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Canna Suspicion - カンナ サスピション -






「寒っ……」


カンナは地下鉄の階段を上りながら徐々に大気の冷えを感じ身体を震わせる。


「今日は暖かいって言ってたのにな」


年末に買ったお気に入りのブーツを鳴らしながら階段を上がって行く。

地上に出ると、今にも降り出しそうな低い雨雲が街の明かりを吸収するかの様に広がっていた。


「え、雨……。雪かな……」


カンナはコツコツと踵を鳴らしながら、JRの駅へと歩く。


「お姉さん、ちょっと話聞いてもらえないかな」


とキャバクラのスカウトの男が声を掛けて来た。

この男は先週も声を掛けて来たのだが、向こうはもう忘れている様だ。

カンナは溜息を吐くと、


「ああ、すみません。間に合ってますので」


と軽く躱し、人混みの中を歩く。


「良いの、お金欲しいでしょ。そんな顔してるよ」


と負け惜しみの様に大声で男は言っている。


お金は欲しいわよ。


男の言葉に少し苛立ちながらカンナは横断歩道を渡った。

渡り切ったところでカンナの額に雨粒が当たった。


「降って来たじゃん……」


そう呟くと足早に駅へと急ぐ。

そして高架下へと飛び込み、濡れた肩をハンカチで拭いた。


「こんなに寒いのに雨か……」


そう宛ての無い文句を言いながら、バッグからスマホを出し、一緒に暮らす妹の一葉に電話をかけた。


「あ、一葉、悪いけど洗濯物取り込んどいて、雨降って来たから」


一葉は寝ていたのか、しゃがれた声で返事をした。

それだけ言うと電話を切り、バッグにスマホを戻した。


「お姉さん」


カンナの後ろからまたそんな声がした。

少し歓楽街からは離れているがそれでもキャバクラのスカウトがいる事に少し苛立ちながらカンナは立ち止まり振り返った。


「何ですか、そりゃお金無さそうな顔してるかもしれませんけど、キャバクラでは働きませんからね」


カンナはそこに立つ男に声を荒げて言った。


男はカンナの声に驚きながら、困惑していた。


「ああ、違うんだ……。俺はこれをあんたに渡せって頼まれただけなんだ」


男はそう言うとカンナに押し付ける様に紙袋を渡し、そのまま走る様に去って行った。


「え、何……」


人違いだと言う前に男の姿は見えなくなった。


何なのよ……。


カンナはその紙袋を開くと、そこには一万円札の束が三つと何かが書かれたメモが入っていた。


何よ……、これ。


カンナはそのメモを手に取り開くとカンナが今いる場所から少し先の場所までの地図が書かれていた。


何、ここに行けばあの人の知り合いがいる訳……。


そして再び紙袋の中を覗き込む。

間違いなく現金が三百万円入っていた。


警察に届ける方が良いのかな……。


カンナは紙袋の口を丸める様に折ると、地図に書かれた場所へと歩き出す。


此処に居る人に渡してとっとと帰ろう。


高架下を出ると雨脚はさっきより強くなっていて、地図に書かれた場所まで小走りに急ぐ。


もう、最悪。

結局濡れるんじゃん……。


カンナは手に持ったメモを丸めてポケットに入れ、地図に書かれたシャッターの閉まった店の軒下に走り込む。

そしてまたハンカチを出すと濡れた肩と額を拭いた。


すると、サラリーマン風の男がカンナと同じ様に軒下に走り込んで来た。

そしてカンナが持っている紙袋と同じ紙袋を差し出した。

カンナはそれを受け取ると、カンナの持っていた紙袋を引っ手繰る様にして男は雨の中に走り出した。


「ちょ、ちょっと……」


カンナは男にそう言ったが、男は立ち止まる事も無く、人混みの中に消えて行った。


「何なのよ……」


カンナは渡された紙袋を開き、目を丸くした。






タケルは少し離れたディスカウントスーパーでインスタントラーメンを買い込んで、ベスパを走らせていた。

降り出した雨で視界が悪かったが、何とか走れる程の雨だった。


「寒みぃな……」


そう独り言を言いながらアクセルを吹かす。


そして古い雑居ビルの駐輪場に滑り込む様にベスパを止める。


「寒いな……。さっさとディナー食わないとな……」


そう呟きながら、キーを抜くと、その雑居ビルの入口に駆け込む。

そして、無作為にチラシの類が押し込まれたポストを開け、溢れ出るゴミを傍にあるゴミ箱に放り込んだ。


