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Canna Suspicion3 - 夏合宿の罠 -






「お願い、カンナ、一緒に来て」


カンナは友人の舞香に手を合わせられた。


「そんな拝まれても無理」


カンナはキャンパスの中をカツカツと踵を鳴らしながら歩く。


「そんな事言わないで、頼む。一生のお願い」


「舞香は一生のお願いが多すぎるのよ。あ、思い出した、先週貸した五百円、返してよね」


舞香は慌てて財布を出すと五百円玉をカンナに渡す。


「五百円は返すからさ、お願い、一緒に来てよ。今日のセミナー出ないと夏合宿行けないのよ」


カンナは呆れた顔をして、


「大体、夏合宿行くためにこの時期からセミナーまで行かなきゃいけないサークルって何なのよ……。そんな怪しいサークル行かないわよ」


カンナは舞香を振り切ってまた歩き始める。

舞香も諦めたのか、キャンパスの中にあるパティオの中心に立ち、大声で、


「カンナの馬鹿」


と叫んだ。

その声で、パティオに居た学生が一斉にカンナの方を見た。

それでも舞香は何度も叫び続ける。

カンナは慌てて舞香に駆け寄り、


「わかった、わかったから」


と宥めた。


「一緒に行ってくれるの」


と舞香は目を輝かせた。


「とにかく、もう恥ずかしい事は止めて」


カンナはそう言って、舞香を連れてキャンパスを出た。


「で、何処の大学って……」


正門までの石畳を歩きながら、舞香に訊いた。


「天上院大学のソフトテニスサークル」


天上院大学と言えば、金持ちのご子息とお嬢様が通う大学で、カンナたちの大学から少し東に行ったところにある。

そんな金持ちしか居ない大学であるため、勿論交流はない。


「天上院ってね……。アンタ惨めになるだけよ」


「良いの、私は玉の輿を狙ってるんだから。カンナも欲しいでしょ、お金持ちの彼氏」


カンナは溜息を吐いて、舞香の顔を覗き込む様に見る。


「あのね、舞香。うちの大学の学食の定食、いくら」


「A定食が四百八十円。B定食が五百円かな」


舞香は空を見上げながら言う。


「天上院の定食は千八百円だってよ。私たちの四日分のお昼を一食で食べる人達なのよ。そこでどうやって対等に扱ってもらえるのよ」


舞香はニコニコと笑いながらバッグから学生証を出してくる。


「ジャーン」


その学生証は、菅原学園女子大のモノだった。


「何これ」


舞香が持っていた学生証を引っ手繰る様に取ると、それをマジマジと見つめる。

菅原学園女子大学も名門の女子大で、名家と呼ばれる家柄のお嬢様しか入れないと噂されている大学だった。


「偽造したの……」


「こういうの、上手い子に作ってもらったの」


舞香はそう言ってカンナの手から学生証を引っ手繰る。


「あんたね」


カンナは呆れて腕を組んだ。


「直ぐにバレるよ」


「良いのよ。そんなのきっかけでしかないんだから」


前を歩く舞香は振り返ってそう言った。


「春からサークル入って、夏合宿に参加して、そこで既成事実を作る。これで玉の輿って訳よ」


「そんな簡単に行く訳ないでしょ。向こうはお金持ちなのよ。何でもお金で解決しちゃうんだから」


カンナは呆れて溜息を吐く。


「もう良いわよ、カンナには頼まないよ。スズカでも誘うわよ」


舞香はカンナに舌を出して電話を掛けながら駅へと歩いて行った。


それ以上、カンナも舞香を追いかけるのを止めた。







「ああ、それで十分だ。ああ、それで良い。頼んだぞ」


タケルはそう言って電話を切った。

電話が終わるまで事務所の入口でカンナは黙って立っていた。


「何だ、カンナか……何やってんだ、そんなところで」


タケルはコーヒーカップを手にキッチンスペースへと向かいながら言う。


「タケルさんの電話が終わるの待ってたんじゃないですか」


そう言ってソファに座った。


「疚しい電話なんてしてないよ。コーヒー飲むか。今なら淹れてやるぞ」


「あ、戴きます」


カンナは上着を脱いでソファに掛けた。


「タケルさん、ご飯食べましたか」


タケルはそう言われて天井を見つめる。


「食ってないな」


そう言うとカンナにカップを渡した。

カンナはそれを受け取ると、トートバッグの中からパンを出した。


「うちの学食のパンですけど、食べます」


とタケルに差し出した。

