第88話 学校に行こう②
「じゃーん! どうよ似合う?」
俺たちは現在、学校の制服を取り扱う商店へと訪れていた。
騎士学校だけでなく、街にある学校の制服、備品などをひと通り取り扱っており、学生風の客の姿がまばらに見られた。
試着室から出て来たレオナが、大げさにポーズを決めながら俺たちに制服姿を披露する。
深いグリーンのチェック柄のスカートに、同色のリボンが薄い胸元で揺れている。
「さすがに似合うわね」
「はい! レオナとても可愛いですよ!」
「でしょー? まあ普段着と大して変わんない感じもするけど」
二人から褒められて上機嫌のレオナ。
短いスカートを揺らしながら、俺に向けてわざとらしいウインクをしてきた。
「どうフガク? 可愛い?」
「うーん、ラノベで言えば"ツンデレ女子高生の暴力系ヒロイン"って感じ」
どうせ伝わらないが、率直な感想を告げる。
こうして見ると、外見だけなら美少女だなとは思う。
性格がメスガキ暗殺者なので特にドギマギはしないが、同じクラスにいたら男子からめっちゃモテそうだ。
「褒めてんのそれ?」
「結構褒めてるよ」
まあツインテールで正統派ヒロインぽい見た目ではあるし、オーソドックスに可愛い。
何なら俺たちの中では一番制服が似合う年齢でもある。
一定層に大変な需要がありそうな風体のレオナを見て、素直に褒めておいた。
本人にはイマイチ伝わっていなさそうだったが。
ちなみに、俺は既に試着を終えて制服姿だ。
スカートと同じ緑のチェックのパンツと、白いシャツにパンツと同柄のネクタイだ。
俺が着替え終わったときの3人からの感想と言えば、ひどいものだった。
「似合わないね」
「髪色が狂ってる」
「もう少し学生らしい方がいいかもですね……」
まさかのトリプルダメ出し。
涙目になった俺は、髪を結んで眼鏡をかけてようやく「ちょっとだけマシ」という評価をいただいた。
「着てみたけど……どう?」
続いて、レオナと交代でティアが着替えを終えた。
ぶっちゃけた感想を言うと、かなり”ギャル”だ。
金髪に赤目という派手な外見もさることながら、ムッチリとした太ももに、清潔感あるブラウスをぐっと押し上げる魅惑のバストのギャップが素晴らしい。
制服を着ることへのせめてもの抵抗なのか、いつもの外套と同じウォーターブルーのカーディガンを羽織っている。
品がありつつも、人目を引く魅力にあふれた華やかないで立ちだった。
「ティアちゃん素敵です! 爪も塗りませんか? 可愛いですよ!」
「なんだ似合うじゃん。ティアは自分の可愛さ分かってるよねー」
「そ、そんなことないけど……どう、フガク? 変じゃない?」
レオナのときといい、なぜか審査委員長的にコメントを求められる俺。
ティアは耳に髪をかけながら、そわそわとして問いかけてきた。
その仕草は可愛いが、俺のプレッシャーが半端ないのでやめてほしい。
「ラノベで言えば、"見た目は派手だけど実はしっかり者の成績優秀で一途なギャルヒロイン"だね。オタクに優しい系の」
「なんて?」
もはや理解させる気もない褒め言葉を投げつけておく。
というか、何をそんなに抵抗していたのか分からないくらい可愛いんですが。
こんなん学校にいたら、他校からも男子女子問わず見に来る漫画みたいな展開が起こるレベルの美貌だ。
「いやすごく似合ってるよ」
「そう? ならいいけど……」
そう言って恥ずかしそうにカーディガンの袖をキュッと握る仕草はあざとくさえあった。
こうして見るとティアも年齢不詳だなと思う。
10代後半にも見えるし、落ち着いた雰囲気は俺より年上のようにも感じさせる。
さていよいよ、俺も待ちに待った”彼女”のターンだ。
どんな魅惑の制服姿を見せてくれるのか――そう思っていると、試着室の中から声があがる。
「あの……似合いますか?」
試着室のカーテンがゆっくりと開けられ、ミユキが制服姿を披露する。
「エロい」
「エロい」
「エロい」
「えっ」
さすがにあかんて。
その身体は暴力的過ぎた。
キュッと引き締まった腰。スカートから延びる白磁のような長い脚は、見えそうで見えない太ももの奥を覗き込みたくなるほど艶めかしい。
長身がスレンダーに見せてはいるものの、ズッシリとした肉感的なヒップがしっかりとその存在を主張する。
そして何より、ブラウスのボタンがはじけ飛びそうなお胸が、清楚な雰囲気とのギャップで大変にセクシーだ。
黒髪のポニーテールから覗くうなじも、しっかりと上まで止めたボタンからチラリと見える首筋も、清潔感ある黒い靴下も、全てが彼女の煽情的過ぎるワガママボディを引き立てまくっている。
率直に言おう。エロい。
「あ、あのー……似合いますか?」
ミユキは聞き間違いということにでもする気なのか、もう一回同じことを聞いてる。
若干涙目で冷や汗をかいているのが可哀そうだが可愛い。
「ミユキさん、認めなさい。あなたはエロい」
「ミユキ、何度言ってもエロいしデカいよ色々」
二人からの容赦ない追い打ちに、ミユキは助けを求めるように俺をチラリと見た。
だが俺も審査委員長として、彼女の審査から逃げることはできない。
「ごめんミユキさん……さすがに、エッチすぎる」
「脱ぎますー!!!」
シャッと試着室のカーテンを締め、ミユキは泣きながら着替えに戻った。
一応ラノベで例えるなら……例えるなら……無理だエロいしか出てこない。
俺の語彙力すら破壊したミユキは、一生制服を着ませんと言って拗ねてしまい、みんなでなだめて機嫌を直すまで小一時間かかった。
最終的なきっかけは、俺がミユキの制服姿を金輪際見られないなんてやだー!と号泣したためである。
「そういえばさー」
「なに、レオナ?」
「年齢制限って25歳までじゃなかったっけ」
「……あっ」
そして俺たちはここでようやく、騎士学校の25歳までという年齢制限に、26歳のミユキが引っ掛かっていることに気づいたのだった。
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