「誰か札束でも放り込んでくれないかね……」


そう言いながら届いた郵便物を見た。

ふと顔を上げると雨の中を傘も差さずに歩く女が見えた。

その表情は呆然として青白かった。


タケルは、その表情に首を傾げ表に出る。

そしてその女の背中に声を掛けた。


「おい、風邪ひくぞ……」


タケルの声に女は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。


「あ、心配するな。キャバクラのスカウトじゃないよ」


女はタケルを見たが、またゆっくりと歩き始めた。


何だ……。


タケルは溜息を吐くと、その女を追いかけて、肩を掴んだ。


「何ですか……」


女は振り返りタケルに言う。


「ああ、いや……。怪しいと思うだろうけど、そんなに怪しいモンじゃない。まあ、怪しく映るかもしれんが……」


タケルはそう言うと、また息を吐く。


「とにかくタオルと傘貸すから、一緒に来い」


そう言うと力なく歩く女を連れて雑居ビルに入った。

古いエレベータのボタンを押すと、女を押し込んで、三階のボタンを押した。


「この寒いのにこんなに濡れて……。家出少女か」


タケルがそう言って女の顔を見ると、女がじっとタケルの顔を見る。


「って訳じゃ無さそうだな……。安心しろ、行きずりの女に手出す程、女には困っちゃいないよ」


エレベータは三階に着きドアが開く。

タケルは女の背中を押して、エレベータから降ろすと事務所のドアの鍵を開けた。


「ほら、入りな。タオル持って来るから」


タケルは女に言うと、女はゆっくりと事務所の中に入る。

タケルはタオルを持って来て女の頭に掛けた。

女の髪からは雫が滴り、足元に水溜まりを作っていた。


「ほら、ちゃんと拭けよ……。本当に風邪ひいちまうぞ」


タケルは荒々しく女に髪を拭く。

そして冷えた事務所の暖房を入れた。


タケルが放り出したビニール袋からラーメンが床に転がっていた。

女はそれをじっと見ている。

それに気付いてタケルはそのラーメンを袋に戻し、棚の上に置いた。


「一体どうしたんだ。男にでも振られたか」


そう言いながらソファに座った。


女はゆっくりとタケルの事務所の中を見渡す。

汚いと言うか、何もない部屋だった。

パソコンが置かれた机と古いソファとテーブル。

それ以外には何も無かった。


「ここって……」


女は小さな声で言う。


「ああ、コンサルタントをやっている。喜多川だ」


「コンサルタント……」


女は手に持った紙袋をソファに置いて、髪を拭き始める。


「コンサルタントって……」


タケルは顔を上げて、


「まあ、コンサルって言えば聞こえは良いが、お困り事を解決しますよって事だな。便利屋みたいなモンだ」


そう言うと笑った。

しかし、女はそれに食い付いた。

そしてタケルの向かいに座り、身を乗り出した。


「相談……。載ってもらえますか」


剣幕な女にタケルは身を引きながら何度も頷いた。







「誰かと間違われたんだと思うんです。だけど、そんな間違われ方ってあります。私、単なる女子大生なんですよ。それなのに、こんなモノ……。私が使えると思ったんですかね」


カンナはタケルの作ったインスタントラーメンを鍋のまま食べながら、捲し立てる様に言う。

そしてまたラーメンをすする。


タケルはカンナの話を聞きながらテーブルの上に置いた拳銃と三枚の写真をじっと見つめた。


「私、この人達、殺さないといけないんですかね……」


カンナは鍋の中のスープを飲み、テーブルの上にその鍋を置いた。


タケルはテーブルの上の写真を手に取り、ポケットから出したスマホでその顔を立て続けに撮る。

そしてAIにその写真を調べさせた。


テーブルの上にAIが検索を続けているスマホを投げ出し、拳銃を手に取った。

オートマチック式の拳銃のマガジンを抜くと、そこには六発の弾が込められていた。


「アメリカ製の拳銃だな……」


タケルの言葉にカンナは動きを止めた。


「オートマチック式だから一発は既にチェンバーに入っているから、全部で七発撃てる事になる」


そう言いながら拳銃の上部を指差した。


「三人殺すのに七発……。手慣れた奴じゃないとかなりリスキーな話だな。って事はこの拳銃は手慣れたヒットマンに渡る予定になっていた筈だ。それが間違ってアンタの手に渡ってしまったって事だな。間抜けな奴らだ」