タケルはそれを受け取り、じっと見つめる。


「学食のパンか……」


タケルは無造作にビニール袋からパンを出すとかぶり付いた。


「美味くも不味くもないパンだな」


カンナはそのタケルの表現は正しいと思った。

確かに美味くも不味くもない。

そんなパンを当たり前の様に学生たちは食べている。


「このパン、幾らするんだ」


タケルはコーヒーを飲む。


「えっと、確か百六十円かな……」


タケルは呆れた顔で机に戻った。


「カンナ……。金は良い使い方しろよ……」


タケルはそう言うと残ったパンを口に放り込んだ。







「夏合宿……。何だ、大学生って夏の話をもうしてるのか。忙しいんだな」


タケルはインスタントコーヒーの粉をカップに入れながら言う。

カンナはそれに頷いて、


「そうなんですよ。そのセミナーを受けないと夏合宿には参加できないらしくて……」


そう言う。


「セミナーね……。そう言うの好きだねぇ……。学生と悪い事する奴らは」


カンナはコーヒーカップをテーブルの上に置いて、


「悪い事する奴ら……」


と呟く。

タケルはカンナの横に座り、


「ああ、いわゆる詐欺師なんかもセミナー、セミナーって人と集めては色んなモノを買わせる。人集めイコール金集めなんだよ」


カンナは小さく頷く。


「最近は学生もそんな感じで金集めやってるって聞くからな……。クソガキ共には罪の意識も無く、やる奴も多い。その分性質も悪いな」


「でも天上院大学ですよ。お金持ちが集まる大学なんで、お金集めるなんて……」


タケルもカップをテーブルに置いた。


「金持ちに群がる奴らもその大学に居るって事だ。お前の友達みたいにな……」


カンナは少し舞香の事が心配になり、傍に置いたスマホを手にした。


「まあ、学生のやる事だ。そんなにデカい金が動いているとは思わんが……」


タケルはそう言うとソファから立ち上がり、机へと移動した。

そしてパソコンのキーボードをカチャカチャと叩いた。


「まあ、大学生ってのはもう大人なんだから、自己責任だよ。お前がどうこう言ってやる事も無い。怪しいと思ったら帰って来るだろう。その舞子ちゃんも」


「舞香です」


カンナはスマホを握ったまま訂正した。


「ああ、舞香ちゃんね」


タケルはカップを手に持ってコーヒーを一口飲んだ。






翌日、カンナは昼前に大学へ行く。

パティオにあるベンチに舞香が肩を落として座っているのが見えた。


「舞香」


カンナは舞香の座るベンチの横に座った。


「どうしたの、暗い顔して……」


舞香はゆっくりと顔を上げてカンナを見た。

そして力なく微笑むと立ち上がった。


「何でもないよ……。私、体調悪いから、今日は帰るわ」


そう言うと舞香はコリドーを歩いて行く。


「授業、大丈夫なの」


カンナは舞香の背中に声を掛けたが、振り返りもせずに舞香は歩いて行ってしまった。


「もう、舞香……」


カンナも立ち上がって、じっと舞香の後ろ姿を見つめていた。

肩を落とす舞香の後ろ姿を見て、カンナは昨日のタケルの話を思い出していた。


その時、カンナのスマホが鳴る。

バッグからスマホを出すと画面には「タケルさん」と表示されていた。


「はい、カンナです」


カンナは電話に出た。


「カンナ、色々とわかったぞ。学校終わったらすぐに来い」


タケルはそれだけ言うと電話を切った。


何よ……。

何かヤバいのかな……。


カンナは教室にも行かず、そのまま大学を出た。







「タケルさん」


カンナは勢いよく事務所のドアを開けた。


「何だ、早かったな……」


タケルは机でじっとモニタを見つめたまま言った。


「大丈夫なのか、単位落とすなよ」


「トルストイの小説を先生が朗読するだけの授業なんで良いんですよ」


タケルはその言葉を聞いて鼻で笑った。


「そんな修行みたいな授業もあるのか。眠い授業だな……」


「そうなんですよ……。トルストイに思い入れも無いですしね」


カンナはタケルの傍に立つ。


「で、何がわかったんですか」


タケルはカチャカチャとキーボードを叩くと、モニタをカンナに見せる。


「多分、お前の友達が引っ掛かったサークルってのはこれだ」


モニタには「TSS」と書かれたホームページが表示されていた。


「TSS……」


「何の略かは知らんが、そんな名前で活動してるみたいだ」


そして次のページを開く。


「問題はこの代表者だ」


