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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第四章 騎士学校編

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第85話 ノルドヴァルト騎士学院②

 学院の調査クエストを受託した俺たちは、早速ギルドを出てセーヴェンの街北部へと向かう。

 道の先、街の外れに近づくと大河・ヘルム川の流れが見えてきた。


 透き通るような水面には銀色の魚が跳ね、岸辺には洗濯をする人々や、釣りを楽しむ子どもたちの姿も見える。

 水音は涼やかで、通り抜ける風は街の喧騒を和らげるかのようだった。


 その川に架かる重厚な石造りの橋から振り返れば、赤茶色の屋根が立ち並ぶ街並みが見える。

 その向こうに連なる遠い山脈が重なり、絵画のような美しさを見せていた。


 橋を渡るとなだらかな丘道に繋がっている。

 整備された石畳の坂を登っていくと、やがて視界の奥にそれは現れた。


 ノルドヴァルト騎士学院。


 丘の上に、黒い鉄柵と古風な石造りの門が見え、さらにその奥にそびえ立つのは、赤銅色の屋根と尖塔を持つ学舎があった。

 その奥には、街からでも見えるであろう巨大な時計塔も聳え立っている。


 建物は全体的にゴシック様式で、重厚かつ精緻な装飾が施されており、その威容はまるでひとつの要塞のようですらある。


 吹き抜ける風に、校舎の尖塔に掲げられた緑の紋章旗が翻っていた。

 銀の双剣を交差させた校章が、陽の光を受けて一瞬きらめく。


 "高潔" "厳格" "孤高"。


 そんな言葉が自然と頭に浮かぶ、まさに”騎士”の名に相応しい佇まいだった。


 俺たちはその重そうな門を前に、一歩、また一歩と足を進めていく。

 門には両端に二人に騎士がおり、黒い鉄柵の向こう側には入れないようになっていた。


「とりあえず中に入れるか訊いてみようか」


 ティアの言葉に、俺たちは騎士学院の門の横にある衛兵の詰所に赴く。


「あのー、私ティア=アルヘイムと申します。こちらの卒業生であるソレス=アポロニア卿からの紹介状があるんですが、中を見学させていただけませんか?」


 ティアは窓の向こうを覗き込み、退屈そうにしている騎士風の中年男性に声をかける。


「ええ? いやさすがにすぐには無理だよ。ちゃんと事前にアポ取ってくれなきゃ」


 紹介状を受け取った職員だが、裏表を返して見る程度で中を開けることもしない。

 一応、ギルドの権限で中に強硬で入ることはできるらしい。

 しかし、警戒されて調査にならない可能性があるため、ティアとしては最後の手段だとここに来る道中言っていた。 


「そうですか。明日なら大丈夫ですか?」

「いや悪いんだけど、編入試験が明後日あるからねー……。それが終わってから、まあ1週間後ぐらいでないと」


 結構待たされるな。 

 待てなくはないが、その間滞在費もかかるし、そこから調査を始めるとなるとこの町での滞在期間もさらに伸びる。

 

「えー! おっちゃんいいじゃんー! アタシら遥々ゴルドールから来たんだよ。宿代でお金無くなっちゃうよー……!」


 レオナが幼気な少女のような素振りで甘えたような声を出す。

 情に訴える作戦のようで、ティアも効果あるかもと思ったのか何も言わずにいる。


「そんなこと言われてもねえ……。ここって貴族の子どもさんとかも通ってるからそう簡単に入れられなくてなあ」

「お願いー! アタシたち、ここに入学するのが夢なのー!」

「うーん……入れてあげたいところではあるけどねえ」


 職員が単純にものぐさというよりは、セキュリティ上の問題で本当に難しいといった感じだ。


「失礼。その紹介状、少し見せてくれるかい」


 すると、俺たちの横から一人の男性が割って入り、職員の手から紹介状をスルリと取った。

 グレーのシャツと黒いスラックス姿の、40代くらいのその男。

 スラリとした体躯だがかなり身長が高く、ミユキよりもさらに大きかった。

 多分俺より30cm近く大きなその男は、優し気な雰囲気に反して奇妙な威圧感がある。

 

