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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第四章 騎士学校編

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第92話 編入試験④


「ティアって実はめちゃくちゃ強かったりする?」


 試験も佳境に差し掛かるころ、俺はティアとレオナと合流し、訓練場の端でその様子を眺めていた。

 俺は自分の実技試験が終わった後、ティアの試験を遠目に見た。


 結論、俺はひっくり返るほど驚いた。

 相手は何やら試験会場で悪態をついていた乱暴そうな男で、ティアは大丈夫だろうかとハラハラ見守っていた。


 だがそれはまったくの杞憂で、ティアは相手を終始圧倒。

 ものの数十秒で制圧して倒してしまったのだ。


「そんなわけないでしょ。ただこれでも聖庁の騎士だったからね。普通の軍人くらいには戦えるよ」


 普通というレベルには見えなかったが、いずれにせよ彼女は俺と同様周囲からの賞賛を浴びていた。


「アタシもぶちのめしといたよー」


 そういえばレオナの試験は見ていない。

 何やらどよめきが起こっていたのは分かったのだが、人だかりで見えなかったのだ。


「相手は誰だったんだ?」

「なんだっけ? あのチャラ男の仲間の」

「バロックだ」


 そう言って、俺たちの横にバロックが現れた。

 レオナにこっぴどくやられたのか、目の周りにあざを作っている。


「それそれ。結構やるみたいだったから、つい本気になっちゃった」


 本気になれば正規の軍人を制圧できるレベルなのだから、やはりレオナは侮れないと思った。


「油断しただけ、と言いたいところだけど、君ら何者なんだ? フガクにティアさんも、君達普通じゃないぞ」

「冒険者歴が長いだけだよ。バロック、あなたの連れこそ騎士学校で学ぶ必要あるの?ってくらい強かったみたいだけど?」

 

 ティアのあえてわざとらしく探るような言葉に、バロックも一瞬固まるが、すぐに苦笑して返した。


「了解、お互い詮索は無しにしよう。実際俺は試験を突破できるかも分からないしな」

「勝敗は関係ないっ言ってたけどー?」

「君にボコボコにやられたんだ、正直厳しいんじゃないかと思ってる」


 レオナと少し仲良くなっているバロック。

 お兄ちゃんと妹みたいな感じに見えてきた。


「よし! 実技試験は以上だ! 合格発表は2日後、門の前に名前を張り出す!」


 俺たちもすっかり試験終了の雰囲気に包まれていたところに、厳つい騎士風の男性教員が声を張り上げてそう言った。

 大きな怪我人も無く、実技試験は無事終了した。

 チラリとミユキの方を見ると、手でドアの方を指し示し、「先に帰っていてください」とジェスチャーしていた。


 そういえば、彼女とこんなに長く離れていたことも珍しいとは思った。

 熱を出して寝込んでいたときくらいじゃないだろうか。

 たかが朝から数時間のことなのに、何となく寂しさを感じている。

 とはいえ試験終了後に受験者と教員が親し気に話しているのも良くないので、俺たちは一先ず訓練場を後にした。


「ご苦労さんバロック、宿に戻んべ。フガク、お前らどの辺に宿取ってんの?」


 アギトも合流し、俺たちは5人で校舎を抜けて前庭に向かって歩いていく。

 

「川に近いエリアだよ」

「んじゃ近いかもな。どうせ明後日まで暇だし、みんなで晩飯でも行かねー?」

「だってさ。どうする?」

「奢ってくれんならアタシはいいよ」

「まあいいけど、ミユキさんが何時に戻ってくるか次第ね」

「よし決まりだ。ここはおにーさんたちが奢って……」


 そんな世間話を交わしながら外に出た、その時だった。


  カァン……カァン……カァン……


 場違いな、鐘の音が鳴り響いた。

 驚き、俺たちは音がする方向を見る。

 どこか不吉な、冷たい金属音――その出どころは、学院の奥にそびえる時計塔だった。

 時刻は13時を指し示している。


「でかい音だねー。るっせー」

「……昨日11時の鐘は鳴らなかったのに」


 レオナは耳を塞ぎ、俺は昨日時計台を見たとき丁度11時だったのに鐘の音が鳴らなかったことを思い出す。

 というか、朝からこの鐘が鳴ったのは今が初めてのはずだ。


「……行ってみましょうか」


 ティアが俺の袖を引き、短く言う。


「えー、試験終わりにうろついちゃまずいんじゃないのー?」


 ティアの言葉に、アギトが苦い顔をしている。

 ティアは「別にあなた達には言ってない」と、俺に目配せをして歩いて行った。

 慌てて俺とレオナもその後を追う。


「ティア、何かあると思う?」

「さあね。まあ”見学して帰っちゃいけない”なんて言われてないし」


 いきなり大きな音で鐘が鳴り響いたら、誰だって驚くだろう。

 俺たちみたいに何事かと人が集まってくるのも無理はないというわけだ。

 

「ってかあの時計塔めっちゃ気味悪くない? あれだけやたらでかくて古いしさー」


 レオナの言葉に、俺も言われてみればと思った。

 まあ歴史ある学校だから、大方校舎は新設して時計塔だけ昔のまま残っているとかそんな感じだとは思うが。

 

「わかるー。あれ俺も今日見たときから気になってたんだよなー」

「あれ、アギト達帰ったんじゃ?」

「普通に近くで見てみたいしな。別にちょっと見るくらい大丈夫だろ」


 アギトとバロックも俺たちについてくる。 

 やがて時計塔の前まで辿りつくと、その威容に圧倒された。

 ゴシック調な校舎とは少し違い、古びた灰色の石が積み上げられた時計塔は、長い年月が独特の風合いを醸し出している。

 五階建てビルくらいの高さの頂上にある巨大な時計は、13時2分を指し示していた。


「なあ、ドア開いてねーか?」


 よく見ると、時計塔の入り口にあたる両開きの黒い扉が、少し開いているのが見えた。

 俺はティアと視線を交わし、頷き合うとそちらに向かって歩き出したその時。


 ――声が、背後から降りかかってきた。


「止まれ」


 ――獅子。


 それが第一印象だった。


 白いシャツの上からでも分かる、極限まで研ぎ澄まされた獣のような筋肉。

 伸びた黒髪は鬣のように逆立ち、鋭利に整った頬骨の下には濃い顎髭が形を刻んでいる。

 だが最も印象的だったのは、その瞳。


 冷たい鉱石のような眼光。


 視線を交わした瞬間、心の奥を鋭利な刃でなぞられたかのような錯覚に陥る。

 無駄のない動きと佇まいには、訓練の極致にある者だけが持つ“整合性”があった。

 だが、それ以上に――まるで何かが欠落しているような、人間離れした静けさ。


 男は、誰にも頭を下げることなく、自然に“頂”にいるような、絶対の支配者の風格を纏っていた。


「あなたは……?」


 警戒しながらもティアは言葉を発する。

 だが、男は一瞬たりとも視線を逸らさず、ただ静かに応じた。


「そこから先は俺たちの領域だ……勝手に入ることは許さん」


 その男の凍り付くような眼差しに、俺たちは微動だにすることができなくなった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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