると、名前を呼ぶ事も無く、何となく今までそれで通して来た。


「刺されたって……」


カンナは手に持ったマグカップをじっと見つめる。


「今朝方らしいが、街で後ろから……。命に別状はないらしいが、入院しているらしい」


カンナはゆっくりと歩きソファにトンと腰を下ろした。


「そんなのわかるんですか」


カンナはカップをテーブルに置いて顔を上げる。


「さあな……。ヤクザ同士の抗争かもしれんし、若い奴が面白半分に刺したのかもしれん。もっと言うと刺された若い奴の女関係かもしれん」


女……。


カンナは小さく頷く。


「まあ、人を刺すってのはそれなりにリスクがある。気合入れた奴かイカれてる奴、痴情の縺れでおかしくなっている奴、後は金で雇われている奴。それくらいしかそんな事はせん」


なんとなく納得出来た。

どれだけ相手を憎んでも、刺してやろうというところまでは行かない気がした。


「オッサンの所と抗争になってもおかしくない組は幾つもある。その中から絞り込むのも一苦労だ。相手が女なら、わかりやすいんだけどな……」


カンナはタケルを見て、


「女が大の男を刺すなんて出来るんですか……」


そう訊いた。タケルは顔を上げて、


「人を刺してみればわかるが、何の感触も無い。豆腐を刺している様な感覚なんだ。その気になれば、簡単に刺せる。その後がリスキーだけどな」


豆腐を刺す……。

確かにそれなら……。


カンナはカップを手に取り、コーヒーを飲んだ。


「あ、それより……」


カンナはスマホを開いてタケルに見せた。


「友達のお兄さんが病気らしくて……」


タケルはカンナの手からスマホを取り、スクロールしながらその内容を読んだ。

そしてカンナにスマホを返した。


美咲の兄が腎臓の病気で、移植するしか助かる方法がないと診断されているらしい。

もう何年もドナーを待っているらしいのだが、先日ドナーが見つかり、高額の費用を払う事になったと言う。

しかもその費用のために美咲は大学を休学する事になったらしい。


「美咲には夢があって、結構真面目に勉強してる子なんですよね……」


タケルは今一度、カンナの手からスマホを取り上げる様に取ると、その画面にあった病院名をパソコンに入力した。


「セントクリスト記念病院」


タケルは病院の名前を読み上げて、エンターキーを押した。


少し東の高台に出来た大きな病院だった。


「綺麗な病院ですね……」


後ろからモニタを覗き込みながらカンナは言う。


「臓器移植に三千万か……。人の命の値段ってのは高いモンだな……」


タケルは椅子の背もたれに寄り掛かり、その画面を見つめる。

そして理事に名前を連ねる男の名前に目を止めた。


「何だ……」


タケルはその名前をコピーして別の画面で検索を掛けた。


「この人がどうかしたんですか……」


カンナはタケルの顔の横に顔を並べる。


「あんまり近付くとキスするぞ」


タケルにそう言われて、カンナは身体を離した。


「進藤栄太郎。この男は反社側の男の筈だ」


「え……」


カンナは無意識にまたタケルの顔の横に顔を並べる。

今度はタケルが顔を離して、机の上のマグカップを手に取った。


カチャカチャと片手でキーボードを叩くと、「白州会、進藤栄太郎」という名前が表示された。


「これは……」


カンナは更に身を乗り出す。


「ああ、県警本部のデータベースだ」


カンナは小さく頷くが、我に返り、


「それってハッキングじゃ……」


とタケルに言った。


「セキュリティが甘い方が悪いんだよ……」


と言うと立ち上がった。


「高額の治療費と言い、進藤が理事って所と言い、何か怪しいな。その病院」


そう言って机の上に置いたスマホを手に取った。


「あ、オッサンか……」


タケルはそう言いながら部屋の中を歩き出した。






その翌日、カンナは三限だけの授業を受けに大学へ行った。

早めに行き、昼食を食堂で食べて、窓際の席でコーヒーを飲んでいた。

代り映えのしない大学の様子。

夏が近くなったので、臍を出した女子大生も増え、そんな様子を見ながら、スマホを手に取る。

メッセージが来ている事に気付き開くと、美咲からのメッセージだった。


どうやら、美咲の父親が親戚中を走り回り、足らずのお金も用意して、今日、病院に支払ったらしい。


「これで私の休学も確定です。しばらく仕事して復学出来る様に頑張るわ」


とメッセージの最後に書いてあった。


カンナの表情は曇り、声を上げてはしゃいでいる学生の姿をじっと見つめる。


勉強したくてもお金の問題で学校に通えない人も居れば、何しに来ているのかわからない人も居る。