表示された代表者「高槻晋也」の名前をタケルは指差した。


「高槻晋也……」


タケルは別の画面を開く。


「この高槻晋也は、高槻開発という会社の御曹司だ」


「高槻開発……」


カンナはタケルの後ろからそのモニタの表示をじっと見つめる。


「ちゃんと御曹司なんですね」


タケルは後ろのカンナを振り返ると、ニヤリと笑う。


「それがそうでもない……」


そう言ってまたカチャカチャとキーボードを打った。

するとモニタには、「株式会社ビッグウェイブ企画が倒産」という文字が表示される。


「このビッグウェイブ企画は高槻開発の子会社で、資金源でもある。それが倒産したという事は、少なからず本体も打撃を受けている」


カンナは小さく頷いた。


「既に天上院大学に通える様な御身分ではない筈だ」


カンナは顔を上げて、少し考えた。


「高槻晋也には別の資金源があると……」


タケルはうんうんと頷いた。


「それがそのTSSだと……」


タケルはコーヒーをまた一口飲んで、


「あくまで可能性の問題だがな……」


と言った。






カンナはけたたましく音を発するスマホを手探りで探すと、それを取り耳に当てた。


「はい……」


完全に頭は眠っている状態のカンナ。

電話には出たが、相手は無言だった。


「もしもし……」


「カンナ……」


蚊の鳴く様な声が電話の向こうから聞こえた。


「私、舞香……」


「舞香……」


カンナは重い瞼を持ち上げながら、ベッドで身体を起こした。

そして壁の時計を見た。

まだ朝の七時だった。


「ごめん、寝てたよね……」


「あ、ううん。もう起きなきゃ」


カンナはベッドから足を下ろした。


「どうしたの……」


すると、電話の向こうから舞香のすすり泣く声が聞こえた。

その様子にカンナは目を覚ます。


「何、舞香……。どうしたの」


何度聞いても舞香は泣いているだけだった。


「カンナ……。私、私……」


カンナはパジャマ代わりのジャージを脱ぎ、片手で器用にジーンズを穿いた。


「今、何処……」


カンナは舞香の居る場所を聞いて、


「わかった、すぐ行くから、そこに居て」


と言うと電話を切り、服を着た。


「お姉ちゃん。朝からうるさいわね……」


と妹の一葉が下着姿で部屋のドアを開けた。


「何、あんたまたそんな格好で」


カンナは一葉の横をすり抜ける様にして洗面台の前に立つ。


「いつまで寝てるのよ。講義ないの」


「ああ、今日はオンラインだから、もう少し寝れる」


そう言って欠伸をした。


「単位落とさないでよ。お父さんに怒られるの私だからね」


カンナは歯ブラシに歯磨き粉を付けながら言う。


「わかってるって……。おやすみなさい」


そう言うと一葉は部屋へ戻って行った。


カンナは自転車に乗ってマンションから走り出る。

緩やかな坂だが、カンナの自転車はスピードを上げて大通りへ出た。






舞香と待ち合わせた早朝からやっているチェーン店の喫茶店の前にカンナは自転車を止めた。

そして鍵を掛けると店の中に入って行く。

奥の席で舞香が項垂れて座っているのが見えた。

カンナは無言のまま舞香の前に立った。


「カンナ……」


顔を上げると、電話と同じで蚊の鳴く様な声で舞香は力なく微笑んだ。


「舞香……。どうしたの。何があったの」


カンナは舞香の向かいに座り、身を乗り出して小声で舞香に訊いた。


「もう私……」


舞香はそこまで言うと、テーブルに顔を伏せて泣き始めた。






カンナは舞香を連れてタケルの事務所に来た。

タケルには先に電話をしておいた事もあり、ソファに座って待っていた様だった。


天上院大学のTSSと言うサークル。

どうやらタケルが考えていた様に女子大生を食い物にして荒稼ぎしている集団だった様だ。


サークルに入会するのに二十万円。

月の活動費として三万円。

それにセミナーへの参加費、合宿の積み立て金、他学との交流費、そして一番怪しいのがカリスマ講師へのお礼等、舞香は一気に百万近い金額を請求された様だった。

そして払えないとなると、それを稼ぐためと称してキャバクラでのバイト、更にはアダルトビデオへの出演、風俗店でのバイト等を斡旋された様で、舞香も歓迎会と言われ酒を飲まされて前後不覚になったところをビデオに撮られ、それをネタに既に抜け出せない状況になっていた様で、もう金を準備するしかない様子だった。


