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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第四章 騎士学校編

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第84話 ノルドヴァルト騎士学院①


 時は少し巻き戻り、アポロニア邸での最後の夜。

 フガクとミユキがウィリアムの命令と言う名のおせっかいで夜景を見に行っているころ、ティアはアポロニアと義姉ミクローシュについて語り合っていた。


「10年前、私は彼女に会って衝撃を受けた。剣技も、座学もまるで歯が立たない。年下の同期に、私ははじめて嫉妬したよ」


 ティアは庭の端で、アポロニアから在りし日の思い出を語って聞かせてもらっていた。

 次にいつ会えるか分からないからと、ティアがせがんだのだ。


 ティアは、5つ年上の義姉のことが好きだった。

 12歳でウィルブロードの聖庁に身を置くようになり、そこで初めて出会った彼女。

 ミクローシュ=アルヘイムは当時17歳、ウィルブロード皇国の第一王女だった。


 皇位継承権の無い彼女は、本来であればどこかの貴族と結婚するか、もしくは領地を与えられて運営を任せられるかのどちらかになる予定だった。


 しかし、彼女は聖庁の”巫女”の護衛騎士になる道を選んだ。

 毎日のように聖庁に顔を出していたミクローシュにティアは懐き、義姉と慕った。


 彼女は寡黙で大人しい女性だったが、ティアのことは可愛がってくれた。

 ティアもまた聖庁で騎士を目指そうと考えたのは、ミクローシュがいたからだ。


 2年後、彼女が騎士学校に通うため国を離れると知ったときはそれはもう大泣きしたものだ。

 ――それが、10年ほど前の記憶だ。


「ミク義姉さんとはよく一緒だったんですか?」


 ティアは義姉の姿を思い浮かべながら、目を細めてアポロニアに問いかける。

 アポロニアも少し酔っているのか、慈しむように頷いた。


「ああ。先日も少し話したが、私も含め同期で年の近い女がたまたま4人揃ったから、私たちはよく一緒に行動していた。どいつもこいつもマイペースで、正直私は胃が痛かったがな」


 アポロニアは苦笑したが、その表情を見ているとそれが大切な思い出だったことが分かる。

 

「ミクローシュの件は、本当に残念だ……」


 そして、アポロニアの顔が曇った。

 それを見て、ティアも俯く。


「はい……」


 ティアの目に、憎悪の炎が宿った。

 アポロニアがその様子に少し驚いた素振りを見せたが、すぐにフッと笑った。


「そんな顔をするな。あいつも、ティア、君の顔が曇っているところなど見たくはなかろう」


 アポロニアの気遣いに、ティアも一度深呼吸をして自分をなだめる。


「そうだ、ガストン。あれを」

「は、こちらに」


 アポロニアは近くに控えていたガストンから、一冊の豪華な荘重の本を受け取った。

 よく見ると、それは本ではなく記録簿だ。

 光石を使った写晶記録簿――光で像を封じ込める特殊な写本である。


「見たことはあるか? これが当時のミクローシュだ」


 ティアは義姉の遺品整理の際、一度だけその写本を見たことがあった。

 騎士学校の卒業写本。

 もう何年も見ていないそれを、アポロニアが開いて見せてくれる。


「こっちがエリエゼルで、これが私だな。あと、このスティージュの4人でよく固まってた」


 色褪せた写本の中に映る姉は、制服姿ではあるが、ティアのよく知る姉の姿だった。

 鋭い瞳、紫がかった銀色の髪、美しい貌。

 めったに見られない笑顔を見るために、あの手この手を尽くした子供時代を思い出す。

 気が付くとティアの視界は熱く揺らめいて、写真をうまく見ることができなくなっていた。


「ふっ……君を泣かせてしまった。あいつに怒られる」


 アポロニアも目頭を押さえた後、ティアに笑いかける。

 それだけで、彼女とミクローシュの間にあった友情が伺えた。

 ティアも指で涙を拭い、アポロニアにお礼を伝える。


「ありがとうございます。義姉さんも、騎士学校の同期の皆さんのことが大好きでした」

「ならもう少し表に出して欲しかったものだがな。あいつらしい。……セーヴェンに着いたら、ぜひ騎士学校に行くといい。最近少し不穏な噂もあるが、まあ見る分には問題ないだろう」