カンナは口を真一文字にして頷く。


「三百万って言ったな」


カンナはまた頷く。


「アメリカで買うとモノによるが五百ドルから千ドル程度で買える。それが日本では三百万だ。いい商売だな」


タケルは投げ出したスマホを手に取った。


「ターゲットがわかった。政治家、その秘書。最後の一人はわからないな……」


カンナはテーブルの上の写真を手に取りじっと見つめる。


「この人達殺さないと、私が殺されるんでしょうか……」


タケルはもう一度AIに検索させ、スマホをテーブルの上に置く。


「さあな。アンタが誰だかわかっていない可能性もあるが。しばらくは大学には行かない方が良いかもな」


カンナはタケルが淹れたお茶を飲み、


「まあ、冬休みなんで、しばらくは行かなくても大丈夫ですけど……。今日は先生にレポートの事で質問しに行ってただけなんです」


そう言った。

タケルはそれに頷く。


「でも、俺がこの写真から誰か調べ上げた様に、相手もアンタが誰なのかを調べる事は容易い。少し気を付けた方が良いのかもしれんな」


「そんな……」


タケルはまたスマホを手に取る。


「一人で住んでるのか」


カンナは首を横に振る。


「一つ下の妹と……」


「親は」


「親は広島です」


タケルは立ち上がり、マグカップを出すと、


「コーヒー飲むか」


とカンナに言う。


「戴きます」


タケルはスプーンも使わずにインスタントコーヒーの粉をカップに入れるとポットからお湯を注いだ。


「ほら、飲め」


タケルはカンナの前にカップを置いて、自分はパソコンのある机に座る。

そしてキーボードをカチャカチャと打ち始めた。


「もう少し詳しく調べてみる。その政治家と敵対する奴らがわかるかもしれん」


カンナは熱いコーヒーを一口飲んで、


「それで殺しの依頼者がわかるかもって事ですね」


タケルはうんうんと頷き、更にキーボードを打ち続ける。


カンナはテーブルに並んだ写真をじっと見つめた。






タケルはパソコンのモニタに並んだ写真を見て顎に手を当てる。


「なるほどな……。見えて来た」


そう言うとソファに座るカンナに声を掛ける。


「おい、何となくわかったぞ……」


しかし、カンナからの返事はない。


「おい」


とモニタの陰から顔を出し、カンナを見ると、カップを手に持ったまま眠っている様だった。


「何だよ……、寝ちまったのか」


タケルは立ち上がり、カンナが手に持っている空のマグカップを取ると、奥の部屋から毛布を持って来てカンナに掛けた。


タケルは机に戻ると、またキーボードを打ち始める。







「え……」


カンナが目を覚ますと、窓から朝の光が差し込み、向かいのソファにタケルが座ったまま眠っていた。


「え……」


カンナは慌てて立ち上がると、周囲を見渡した。

そしてテーブルの上に置かれた写真と拳銃を見る。


夢じゃなかったのか……。

夢だったら良かったのに。


カンナは自分に掛けられていた毛布を眠るタケルに掛けた。

そしてまたソファに座るとタケルの寝顔をじっと見つめた。


「見ず知らずの私のために……。変な人だ」


そう言うとテーブルの上に置かれたマグカップを取り、コーヒーを淹れる。

そして、タケルの横のソファに置いてあった印刷された紙を手に取る。

テーブルの上にある写真の三人、そして更に数人の顔写真が印刷され、名前が入っていた。


写真の三人は県会議員の今村憲道、その秘書の武田庸介、昨日わからなかったもう一人は、NPO法人の代表で上山譲という人物だとわかった。


「こっちは……」


カンナは二枚目の紙を捲る。


「そっちは依頼者の方だ……」


と眠っていたタケルが目を開けてゆっくりと身体を起こす。


「今村議員とそのNPOの上山はズブズブの関係で、NPOで不当に稼いだ金が、今村の資金源になっている様だな。で、その今村を敵視している議員とその息子がどうやら反社に依頼してアンタに殺しを依頼したんだろう。どうにも間抜けな連中だがな……」


