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掌を太陽に。

作者: ヶ猫々

何で。

何で入らない。


「翔!打て!」


3ポイントのラインの外側から高く飛び上がる。

何度も。何度も。


一体何回飛んだ?

数えられない。

何点外した?

俺がミスをしなければ何点入った?

今の点差は31点。

俺が入れられなかった点がどれほど差を開いてしまったのだろう。

でもきっと仲間は俺に励ましの言葉を与える。

要らない。そんなもの。

俺に欲しい物は、


目の前のゴールだけ。


※ ※ ※


20XX年 4月15日。


学年が上がり、三年生の春が始まった。


「おい、聞いたぜ?お前バスケ部なんだろ?」


...


「なんだよ。それがどうした。」


鬱陶しい。1人がいいっていうのに。


「お前冷たいなぁ...そうか!自己紹介がまだだったな!」


「俺は西崎剛だ!よろしく!」


うるさいやつだ。


「悪い、出ていってくれ。俺は人と関わりたくないんだ。」


流石に冷たすぎるか。

まぁしょうがない。関わりたくないのも事実だ。

しかし、なぜこの時期に自己紹介を?


「せっかく転校してきてすぐだから部活教えてもらおうと思ったのによ。」


転校生...

そんな奴がいたのか。

生憎、俺はいつも寝ているようなクソガキでな。


「悪いな。俺はもうバスケをする気はねえよ。」


「なんだよそれ。」


怒らせたか...

でも、別にこいつと無理に関わる必要はないだろ。

気にするな。俺。

それに、もうバスケはしないんだから。


寝るか。


「おい。聞けよ!」


「うぉあ!?」


やっべぇ変な声出た。

しかもこいつまだいたのかよ。


「お前はバスケが嫌なだけだろ?学校、紹介してくれよ。」


「あ?」


本当にめんどくせぇ奴だ。

どうして俺にそこまで固執するんだよ。


「悪い。さっきも言ったと思うが俺は...」


「それよりもだ。俺はお前の名前をまだ聞いてない。」


話を遮るなよ。

お前から話しかけたんだろ?

ったく。

まず名前なんてプライベートなもの、どうして教えるんだよ。他人に。

偽名でも使うか。


「桐野鷹斗だ。」


「それでもいいか。行くぞ、翔。」


「名前結局知ってんのかよ!?」

「てかやめろ。腕離せ!」

「おい、聞いてんのか!?」

「何言っても聞かねえな!?」


なんなんだ本当にこいつは。


そうして一日中、俺はこいつに付き合わされた。


でも、


こう言うのも悪くはないのかもな。


※ ※ ※


「ちょっと待て。」


時は1時間前。


「母さん。おはよう。」


いつも通り起きて、朝ごはんを食べる。

歯も磨いたし、顔も洗ってある。

髪は整えるのに苦労するが、それほど時間はかけたくない。


「寝癖酷いな...」


ポツンと言葉が出るが、気にしない。

そうこうしてるうちに家を出る時間になって、


「いってきまーす」


と、扉を開けたのだが...


「よっ!」


「ちょっと待て。」


「何だよ。」


何だよじゃねぇよ。俺の家だぞ?俺の家。

高校にさほど近いわけも無いし。

それに、


「何で俺の家知ってんだよ...」


剛とか言ったか?

何なんだこいつ。


「いやまぁ、同じクラスだし?」


「同じクラスでもしらねぇやつ沢山いるわ。」


もういい、早く学校行こう。


「あら、お友達?」


「母さん!?」


まずいまずいまずいまずい

こいつと友達?

ありえない。やめてくれよ母さん。


「ちがっ」


口に手が伸ばされ、抑えられる。

声が出ない。


「そうなんですよ〜転校してきた俺と結構仲良くしてくれて〜」


違うだろ!?


「そうなのね!お友達久しぶりに見れて嬉しいわ!いってらっしゃい!」


「行ってきま〜す!」


なんでだよ...


※ ※ ※


「何でそこまでして俺に付きまとうんだよ?」


「何でって...バスケがしたいからだろ。」


「バスケがしたい?」


誰の話をしてる?


俺か?


俺がバスケをしたい?


いや。まさかな。俺はあの日で、バスケをやめたんだ。


そう。あの日で。


※ ※ ※


俺の欲しいものは、すぐ目の前にある。

手が届きそうで届かない。

でも唯一届く方法がある。

それは自分の手を届けるのではなく、自分の手で届けること。

この手があのゴールに届かなくたって、このボールが俺の欲しいものへと繋いでくれる。


繋いでくれるのに。


どうして繋がっているのに手に入らない?

こんなにも近くにあるのに。

あぁ、また俺のゴールが奪われる。

敵チームのユニフォームは光って見えるのに。

俺たちのユニフォームは血に塗れた悪を象徴するような見た目に感じる。

どうして。


諦めたくない。


「リバウンド!」


あ、ボール。

取らないと。

取って俺が、俺の欲しいものを手に入れる。


高く飛ぶ俺の体。

あ。

手が届かない。

まだだ。まだもう一回飛べば。

そう思って素早く着地をする。


グキッ。


一瞬だった。俺の欲しいものに手が届かなくなる瞬間。

どうしてだ。

どうしてこうも失敗する。

あぁ、体が左に傾く。

これで終わりなんて嫌だ。

最後に俺の欲しいものを。


俺の...欲しい...もの。


そして足が動かなくなり、バスケをやめた。


※ ※ ※


「お前に声をかけた時、一瞬バスケをやりたいと思っただろ。」


やりたい?バスケを俺が?

そんなわけがないだろう。


「そんなこと...」


「あるんだよ、そんなことが。だってお前の目、今光ってるぜ?」


「それに、お前の足直ってるじゃねぇか。どうせリハビリしたんだろ。」


「俺はさ、あの時お前と戦ったチームのベンチにいたんだよ。何一つ変わらないいつもと同じ試合だと思って見ていたさ。だけど、1人だけ異質な存在がいた。」


異質?


「それがお前だ。」


なんでだ。何で今更。


「俺はお前に憧れて、努力して、スタメンだって取った。」


「でも、お前はどこにもいなかった。戦えなかった。」


「お前がゴールだけを見て、自分で勝ちに行く。そんなプレイスタイルに惹かれたんだ。だから今、」


そんな。そんなことがいいのか?許されるのか?


「お前に勝負を挑みにきた。」


「1on1。やるよな?」


いつからだ。いつから泣いていた?

大粒の泡沫がここにある。

良いのか?


「やってやる!」


こんなダサくてカッコ悪い逃げた俺でもまだ、バスケが出来るのか?


「体育館、行くぞ。」


※ ※ ※


それから何時間バスケをしただろうか。


「お前、弱いな!」


「うるせぇ、伊達にやってねぇんだよ。」


「そうか。でももう時間だ。太陽がもう半分沈んだ。」


「帰るか。」


「だな。」


そう言って体育館を後にする。

2日で丸まりすぎだろうか。

まあいい。


「眩しっ」


こんな時間でもまだ太陽は明るい。

そんな太陽に、俺はそっと掌を当てた。

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