 アポロニアは、翌日騎士学校への推薦状を書いてくれることを約束してくれた。

 それを見せれば見学くらいはできるだろうとのことだ。


「はい。ところで、不穏な噂とは、何ですか?」


 そしてティアは、今彼女の口から出てきた言葉を聞き逃さない。

 余計なことを言ってしまったと、アポロニアが困ったように笑った。


「ん? ああ……まあ噂程度だが……」

 

 そしてティアは、騎士学校で行方不明の生徒が出ていることを知ったのだった。



―――



  セーヴェン中心街から少し離れた場所に無事宿を確保できた俺たちは、荷物を置くなりギルドへと向かった。

 街の中心部に鎮座するそのギルドは、古いレンガ作りの建物を改装したものらしく、重厚なアーチ型の扉をくぐると、途端に熱気と喧騒に包まれた。


 中では、屈強な冒険者たちが肩を並べて報酬の受け取りや装備の受け渡しをしており、数歩進むたびに誰かが怒鳴ったり、笑ったり、報告書の束を放り投げたりしている。


「んー、無いなぁ。そっちどう?」


 そんな光景を横目に、ティアが掲示板の前で腕を組み、眉をひそめた。

 セーヴェンは騎士学校があり、冒険者の立ち寄りも多い街であるためギルドも大きい。

 その分掲示板には、ひしめくように無数の紙が貼りつけられ、前に立つだけでインクの匂いが鼻を突いた

 俺たちはその中から騎士学校にまつわるものや、他にもミューズに繋がりそうなものを探している。


「こっちも無い。なんかお使いみたいなのが多いね。鍛冶屋でできた武器を届けてほしいとか、王都まで交易用の品物を買い付けに行ってほしいみたいな」


 俺は頭をポリポリかきながら、無数にあるクエストを一つひとつ吟味していく。

 ただ、数が多いだけでラインナップにはそこまで期待できなさそうな印象だった。


「レオナはどうですか? ほら、帝都ではすぐ地下水道の依頼を見つけてくれたじゃないですか」

「んー、そう言われてもねー。無い袖は振れないっていうか、本当ロクなの無いよ」


 ”ロクなの”という言い方は依頼者からするとどうなのかという話ではあるが、まあ言いたいことは分かる。

 そもそも冒険者向けというより短期のバイトみたいなクエストばかりだった。

 

「仕方ないな。ミユキさん、行くよ」


 埒が開かないと思ったのか、あるいは探すのが面倒になったのか、ティアはミユキの手を掴んでツカツカとカウンターの方へ歩いていく。

 俺もレオナと何事かと視線を合わせ、その後ろに着いていった。


「こんにちは。ご用件は?」


 4つあるカウンターのうちの一つが空いていたので、すかさず滑り込むティア。

 小柄な可愛らしい職員のお姉さんが、にこやかに挨拶してくれたのでティアも微笑み返した。


「すみません、私たち、Sランク冒険者のパーティなんですけど、非公開クエストとか閲覧できますか?」

「え、Sランクですか? えっと、ギルドカードのご提示をお願いします」


 職員の女性が、椅子から身を乗り出す勢いで言った。


「こちらです」


 ミユキは戸惑いつつもカードを差し出す。

 それを受け取った彼女は、まるで宝石を手にしたような手つきでカードを確認し、何度もミユキの顔を見返す。

 ミユキは少し居心地が悪そうに、困ったような笑みを浮かべていた。


「た、確かに。少々お待ちくださいね!」


 お姉さんの声が少し上ずっていた。

 ガタッと椅子から跳ねるようにして、お姉さんはギルドカードを持って小走りで奥の執務室に飛び込んでいった。


「Sランクになると随分反応が変わるんだね」


 以前ミユキは「Aランクはそう珍しいものではない」と言っていたことを思い出す。

 確かに、これまでギルドカードを提示したことはあるが、俺たちとミユキに対する反応の差はそこまででもなかった。


 だが、今回は明らかに違う。

 言われてみれば、国境を越える前の管理局でも、ミユキは何やら職員に声をかけられていたような気がする。

 