タケルの話を聞いて、カンナは視線を資料に落とす。


「まあ、殺したい方も殺される方もどうしようもない奴らって事だ。巻き込まれたアンタが一番の被害者だな」


タケルも立ち上がりカップにコーヒーを淹れ、一口すする様に飲むとまたソファに座った。


「私、どうしたら良いですか……」


カンナは手に持った資料をテーブルの上に置くと、身を乗り出す様にしてタケルに訊いた。


タケルはカンナに微笑み、頷く。


「心配するな。手は既に打った」


「手……」


タケルは微笑むとカンナが置いた資料を手に取る。


「素人が人を殺そうなんて考えると、何処かに無理が生じる。自分も狙われたり、強請られたりするんだ。反社ってのはその辺にも長けているからな」


カンナは頷き、コーヒーを飲むと、拳銃に視線をやった。


「金ってのは怖いモンだ。戦争や紛争で何千人もの人が死んでいる陰で、金に殺される人間は日に何万人も居るんだ。その金に憑りつかれた奴らは殺しも平気でやる」


カンナは見慣れない拳銃の鈍い光沢をじっと見る。


「人を一人殺すのに、いくら必要か知ってるか……」


タケルはカップをテーブルの上に置いた。

カンナは首を横に振る。


「殺す対象が誰か、その難易度にも寄るが、一般人を殺す程度なら三万円もあればやってくれる世の中だ」


カンナは驚いて顔を上げる。


「三万円……。そんなモンで」


タケルはコクリと頷く。


「それくらいの額で殺しを請け負う奴らも存在しているって事だ。キャバクラでバイトする女子大生の一日の稼ぎ程度だ。アンタだって殺したい奴がいたら依頼出来るよ」


カンナはまた拳銃に目をやった。


「だけどな、そうやって殺しを依頼した奴は一生強請られ続ける。そうやってケツの毛まで毟り取られるって事だ」


「ケツの毛……」


無意識にカンナはそう呟いた。

そして顔を上げた。


「あの、私は何をすれば良いんですか」


タケルは溜息を吐いて、微笑んだ。


「一つだけやってもらう事がある」


タケルは真っ直ぐにカンナの目を見て言った。







「おいタケル……」


そう言いながらドアを開けて部屋に入って来たのは明らかに反社と呼ばれる風貌の男だった。

タケルとカンナは同時に顔を上げてその男を見た。


「何だ、客か珍しいな」


男はそう言うとカンナの横に座った。

カンナは慌てて立ち上がりタケルの横に座り直した。


タケルはカンナを見て、


「おい、コーヒー淹れてやってくれ。このオッサンは甘党なんだ。砂糖たっぷり入れてくれ」


カンナは困惑しながら頷くと立ち上がりコーヒーを淹れる。


「おお、コルトじゃねぇか」


男はテーブルの上の拳銃に手を伸ばす。


「メール見たぞ。朝早くから来てやったんだ」


そう言うと男は拳銃をテーブルの上に置いて、身を乗り出した。


「勿論、儲かるんだろうな……」


タケルは頷いて、男に微笑んだ。


「ああ、勿論だ。それに、こいつらも潰せる」


タケルはテーブルの上に置いた資料を指先でトントンと叩く。

男はその資料を手に取るとじっと見ている。


「ああ、こいつらがコルトの出元か」


「ああ、こいつらのパソコンをハッキングして調べた。間違いない。それに……」


タケルの声に男は顔を上げた。


「まだあるのか……」


タケルは口角を上げてニヤリと笑った。


「妙な薬をばら撒いているのもこいつらだ」


男は小さく何度も頷くと、手に持った資料をテーブルの上に投げ出した。


「後はこの県会議員たちだな。やりようによってはデカい金になる」


男はニヤリと笑い、ソファの背もたれに深く寄り掛かった。


「流石は天才詐欺師と呼ばれた男だな……」


カンナは男の前にカップを置いた。


「天才詐欺師……」


カンナはそう呟くとタケルの横に座った。


「詐欺師なんですか」


「昔の話だよ」


「そうそう。昔の話だ」


男はそう言って声を上げて笑った。


「しかし、この半グレどものヤサがわからねえんだけど……」


タケルは胸のポケットからメモを取り出してテーブルの上に置いた。