カンナに話を聞いてもらい少し元気を取り戻した舞香は、さっきの喫茶店でテイクアウトしたバインミーを食べながら、


「玉の輿って高く付くのね……」


と言った。


「舞子ちゃんだったかな……」


「舞香です」


カンナが空かさず返す。


「ああ、舞香ちゃん……。思い出したくないだろうが、その天上院大学の学生以外に誰か居たか……」


舞香は食べ掛けのバインミーを包み紙の上に置くと、コーヒーを飲んで少し考えた。


「明らかに学生じゃない風貌の人は……、カリスマ講師って言われる人、それからよく覚えてないんだけど、ビデオ撮ってた人は見るからにヤクザに見える人……」


カンナはその言葉にタケルを見る。


「飲まされた店は……」


舞香は少し考える。


「東町の……、ラプラスってお店」


タケルは視線を落として考えた。

そして立ち上がると机に座り、キーボードを叩いた。


「なるほど……。見えて来た」


そう呟くと更にキーボードを叩いた。







「タケル」


といつもの様に男が入って来た。

男の姿を見て、舞香は慌ててカンナの横に移動し震え出す。


「おいおい、お姉ちゃん。俺を見てそんなに怖がるなんて心外だな……。俺は優しいんだぜ」


と男は言う。


「オッサン、東町のラプラスって店知ってるか」


タケルはそう訊くと、男の横に座った。


「ラプラス……。ああ、丸山組がやっている店だな。何だ、丸山となんかあるのか」


タケルは無言で頷く。


そしてタケルは震える舞香を見ながら言葉を選び、男に事情を説明した。


「なるほど……。それは災難だったな。ってかカンナちゃんの周囲には不幸な子が多いな」


そう言うと声を上げて笑った。


「笑い事じゃないですよ。私の周りってのも止めて下さいよ。私が不幸を呼び込んでるみたいじゃないですか」


カンナはいつも通りの甘いコーヒーを淹れて男の前に置いた。


「ああ、すまんすまん」


男はタケルの方を向いて、


「要はクソガキの資金源どころか、それが丸山組の資金源になっているって事だな……」


タケルは小さく何度か頷いた。


「クソガキ同士がやる事なんて興味無いけどよ、そんな事に大の大人が絡むなんて世も末だな……」


また男は声を上げて笑った。


「まあ、丸山はチンケな組でよ。無修正のビデオ作って稼ぐくらいしか能のない奴らだ。こんな事までやってやがったのか……」


男はそう言うと舞香をじっと見た。


「なあ、お姉ちゃん。酒、そんなに弱いのか……」


舞香は少し考えて、首を横に振る。


「あんなに前後不覚になったのは初めてです……」


と答える。


「クスリ盛られたんだな……」


男はそう言うとコーヒーカップを手に持って、一気に飲み干した。


「またクスリ……」


カンナは呟く様に言う。


「クスリってのは、街中に蔓延している。使えば無くなる事もあってな、資金源としては扱いやすいんだよ。まあ、薬にも色々あるが、今はその薬も学生を中心に広がっているんだ」