「Aランク冒険者は難度の高いクエストをこなしていけばたどり着くけど、Sランクになるにはギルドや国の推薦が必要なんだよ。大陸でも50人いないんじゃないかな」


 実際、Sランクという言葉を耳にしたのか、近くにいた他の冒険者たちがこちらをちらちらと見ていた。

 中には驚いたように口笛を吹いている者もいた。

 先日のミューズ、ドミニアの討伐はかなり成果として大きかったようだ。

 ミユキはそれ以前の経歴でもゴルドールへの貢献があるし、文句なく推薦されたのだろう。


「私もちょっと驚いています」


 ミユキはそう言って苦笑する。

 

「せっかくだしもっとアピールしていったら? そしたら向こうからクエストが寄ってくるよ」

「アピールってどんなです?」


 レオナの言うことにも一理あるとは思った。

 見た目だけじゃ誰がSランク冒険者なのかは分からないのだ。

 ましてやミユキは多少目立つ容姿だが、強そうに見えるかというとそんなことはない。

 多少声高に言っていったほうが、危険度の高いクエストとの遭遇率は上がりそうな気はする。

 レオナもたまには良いこと言うなと感心していると


「やっぱ目立ってなんぼだし、ビキニアーマーとか着」

「絶対に却下ですっ」


 褒めて損した。

 どうでもいいが、この世界に来てビキニアーマー着てる女戦士は見たことないなと思った。

 帝都でミユキと買い物に出たときに、売っているのは見たのだが。


「すみませんお待たせしました!」


 お姉さんが奥から1冊のファイルを持って戻ってきた。

 本当に非公開クエストがありそうな雰囲気だ。


「この冊子にございますが、秘匿性が高いのでこちらのカウンターでご覧いただけますか?」

「分かりました。ありがとうございます」


 灰色の分厚い表紙に挟まれたファイルの中には、10枚程度の非公開クエストが記載された依頼書がファイリングされてある。


 ミユキはそれを受け取り、ティアと一緒に開いた。

 俺とレオナも後ろからのぞき込む。


 チラリとしか見えていないが、貴族や王族に関連する領地の調査や、公的機関の内部調査など、掲示板に貼りつけて公にはできなさそうなもののようだ。


 ページをめくりながら、その中の一つにティアが注目する。


「あった。ノルドヴァルト騎士学院の調査、これだね」

「おおー、本当にあるとはね」


 一枚の依頼書をファイルから取り外し、手続きを行うミユキに手渡す。

 レオナが驚きの声をあげるのを聞きつつ、中身を見せてもらう。 

 そこにはこう書いてあった。


 ノルドヴァルト騎士学院にて行方不明者が発生。

 内部調査されたし。関係者の聞き取りでも認識のある者と無い者がおり、不自然さが見受けられる。

 また失踪直前、生徒の一部に記憶障害が発生するなど異常の兆候も見られた。

 学内における重大な隠蔽行為の可能性あり、注意して調査のこと”


 行方不明者が出ているが、騎士学校内でもそれを知っている者と知らない者がいるという意味だろうか。

 いずれにせよ、学校内を見てみないと分からないということだろう。


「なんで非公開任務なんだろう?」

「王族貴族の子どもや、各国の軍関係者も通っていますからね。ある程度信頼性のある冒険者に依頼する必要があると判断されたのでしょう」


 ミユキの言葉に、受付のお姉さんもうんうんと頷いている。


「受託されますか? であれば重要性の高いクエストなので、こちらの書類に記入をお願いします」 


 お姉さんはカウンターの上に俺たちの人数分の紙を並べた。

 誓約書のようなもので、クエストで得た情報を外部に漏らしたり悪用したりすると、ギルド規約違反や法律違反などによる罰則があるといった注意事項が記載されている。


「受けます。みんなもいいよね?」


 ティアの言葉に、俺たち3人は頷いた。

 ノルドヴァルト騎士学院の調査クエスト。

 今回は青白い生き物の目撃情報などは無いため、まだミューズに関連しているかは分からない。


 だが、既に不穏な気配が漂っている以上可能性はありそうだ。

 俺たちのロングフェロー入国後最初のクエストが決まった。


 全員誓約書にサインをし、俺たちはギルドを出て騎士学校へと足を進めるのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。

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