「ハッキングついでに調べておいた。この住所のどれかになる」


「おいおい、どれかって言われてもな……」


男はタケルに言いながらコーヒーを飲んだ。


「そこは心配ない。コイツに動いてもらうから」


タケルは横に座るカンナの肩を叩いた。


「しっかり尾行してくれよ……。コイツの身に何かあったら、オッサンでも許さねえからな」


男はニヤリと笑い、


「おいおい。そんな手厳しい事言うなよ。今までそんな下手打った事無いだろう」


男は熱いコーヒーをグビグビと飲んだ。






テーブルの上に同じ拳銃が二つ並んだ。


「これは……」


「一つはレプリカだ。手に持ってみろ」


タケルに言われるがままにカンナは二つの拳銃を順に手に持った。

重さも重厚感も変わらない。

カンナは首を傾げて、


「同じにしか……」


タケルはカンナがテーブルに戻した拳銃を手に取り、マガジンを抜く。

弾も同じ様に込められていて、トリガーを引くまでどっちが本物かわからない様だ。


「こっちが本物で、こっちはレプリカ……。本物返すとアンタが撃たれる危険もあるしな」


タケルはレプリカの拳銃をタオルで拭き、昨日カンナが持っていた紙袋に入れた。


「素手で触るなよ。指紋が残るからな……」


カンナはコクリと頷いた。


「今からその馬鹿な半グレを呼び出す。拳銃を返すからと待ち合わせして、その場所までこれを持って行ってもらう。心配は無い、さっきのオッサンの仲間がちゃんとアンタを守ってくれるから。奴らの隠れ家まで連れて行かれるだろう。しかし、連れ込まれる前に踏み込む手筈になっている。街のダニ共も一網打尽だ」


カンナは、紙袋を持って駅前に立っていた。

カメラを仕込んだ伊達メガネでタケルには映像が届いていた。

そしてイヤホンからタケルの声が聞こえた。


「心配するな。オッサンの仲間が傍に居るのは確認出来た。それっぽい奴はいないか」


カンナはゆっくりと周囲を見渡す。

すると、昨日の夜に声を掛けて来たキャバクラのスカウトの男が近付いて来る。

そしてカンナの傍で立ち止まった。


「何だ、お前かよ……」


夜の表情と違い、眉間に皺を寄せてじっとカンナを睨んでいた。


「付いて来い……」


男はそう言うと歩き始める。

カンナは紙袋を抱いてその男の後ろを歩き始める。


「あなた、キャバクラのスカウトの人ですよね」


カンナは男の背中にそう言う。


「ああ、表向きはな……」


そう言うとクスクスと笑った。


「しかし、お前もツイてないね……、あ、昨日お前に間違えて金渡した奴はもう海の底だ。まあ、お前は巻き込まれただけだから、殺しはしないけど……」


カンナはじっと男を睨んだ。


男は、昼間閉まっている歓楽街のビルのエレベータの前に立ち、ボタンを押した。


「はい、そこまでだ」


男の肩に今朝タケルの事務所で会った男の手が掛かった。

その男の顔を見て、スカウトの男の顔色が無くなって行くのをカンナは黙って見ていた。







「いやあ、タケル。今回は思いの外、金になったよ……」


と男が事務所に入って来た。


「奴らが貯め込んでいた金が三億、依頼した議員から一億、NPOで荒稼ぎしていた議員から三億。全部で七億。まあ、これから議員からしこたま貢いでもらうけどな」


男はテーブルの上に紙袋を二つ置いた。


「お前の取り分だ」


タケルに呼び出されて事務所に居たカンナはそっとその紙袋を覗き込む。


「いつも通り、折半だ」


タケルはニヤリと笑い、コーヒーを飲んだ。


「半グレは全員捕まえた。チャカと薬も回収して……、おっとそれ以上はお前の知った事じゃないわな」


「コーヒー飲むか」


とタケルはカンナに合図した。


「今日は良い、まだやる事があってな」


と、男は事務所の入口で立ち止まる。


「その姉ちゃんにもちゃんと報酬払えよ」


男は笑いながら出て行った。


カンナはタケルの横に座り直した。


「何か凄いですね……」


タケルは微笑んでカンナを見た。








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