タケルは背もたれに寄り掛かったままそう言う。


「お姉ちゃん、ちょっと腕見せてくれるか……」


と男は立ち上がり舞香の服を捲った。


「ないな……。太ももか……」


そう言うと男は舞香のスカートに手を伸ばす。

その手をカンナはパチンと叩いた。


「何するんですか」


じっとカンナは男を睨んだ。

それを見てタケルはクスクスと笑った。


「カンナ、向こうで見て来い。舞子ちゃんに」


「舞香です」


「舞香です」


とカンナと舞香は二人で声を合わせてそう言った。

タケルは咳払いを一度して、


「舞香ちゃんに薬が使われてたら、注射痕がある筈だ」


カンナは頷いて、舞香の手を引いてキッチンスペースへと連れて行った。


男は立ち上がって、キッチンスペースを覗き込もうとしたが、タケルに引っ張られ大人しくソファに座った。


カンナは舞香の前にしゃがみ込み、舞香に頷くとスカートを捲った。

そこには赤くなった小さな注射痕があった。


「あり……ました」


カンナはそう言った。


「それ、写真だけ撮っておいてくれ」


タケルはそう言ってコーヒーを飲んだ。


男は立ち上がると、タケルの肩を叩く。


「後は任せろ……」


そう言うとカンナに微笑んで、


「コーヒー美味かったよ」


と言って事務所を出て行った。


「私たちはどうすれば……」


カンナと舞香はタケルの向かいに座る。


「俺たちの仕事は此処までだ。後はオッサンたちがやってくれるさ」


タケルはそう言うとコーヒーを飲み干した。

 





翌日、天上院大学の木に全裸で吊るされた数人の学生がいた事が報道された。

その学生たちはクスリの常習者で、発見された時も前後不覚の状態だったらしい。


そして東町のラプラスという店に警察が調査に入り、大量の薬物が発見された事。

丸山組の事務所が不審火で燃えた事等がニュースで流れた。







「相変わらず、仕事が早いね……。オッサン」


とタケルはモニタを見ながら呟く。


「タケルさん」


とカンナが事務所に飛び込んで来る。


「おう、カンナ……。お前、学校行かなくて良いのか」


「今日は休講です」


タケルはうんうんと頷くとまたモニタに視線をやった。

その後ろからカンナが覗き込む様に見た。


「恐いですね……」


タケルは椅子の背もたれに寄り掛かり、


「ああ、学生は怖いな……」


「学生じゃなくて、ヤクザですよ、ヤクザ」


タケルはそれを聞いて鼻で笑った。


「ヤクザなんて付き合い方だけだ。学生ってのは頭悪い分、見境が無い。下手すりゃ簡単に人も殺すだろうな……」


カンナはじっとモニタを見つめたまま頷いた。


その時、事務所のドアが開いた。


「おう、タケル」


と男が入って来た。


「まあまあな収穫だったぞ」


といつもの様に紙袋をテーブルの上に置いた。


「お前の取り分がざっと一億だな……」


カンナも既に一億という金額を聞いても驚かない様になってしまった。


タケルは立ち上がってソファに座ると男も向かいに座った。


「今回、誰か死んだか……」


男はニヤリと笑うと、


「まあ、筋は通させてもらったからな。だけど、絶対に見つからんさ」


男はタケルにだけ聞こえる様に小声で言った。


「カンナちゃん。コーヒーくれ」


カンナは返事をしてキッチンスペースで男のコーヒーを淹れた。


「ビデオの回収は……」


タケルは足を組む。


「ああ、それも完璧だ。勿論、あの子の映像だけは消去しておいた。俺は見たけどな」


そう言って声を上げて笑った。


「しかし、クソガキ共もやる事がえげつなくなって来たねぇ。これじゃリトルヤクザだ」


カンナはコーヒーを男の前に置く。


「ヤクザの資金源に利用している大人が居るんだ。金さえ渡していれば何でもする学生は扱いやすいんだろうよ」


タケルの前にもコーヒーが置かれた。


タケルは、紙袋の中に手を入れて、カンナに三百万を差し出す。


「カンナ、この金を舞……、舞……」


「舞香です」


「舞香だ」


今度はカンナと男が声を揃えて言った。


タケルはわかったと言わんばかりに手に持った札束を振る。


「その舞香ちゃんに渡しておいてくれ」


カンナはその金を受け取ると、小さく頷いた。


「わかりました」


「ちゃんと病院は行ったのか」


男はカンナに言う。


「ええ、私が連れて行きましたので……」


とカンナは微笑む。


「ちゃんとしたモグリの医者に連れて行ったから、問題はない」


タケルが言うと、男は、


「ちゃんとしたモグリね……」


そう言って笑った。

そして熱いコーヒーを一気に飲み干して、立ち上がった。


「カンナちゃんありがとう。今日もコーヒー美味かったよ」


と言って事務所を出て行った。


「熱くないんですかね……」


カンナの言葉にタケルは微笑んだ。








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