タケルに言わせると、人の悩みの九割九部はお金が原因で、お金さえあればその悩みの殆どが解決出来る事らしい。

実際に美咲の悩みもそれで、お金があればそんな悩みは解消出来て、彼女も大学に通えるのだろう。


「治療のために数千万も支払えなんてこの国ではあり得ないんだ」


と昨日タケルが言っていた。


「それを払えってのは違法な医療行為だ。移植出来る臓器をブローカーから買い付けるなんて事をしているんだろうな……」


そんな話もしていたが、これは違法であろうが何であろうが、家族を助けたいと考えるのが当たり前で、「違法だからやめた方が良い」と一概には言えない事だった。

「それでも助かるのであれば」と考える事もあるだろう。


カンナはコーヒーを飲み干して、席を立つと紙コップをゴミ箱に放り込んだ。







「よ、カンナちゃん……」


事務所に入るといつものヤクザのオッサンがソファに座っていて、テーブルの上には一万円札の束が置いてあった。


「いらしてたんですか……」


カンナはバッグをソファの隅に置いて、インスタントコーヒーを淹れる。

この男は甘党でいつも出すコーヒーにも多めの砂糖を入れている。

そしてお湯を注ぐと男の前にカップを置いた。


「いやな、本当に申し訳なかった……」


と男は深々と頭を下げた。


「哲の野郎、女に刺されたって格好悪くて言えなかったらしい。手を煩わせて申し訳ない」


男は顔を上げると目の前に積んだ札束を前に押し出す様に置き直した。


「いらねえよ。そんなモン。俺とオッサンの仲だろうが……」


とタケルは言いながら机からソファへ移動してくる。


「いや、今回は俺のミスだ。若い奴に女に刺されたって言うのが恥ずかしいって思われているってのがな……」


タケルは手に持ったカップのコーヒーを飲むとニヤリと笑った。


「今回は何にもしてない。もらう義理が無い」


とタケルはその金を差し返す様に押した。


「いやいや、何を言ってるんだよ。それじゃ俺の筋が通らねえ」


と男が今度は押し返す。


それを見てカンナはクスクスと笑った。


「義理とか筋とか、面白いですね」


カンナは声を上げて笑う。

すると男から笑顔が消えた。


「カンナちゃん」


男はカンナの方を向いた。


「俺たちから義理を取るとルールってモンが一切無くなってしまうんだ。そうなるとヤクザはやりたい放題だ。堅気さんにも迷惑を掛ける奴が沢山現れる」


静かにそう言った。


カンナも畏まり、膝の上に手を置いて頭を下げた。


「すみません。何もわからないのに、変な事を言って……」


カンナはそう言う。

それを見て男は声を上げて笑った。

そしてタケルも同じ様に笑う。


「悪い悪い。先週見た古い映画の台詞だ。ちょっと言ってみたかったんだよ」


と男は言うとマグカップを手に取って一気に飲み干した。


「じゃあ、帰るわ。それ、受け取ってくれよ。非課税だから」


男はそう言うと立ち上がった。


するとそこにカンナのスマホが鳴った。

カンナは立ち上がり事務所の隅に移動した。

電話は美咲からだった。


「カンナ、お兄ちゃんが居なくなったの」


美咲は叫ぶ様に言った。


カンナの様子を見て、タケルと男はただ事ではない事を感じていた。







「金を払った瞬間に、患者が失踪か……。怪しいな」


男は身を乗り出す。


「ああ、しかも違法な移植手術だ。それに……」


「何だ……」


タケルも身を乗り出した。


「あの病院には白州会が絡んでいる」


その言葉に男は目を伏せた。


「白州会か……」


男は立ち上がった。


「俺の方でも調べてみる。何かわかったら連絡する」


そう言うと事務所を出て行った。


「どう言う事なんですか……」


カンナはソファに座り直した。


タケルはコーヒーカップをテーブルに置いて足を組んだ。


「白州会は臓器売買で荒稼ぎしているんだろう。勿論、この国では違法だ。それに、お前の友達の兄貴……。臓器を提供される方では無く、提供する方なのかもしれないな」


カンナは顔を上げて、じっとタケルを見た。


「それが臓器ブローカーの実態だ」


タケルは立ち上がってパソコンの前に座った。

そしてモニタにカンナには理解出来ない入力を始める。

それは数十分続き、その間、黙ってカンナはその様子を後ろで見ていた。


「なるほど……。見えて来た」


タケルはモニタに白州会の帳簿を表示する。


「これって……」


カンナはタケルの顔の横に顔をまた並べる。


「病院の方の帳簿は上手く細工されていたが、最近のヤクザは律儀だね……。ちゃんとセントクリスト病院からの入金を記録に残している。ヤクザの方が真面目にやってるってのもな……」