「あ、先生」


 職員の呟きには答えない。

 どうやらここの教師なのだろうか、後ろに撫でつけた襟足長めの黒髪に穏やかな表情を浮かべつつ、紹介状に目を通している。


「あの……あなたは」


 ティアが男を見上げて怪訝そうに声をかける。


「うん。間違いなくソレスのものだ。いいよ君たち、私が案内しよう」

「え、い、いいんですか?」


 俺は思わず聞き返してしまう。

 ”先生”は口元に笑みを浮かべて頷いた。


「もちろんさ。ただ今日は授業は休みの日だ。自主的に鍛錬している生徒や、一部の教職員しかいないが、構わないかい?」

「はい、よろしくお願いします」


 ティアは先生から紹介状を受け取りながら首肯した。


「君も構わないね? 何かあれば、私の責任にするといい」

「先生にそう言われちゃ何も言えませんよ」


 先生は職員の男にそう告げ、俺たちを連れて門の前に行く。

 程なく、両側に立っていた騎士たちがガラガラと重厚感ある金属音を立てながら門を開けてくれる。


「さあこっちだ」


 そうして俺たちは、いとも容易く騎士学校の中に足を踏み入れることができた。

 この男は一体何者だろうか。

 ティアもミユキも、男の背中に探るような視線を向けている。


「とりあえず教室を案内しようか。ここは前庭で、そこの噴水では昼になると生徒たちがランチをしている姿が見られるよ」


 彼の言葉に従い、俺たちは騎士学院の前庭へと足を踏み入れる。

 石畳の敷かれた前庭には、整然と手入れされた樹木が並び、春を迎えた花々が色とりどりに咲き誇っていた。


 中央には石造の縁に旗と同じ紋章が刻まれた円形の噴水があり、透明な水柱が音も軽やかに吹き上がっている。


「君たちはソレスの紹介で、遥々帝都から来たのかい? もしや明後日の編入試験を受けるのかな」

「はい、アポロニアさんにはお世話になりました。騎士学校にぜひ行くようにと勧められて」


 俺たちの足音が、静かな庭に控えめに響く。

 ティアの回答は、編入試験を受けるとも受けないとも言っていない、絶妙な受け答えだった。

 それが功を奏したのは分からないが、先生も特に言及せず正面の建物に向かって足を進めている。


 視線を上げれば、赤銅色の屋根と尖塔を持つ校舎が、重厚な陰影を描いてそびえ立っていた。

 古風なアーチ型の窓と、立体的な彫刻の施された柱が並ぶ外観は、まるで古の神殿のようだ。

 建物の威容に感心しながら、アポロニアを「ソレス」と呼ぶ彼が気になり、俺は問いかける。


「先生は、アポロニアさんの知り合いなんですか?」

「まあ、彼女は10年ほど前の生徒だったからね。あの世代は現在一線で活躍する騎士ばかりだし、よく印象に残っている」


 懐かしそうに先生は語っている。


「ここは中央棟の講義室。座学が中心の区画で、毎日授業が行われているよ」


 先生が指差した先の重厚な木製の扉には、鉄の装飾が施されており、品格と威厳が感じられた。

 ちらりと中を覗くと、長机と黒板、光石を用いた講義用の写本装置などが整然と配置されていた。


 誰もいないのに整った机と椅子、埃一つない床が、逆に何かを隠しているように感じられるのはさすがに俺の思い込みだろう。


 「この奥が東棟。鍛錬場や武具庫、医務室などが集中している区域だ。今は生徒は少ないが……いつもはここも賑やかだよ」


 案内に従って進む廊下には、生徒たちが使用するロッカーや、練習用の木剣が並べられている。


 窓の向こう、敷地の奥には小規模な訓練場も併設されているのが見え、剣戟の音が風に乗って微かに届いてくる。


「あの……義姉さんは、ミクローシュ=アルヘイムも先生の教え子だったんですか?」


 穏やかだが淡々と案内を続けていた先生が、驚いたようにティアを見下ろした。

 ティアは訊くか迷っているような素振りだったが、やはり気になったのだろう。


「驚いたな、君はミクローシュの義妹さんかい? 無口な彼女が、君のことを饒舌に語る姿を見たことがあるよ。彼女は私が見た生徒の中でも特に優秀だった」

「私、義姉さんに憧れて一度この騎士学校に来てみたくて」

「それはいいね。彼女はこの学院を次席で卒業しているが、例年であれば間違いなく首席だったろう」


 優しげな口調でそう語る先生。

 その言葉に、ティアも嬉しそうに微笑んだ。


「例年ならということは、その年は特に優秀な方がおられたんですか?」

 後ろからミユキが問いかける。

 

「うん。一人エリエゼルという生徒がいてね。学院始まって以来の天才と言われていた」


 ここでもエリエゼル=メハシェファーの名前が出て来た。

 どんな人物なのか、俺も少し気になってきた。


「とはいえ、君のお義姉さんとは仲が良かったよ。卒業後にも二人で来てくれたこともあったし」


 そう言って先生は笑顔でフォローを入れている。

 ティアも分かっていたようで、「存じています」と言ってその話は終わった。


「あちらの奥からは学生寮だけど、さすがにプライバシーもあるしやめておこう。女子と男子で棟が分かれていて、真ん中に談話室がある構造だ」


 渡り廊下を挟んだ向こうには、大きな木の扉が見える。

 そこが学生寮の入口のようで、生徒の出入りは今のところ見られなかった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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