タケルはそう言って笑った。


「後はオッサンに動いてもらうか……」


タケルはそう言うとスマホを手に取った。






タケルの電話の後、オッサンと呼ばれる男が直ぐにやって来た。


「タケル……。仕事早いね」


そう言いながら事務所に入って来るなり、ソファにドカッと座った。

カンナは男のためにまた甘いコーヒーを淹れ、テーブルの上に置いた。


「セントクリスト病院から白州会へ相当な金が動いている。多分、病院の方の帳簿の「HS企画」と書かれているのが白州会だろうと思うが、少し変だ……」


タケルは印刷した帳簿をテーブルの上に置いた。


「此処で病院から二千万振り込まれているのだが、白州会の方へは一千万しか入っていない。間違いなく、HS企画という口座が間にあって、そこで誰かが中抜きしている」


カンナにもその意味はわかった。

白州会、もしくはセントクリスト病院の誰かが、差額の一千万円を着服しているという事だった。


「おそらく進藤、もしくはその側近だろうな。進藤も今じゃ一端に若頭名乗ってやがる。鼻水垂らしたガキだったのによ……」


タケルは鼻で笑い、印刷した資料を指先でトントンと叩きながら、


「後は任せたよ。俺はコイツの友達の兄貴が監禁されている場所を探す。見付けたらそっちも頼む」


男はニヤリと笑った。


「任せとけ……」


男はそう言うとカンナが淹れたばかりの熱いコーヒーを一気に飲み干した。


タケルはそれを見ると立ち上がり、また机に戻りキーボードを叩き始める。


男は事務所から出て行こうとして足を止めた。

そして、


「あ、カンナちゃん……」


とカンナに声を掛けた。


「はい」


とカンナが振り返ると、


「そろそろアイスコーヒーが良い季節になって来た」


そう言うと笑って事務所を出て行った。


カンナはその男を見てクスリと笑った。






タケルはセントクリスト病院の防犯カメラをハッキングして、連れ去られる美咲の兄の姿を追った。

病室に入って来る二人の白衣の男。

クロロフォルムを嗅がされ、車椅子に乗せられる。

そのまま救急用の入口から出て、黒いボックスカーに乗せられた。

その車のナンバーをスキャンして、今度は警察のNシステムのデータベースへと侵入した。


「これもハッキングですか……」


カンナはタケルの後ろから訊く。


「ああ、昔はアナログでな、写真しか残ってなかったんだが、技術が進歩して、こうやって調べ易くなった。技術の進歩も良し悪しって事だな……」


タケルはエンターキーを押した。

すると、その黒のボックスカーが通った道に赤い点が現れる。


「ほらな、答えはITが教えてくれる。監視社会って奴だ」


カンナはじっとそのモニタを見つめた。


「この最後の点の周辺に友達の兄貴は監禁されてるんだろうよ……。だから、この周辺の白州会、またはその下部組織の持っている建物を調べると……」


タケルはエンターキーを押した。

すると一つの雑居ビルが赤く光った。


「ビンゴだ……」


タケルはスマホを手にして電話をかけた。






その日の夜。タケルがオッサンと呼ぶ男が紙袋を持ってやって来た。


「よお、タケル……。全部終わったぞ」


タケルの情報であっと言う間に片付けてしまう男もかなり有能なのだろうとカンナは感心した。


男は両手に持った紙袋をテーブルの上に置くと、ソファに座った。


「あのビルには二十名程の臓器提供者が監禁されていたよ」


オッサンはタバコを出して一本咥えた。

カンナはテーブルの下に置いた硝子の灰皿を出して、男の前に置いた。


「カンナちゃんの友達の兄貴、祐樹だったかな、そいつだけ助けて、後は置いてきた」


「え……」


カンナは男の横に座り、腕を掴んだ。


「皆、助けたんじゃないんですか……」


男はゆっくりとカンナを見る。

そしてニヤリと笑った。


「俺が依頼を受けたのはカンナちゃんの友達の兄貴を助ける事だけだ。それ以上は知らねえよ」


カンナは複雑な心境でタケルを見る。

タケルは溜息を吐いて、


「俺も同じだ。お前の友達の兄貴さえ助ければこの問題は解決だろう……」


「そんな……。じゃあ、他の人は……」


「まあ、内臓売られて殺されちまうのかな……」


男はそう言うとソファに寄り掛かる。


何とも後味の悪い話だった。


「だけど、そんな奴はいずれ天罰が下るさ。俺たちがどうこうする話じゃない」


カンナはゴクリと生唾を飲む。


「何か酷い話ですね……。殺されるかもしれない人達が目の前に居るのに、それを助けないだなんて」


カンナは視線を足元に落とした。


「まあ、俺たちも金儲けなんでね。金にならない奴らの事までは面倒見切れないさ」


男はまだ長いタバコを灰皿で折った。


「おっと、これがタケルの取り分だ。白州会から三億、病院から三億。折半して三億」


男は紙袋をタケルの前に押しやった。


カンナにはそんな会話も聞こえていない様子で、目に涙を溜めてじっと下を向いている。


「じゃあ、俺は帰るわ……。若い奴らに焼肉でも食わせないとな」


そう言うと男は立ち上がった。

そしてカンナの肩を強く叩いた。


「カンナちゃん……。俺たちの世界に答えは無い。その時、その時で何が一番の最適解であるかを見極める必要があるんだ。今回の事も大事にして警察に引き渡す事も出来る。しかし、それじゃ金にならん」


男はニヤリと笑って、事務所の入口へと歩いた。


「まあ、金を受け取ったら後は知ったこっちゃないけどな」


男はそう言うと出て行った。


タケルは紙袋を取ると、テーブルの上に、三千万円の一万円札の束を置いた。


「これがお前の友達に渡す金だ……。これで大学も続ける事は出来るだろう」


カンナはゆっくりと顔を上げて、その札束をじっと見た。


「だけど、これと臓器移植は別だ。合法でドナーを待つか、また違法ブローカーに頼むか……。そこは一から考えなきゃいけない」


カンナはコクリと頷く。


「それでも、内臓売られて殺されるよりはかなりマシだ。それが今回の正解だと思え……」


タケルは紙袋を持って立ち上がると部屋の奥にある金庫の前に持って行った。


「今回は何とかなったが、実際には三千万で移植手術が出来るのであれば安いモンだ。海外へ行くとそれが合法の国もある」


タケルは金庫のロックを開けてその中に金を入れながら言う。


「まあ、白州会のやり方は汚いが、ちゃんとそれをビジネスとしてやっているのであれば、一概に責める事も出来ない筈だ。それで助かる命もあるんだからな」


タケルは重い金庫のドアを閉めて立ち上がった。

そして空になった紙袋を持って来ると、テーブルの上に積まれた三千万円をその袋に入れた。


カンナはゆっくりと頷いてタケルの顔を見た。

タケルはカンナの視線に気付き、


「何だ……」


と言った。

カンナは大きく息を吐いて、


「わかりません。わかりませんけど、理解しました。誰かの幸せは他の誰かの不幸の上に成り立っている事もあるって事ですね」


そう言った。

タケルはその言葉に小さく頷く。


「そう言う事なのかもしれん。そしてそれを知ってて、利用して金儲けをしている奴らが沢山いるという事も事実だ。だけどな……」


タケルはカンナの向かいに座る。


「その事実を積み上げて行く事が真実に繋がるとは俺も考えてない……。真実ってのはまったく別の所にあるのかもしれない」


タケルは微笑み、そして、


「俺たちも焼肉でも食いに行くか」


と言って立ち上がった。








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